プラスマイナスゼロ
はじまりは、落ちてきた一匹の蛇だった―。なんか最近、アタシら死体に縁がねーか?凸凹女子高生トリオが、海辺の町・葉崎を駆け抜ける!ドタバタ×学園×青春ミステリー。
【目次】
そして、彼女は言った―葉崎山高校の初夏
青ひげのクリームソーダ―葉崎山高校の夏休み
悪い予感はよくあたる―葉崎山高校の秋
クリスマスの幽霊―葉崎山高校の冬
たぶん、天使は負けない―葉崎山高校の春
なれそめは道の上―葉崎山高校、1年前の春 (「BOOK」データベースより)
神奈川県の「盲腸のような」、架空の町・葉崎を舞台にした、若竹七海のミステリー。
大好きなんですよね、葉崎の話。
資産家が市に寄付をした山の上の土地は、高校として使われることになりました。
建てられた「葉崎山高校」までの通学路は、資産家がつけた条件によって、山道そのもののまま。
3年間に一度も怪我をすることなく登下校をし通すのは至難の業です。
先をゆく学生が滑ったり転んだりすれば、その後ろを歩いていた数人まで、団子になって転がり落ちます。
「プラス・マイナス・ゼロ」は、そんな学校に通う同級生3人組を評したある教師の一言です。
名実ともに極めつけのお嬢様で成績もすばらしいけれど、運の悪さもピカイチという、テンコ。
真っ赤なショートヘアと長いスカート、物おじせずに言いたいことを言い、周りを引かせてしまうユーリ。
そして、成績も美貌も何もかも、平均値で目立つことのない私、ミサキ。
その3人を「プラス・マイナス・ゼロ」とは、よく言ったものです。
これだけ違う3人なのに、ウマが合い、入学以来一年、仲よく行動を共にするようになります。
違いがあるからこそ惹かれあうのでしょう。
一緒にいても、影響し合って同化することもなく、それぞれの色のまま、居心地よさそうにしているのがいい感じです。
おもにテンコの運の悪さが、登り道の手すりを壊したり、樹齢何十年という大木が倒れてきたりという場面を招くのですが、あろうことか、死体まで招いてしまいます。
そして何匹もの大きな蛇も。
ユーモアたっぷりで、楽しく読みすすめることができました。
若竹作品は、ホラーや、後味悪いまでにブラックなものもありますが、この一冊はそういうものに出会う心配・ゼロ、です。
でも、ミステリーの楽しさはたっぷり。
悔しいまでにやられてしまった1篇もありました!
葉崎在住の、あの作家の名前も登場します。
「ゼロ」と称され、同級生にも印象の薄いと言われているミサキですが、謎に出会っての推理力はなかなかのものです。
すべてに平均点で自分に自信がなかった彼女が、テンコやユーリと一緒にいることで、活き活きしてくる様子がとてもさわやかでした。
この作品、samiadoさんの紹介で知りました。
出版社は、ジャイブ。
若竹作品は葉崎を舞台にしたものが数多いのですが、光文社・祥伝社・集英社など…
実は、ジャイブという出版社は、今回初めて知りました。
Wikipediaによりますと、
ジャイブ株式会社(JIVE Ltd.)は日本の出版社。玩具メーカーのタカラ(現タカラトミー)の系列出版社として設立された。タカラトミーの提携先であるガンホー・オンライン・エンターテイメントの作品(「ラグナロクオンライン」等)や、かつてタカラグループだったブロッコリーの作品(『ギャラクシーエンジェル』『デ・ジ・キャラット』等)を始めとする、キャラクターコンテンツを元にした雑誌・漫画・小説などを発行。またアメリカンコミックやテーブルトークRPGの発行も行っている。
2006年4月にタカラトミーの経営合理化の一環として、株式はポプラ社に売却されており、現在はポプラ社の傘下となっている。
とのこと。
なるほど、若い読者にもぴったりの作品なわけです。
5月になると毎年、どういうわけか、さわやかな陽気とはうらはらに、鬱々とした気分になってしまい、面白いはずのことにも心が弾まなくなってしまいます。
せめて明るい物語を読んで、心に薫風を通したいと思うのです。
この一作は、まさにうってつけでした。