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 昼下がりの迷宮~

 昼下がりの迷宮~

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2009.05.28
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   猫島ハウスの騒動

葉崎半島の先、三十人ほどの人間と百匹以上の猫がのんきに暮らす通称・猫島。
その海岸で、ナイフが突き刺さった猫のはく製が見つかる。さらに、マリンバイクで海を暴走する男が、崖から降ってきた男と衝突して死ぬという奇妙な事件が!二つの出来事には繋がりが?
猫アレルギーの警部補、お気楽な派出所警官、ポリス猫DCらがくんずほぐれつ辿り着いた真相とは。 (「BOOK」データベースより)



ノベルズ版が出てから、読みたい気持ちを抑えに抑え、文庫化されるのを待っていた一冊です。
若竹七海の葉崎シリーズ、文庫本で本棚に揃えたかったものですから。

やっと思いがかないました――背表紙を並べることも、そして読むことも。
葉崎ワールド満喫の一冊です!


先日読んだ『プラスマイナスゼロ』(感想はこちら)も舞台は葉崎。
これは若竹七海氏が創作した架空の地名です。
神奈川の江ノ島辺りが突然細長く隆起でもしないかぎり、この先も存在することはないでしょう、とのこと。
とはいえ、読んでいる間は、三浦・逗子・葉山・鎌倉・江ノ島…あのあたりを思い浮かべつつ、潮の香りを感じながらページをめくってしまいます。

今回の舞台は、その葉崎のさらに先、干潮時のみ陸繋島となる、猫島です。
地図上の正式名称は他にありますが、野良猫・飼い猫とわず猫であふれている(ニュージーランドの羊よろしく人口よりずっと多く住んでいる)という、小さな島です。

楽しく賑わう観光地のはずのその島で起きる、不穏な事件。
これまでの葉崎シリーズと同じく、そこに暮らしている人々の思惑が交錯しながら、展開して行きます。


登場するのはたくさんの猫。
正直なところ、私、猫はあまり得意ではない(ベランダの四隅には猫よけの炭を置いて警戒しているくらいです)のですが、愛情たっぷりに描かれた本書中の猫たちの活躍には、楽しませてもらいました。

そしてもちろん、たくさんの人が出てきます。
シリーズでお馴染みになった駒持警部補も今回はかなり印象的に出演しています。
猫や、他にもアレルギーがあるなんて存じませんでした…お気の毒ではありますが、尚いい味出してます。
葉崎のコロンボ、と呼んで差し上げたいです。
飄々としてやる気なさげな若い巡査の七瀬くんもまた、いい。

が、もっといいのは、若竹作品ならではの元気な女性たちです。
主人公は、洋風民宿(ペンション、と言わないところが良い!)<猫島ハウス>を経営する松子の孫娘、高校生の響子ですが、
前向きで、気が強くて、勉強を好きだと思ったことはないけれど実は賢くて、しっかり者で、働き者で、よく食べる。
こういう子が、若竹作品にはよく出てきますよね。
私が若竹作品に惹かれるのも、そのせいかもしれません。

彼女たちが食べているお料理の数々も、実においしそうです。
「生しらす丼」とか
「特製サンドイッチ――葉崎牧場のローストビーフ、新鮮なレタスとトマト、葉崎牧場のホームメイドチーズ、ツル子さんお手製のマヨネーズ、ホースラディッシュにマスタードを、猫島の唯一のベーカリー<チェシャ・キャッツ・チーズ>のしっかりしたパンにはさんだという逸品」とか…

書き方はざっくりしたものですが、いかにもざっくり手際よく料理されたというふうなそのメニュー、読んでいると、猫島が満ちたりたいい所に思えてきます。

「本日のメインメニューは、葉崎牧場の特性フィレ肉のステーキ(空豆のバターライス付き)、猫島近海でとれた新鮮な金目大のアボカドソース(夏野菜のソテー付き)」
…そしてお客さんに饗したあとのまかない飯が
「朝ごはんの残りの豆腐とあまった空豆と牛肉の端きれと夏野菜で作り上げられた、エスニックな香りのする不思議な炒め煮を、ご飯にのせてひたすらぱくついて」…

こんなご飯を食べたら、私もきびきびと惜しみなく、身体を動かして働いちゃいましょう!

人が尋常でない死に方をする話ですから、海の街のさわやかな物語、ではないですし、若竹七海描く人々はそれぞれが、酸いも辛いも、明るいもどす黒いも、秘めて生きています。
でもそれがまた、いい塩梅でいい味わいなんですよね。


これだけの人々の断片的な記憶や、ひょんな出来事が、物語の終焉に向かって収束されていくのも、見事で実に快い読後感です。
(ただひとつをのぞいて、なのですけどねw)
この、暴風雨のあとの「ストン」と納得、という感じが、癖になってしまうんです。


毎日少しずつしか読めなくて、読んでいるうちに朦朧として、
文中に今し方書かれていたことや、
昨日読んだはずの内容、
自分が鎌倉の海を訪ねたときの思い出、そこに
テレビで見た食堂のメニューや、
テレビで見た商店街の「明日『アド街を見た!』と言ったお客さんには800万の品を600万に値引きします!」というお店のことやら、
私の頭の中の葉崎の景色やら、夢うつつに混沌とまざりながらの情けない読書でした。

したがって、新たな展開になるたびに
「あれ、あの話はどこで証言されてたっけ」
などと引き返し引き返し…
買ったばかりの文庫本が、使いこまれた受験生の参考書のように膨れてしまいました!

途中で、これはノートに時系列を追ってメモしながら読むべきか、と思ったくらい。
それでは味気ないようにも思え、(またチョット面倒でもあり、)実行には至りませんでしたが、
若竹作品の緻密さは、どんなメモをとった読者をも、唸らせるでありましょう。


数日楽しみましたが、もう一度一気読みしたい、楽しい一冊でした。


こちらも、もう一度読み返したい、葉崎シリーズ。

 ヴィラ・マグノリアの殺人

ここに出てくる可愛い双子ちゃんたちが、響子のクラスメイトとして登場していました!


 古書店アゼリアの死体

葉崎FM放送の渡辺千秋ちゃんもまた、元気で活躍中でした!


こちらも、葉崎が舞台になりますよ。

   クール・キャンデー

   死んでも治らない

   プラスマイナスゼロ


表紙はどれも杉田比呂美さんのイラスト。ぴったりの雰囲気です。













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最終更新日  2009.05.29 13:07:20
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