謎解きはディナーのあとで
ミステリー界に新たなヒーロー誕生!? それは、国立署の新米刑事にして世界的な企業グループの総帥の娘という宝生麗子、ではなくてその家の執事影山なのだ! 執事が安楽椅子探偵になった日本初のミステリー。
「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか?」令嬢刑事と毒舌執事が難事件に挑戦。ユーモアたっぷりの本格ミステリ。
【目次】
殺人現場では靴をお脱ぎください/殺しのワインはいかがでしょう/綺麗な薔薇には殺意がございます/花嫁は密室の中でございます/二股にはお気をつけください/死者からの伝言をどうぞ(「BOOK」データベースより)
毎年楽しみにしている『このミステリーがすごい!』のランキング。
その後の1年の本選びの参考にするのです。だから、話題から1年遅れ、みたいな読書になってしまうのですが…
中にはときどき、1冊か2冊、読んだ本がベスト20に入っていることもあって、親戚の子が紅白に出ますよ的な喜びがあります。
今年のその1冊がこちらでした。
東川氏の新刊、新しいキャラクターの連作短編ということで、夏から楽しみに待っていて、10月頃読んだのでした。
考えてみると、烏賊川市のシリーズや、鯉ヶ窪学園モノなど、これまで読んだ東川作品はどれも長編。短編はこれが初めてです。
そのせいか、ひねりの利いた伏線と収束の、ダイナミックな仕掛けがないことは物足りないような感じがしました。
とはいえ、それぞれのミステリは相変わらずの本格もの。しっかり楽しめます。
怪しい容疑者ははじめから登場していて、手がかりもきちんと示されています。
まことにフェアな、ミステリ。しかし、気づけないんだなぁこれが…
なにしろ、登場人物のキャラクターが楽しすぎる。
主人公は国立署の新米女性刑事・宝生麗子。
上司や同僚には隠していますが、小高い丘に建つ豪邸に暮らす、財閥のお嬢様です。
その令嬢がスイスイ謎をといてしまうのかというと全然そうではなくて、考えあぐねて悶々としているところに、鮮やかに推理してみせるのが執事の影山。
執事と言っても、若いし、本当はプロ野球選手になりたかったとか。なぜ執事になったのかわからない。そこもミステリ!
執事が安楽椅子探偵、というと、『黒後家蜘蛛の会』みたいですが、この影山ときたら腰は低くないし控えめでもない。
推理に行き詰まる麗子に「お嬢様の目は節穴でございますか」と毒舌です。
そしてその毒舌は、読みながら犯人がわからないでいる読者にも向けられているわけで。
さらにもう一人、いいキャラクターなのが、麗子の同僚の風祭刑事。
こちらも、麗子の家ほどではないのですがかなりのところの御曹司。それを惜しげもなくひけらかしているのが、残念を通り越していい味なのです。
軽い味付けのものを作りながらスタイルを確立させて、濃くてスケールの大きい一品を生み出す力をつける、というのは腑に落ちる流れですが、今回の東川作品の場合は、言ってみればその逆です。
新しいかたち、それに似合う新たな味付けでありながら、これまでのファンに期待されるユーモアや本格ミステリはしっかりと織り込まれていて、型は小さくなっても、全く薄くない。
ベストセラーになっているのも頷ける楽しさの一冊。ファンとしては売れて嬉しいけれど、ちょっとコアな人たちで分けていた楽しみ、みたいなものもあったので、ちょっぴり複雑ではあります。エヘ。
*おまけ*
今回も、脳内でキャスティングしてみました。(よろしければ文字を反転させてご覧ください)
執事の影山(あのイヤミなセリフを、あの声で是非)・・・向井理
同僚の風祭刑事(かっこいいはずなのになんか残念、なところをこの人に)・・・藤木直人
宝生麗子(3人の中で一番難しかったのですが、やっと決まりました。)・・・倉科カナ
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