トークバトル、とは言いながら、バトルというよりはパーティー。
「談議」とするのがぴったりのような、和やかで楽しい盛り上がりでした。
喜国先生は、乱歩邸の蔵書を見て火が付き、古書のコレクションを始めたそうです。
でも「結局どんなにしても、乱歩にはかなわないんだもん」。
と言いつつ、ロシア語の乱歩本など自慢の数冊を御披露されました。
また、数年前、創元社から複製出版された乱歩の『貼雑年譜』。
200部限定のうち3先生とも1部ずつお持ちで、喜国先生は御自分のシリアルナンバーが御自慢とか。
その前後のナンバーをどの作家先生が持っている、などとお仲間の名前を次々に出されました。
このあたりの御自慢加減が、唯一「バトル」ぽかったかも…
豪華、というより、作家仲間の酒席のおしゃべりを伺っているようです。
楽しい。
有栖川有栖先生の奥様とのなれそめ、なんて話もありました。
小学校の教室で、男子がホームズ派とルパン派にわかれて<トークバトル>していたところ、ホームズ派の有栖川先生の前に、1人の女子が来て一言、
「乱歩がええわ」。
この一言が将来を決めたんだよね、と笑うお三方。
笑いつつ感心しつつ、そんな話していいのかなぁ、なんて思っていると
「有栖川クン、来てますか?…たぶんどこかにいるはず」 わぁ~。
乱歩邸を初めて訪ねた時のお話(それぞれどんなに興奮したか)があったあと、話題は乱歩を離れて、創作の近況など。
綾辻先生が書くペースが遅いのが、心配されているようだが…と北村先生。
かつて、アイデアが山とあると豪語していたよね、とからかわれ、綾辻先生は
「山とあるとは言っていなくて、書いていれば人生が終わるくらい、と言ったのですが」と…。
それでも、他の人の作品とだぶったり、アイデアが時代とともに風化したりと、目減りすることはあるそうです。
北村先生はそれについて、
「他の人が書いたとしても、知らなければ書けるよね」
と笑いながら、かつて読んだ名作はトリックも覚えているが、新作は覚えられないので逆にあぶない、とも言われました。
たとえば『玻璃の天』で足跡トリックを使ったが、そうしたトリックは、書かれたものが山とあった…とは思ったが、思い出せない。
だから、違うものを、とは思わず、<さばき方の妙>で書くことにした。
犯罪を全体の中にどう位置づけるか、ということだ。
綾辻先生。
マジックも、トリックも、もう種は出尽くしている。
組み合わせを進化形にする、ということだ。
前例にはこだわらないが、知らずにいるのは怖い、とも思う。
でも、自分が書けば自分のミステリーになる、という気持ちはある。――ここ、しびれました。
喜国先生。
マンガの世界だと、ギャグがかぶった、とか、こっちが先だ、というのはよくある。
今でなければ書けないモチーフ(のりぴーとか、石田純一とか)というのもある。
これに綾辻先生、
ミステリーのアイデアをあたためていても古びることがある、というのと同じ。
モチーフが、もうお腹いっぱい、という感じになってしまうのだそうです。
「第二の横溝」という言い方はあるが「第二の乱歩」とは聞かない。
乱歩 イコール ミステリーそのもの、なのでしょう、
という喜国先生に、北村先生も
「乱歩はもう、ひとつの世界なのだと思う」
と言われる場面もありました。
このあたり、お話が盛り上がって、いろいろな話題に飛んだのですが、印象深かったのがある映画の話。
この夏の選挙で衆議院議員に当選した田中美絵子氏が、以前映画で肌を出していたことで、あれこれ取りざたされていることについて、喜国先生が
「誰も言ってないけど、あれはいかがわしいものではなくて、乱歩の『猛獣対一寸法師』を原作にした映画なんですよね」
かつては高倉健の映画なども数々撮影した、石井輝男監督。
乱歩が好きでカルトムービーなども撮っているこの人が、晩年、お仕事がなくなって、もう1本好きなものを撮れば?と仲間に言われて作ったのがこの映画。
実に低予算だったので、出ている人も、監督友達とか、製作スタッフみたいな人ばっかり、という、文化祭映画みたいなもの。
はっきり言って面白くはないが、いい仕事だとは絶対言える。
主演はリリー・フランキーで、公開時はファンの女の人たちが舞台挨拶をキャーキャー見に来た。
そういう映画なのに、あんなふうに言われて!
田中さんだって、まぁ肌は見せてますけれども、言われるようなこと、ではないと思う。
お三方口をそろえて、このように言っておられました!
(まだまだつづく…)