ソウルから1日、羽田着で帰ってきて、はや4日が過ぎた。
出発も羽田発だったが、この時、チェックインまで時間の余裕があったので、新装なった国際線ターミナル、出発ロビーの上の4階にある、大江戸情緒たっぷりの街並みを再現した土産物屋を見て回った。話題になっていただけにごった返していたが、なるほど羽田空港国際線利用の際は一見の価値はある(この写真はまた別の機会に)。
◎地下深くを走る地下鉄、そして清潔なトイレ
さて今回のソウル旅行も、あちこち歩き回った。前回は、初めてのソウルだったので、運賃の安いことを活用して1日に何度もタクシーを乗ったが(前回はたった1回だった)、今回は地下鉄をフル活用した。ソウルは、東京以上に地下鉄網が整備されている。しかも運賃は格安だ。利用しない手はない。
ソウルの地下鉄は、一般に地下深くを走る。東京の大江戸線並みである。北朝鮮の爆撃を想定して、ソウル全市民が待避できる防空壕の役割を果たしているからだ。ソウルの地質は、丘を見れば分かるが、ほとんど花崗岩で出来ていると推測できる。これくらい深ければ、核攻撃されても破壊されないだろう。実際、今回の大延坪島への砲撃後に一気に高まった緊張で、政府はあらためて万一の場合は地下鉄構内への避難を呼びかけた。
そしてトイレがきれいなことに、初めて利用してまず驚いた(ただし観察できたのは、当然のことながら男性用)。空港かホテルのトイレと見まごうほどだ。日本の東京メトロのトイレが不潔で異臭を放っていることから比較すれば、雲泥の差だ。きっと1日に何度も掃除しているに違いない。その事情は、後でうすうす推察できた。おそらくクリーンクルーの人件費が安いのだろう。
◎すべての駅にホームドア
そして5路線も乗ったので、驚いたのだが、すべての路線、すべての駅にホームドアが設置されていた(写真上=地下鉄2号線の駅ホームで)。ソウルの知人に聞いたら、全路線・全駅がホームドアなのだという。
そのおかげで、ソウルでは地下鉄の人身事故がない。東京メトロでは南北線と丸ノ内線の一部で設置されている程度で、人身事故がしょっちゅう起きている(それで私の利用する地下鉄は頻繁に乱れる)。以前に酔っぱらいに突き飛ばされて地下鉄にひかれて不運にも死亡した高名な大学教授がいたし、自殺も頻繁に起きている。日本は、地下鉄の安全性でソウルに大きく遅れている。
地下鉄車内で、携帯電話の通話が自由らしいのは、日本人の目から見ればマナーの点でいかがかと思う。どの車両でも、必ず数人は通話中だ。私の前に立っていた男性は、降りるまで3駅間は携帯でしゃべっていた。日本の地下鉄では駅間で通話が途切れるが、ソウルでは通話が途切れることはないそうだ。しかし車内マナーでは、日本が一日の長があると思う。
◎車内に頻繁にやってくる物売り・物乞い、運賃が安いから?
地下鉄マナーの点でどうかと思うものに、頻繁に物売りと物乞いが来ることだ。ある時、音楽CDを鳴らしたキャリーバックを引いたおっさんが隣の車両からやってきて、車両の真ん中(私の座っていた目の前だ)にバッグを据え(地下鉄が走り出した時に動かないように、手製のストッパーまで装備していた)、大音量で音楽を流しながら、各座席を回り、そのCDを販売していた。当然、誰も関心を示さない。おっさんは、車両内を一巡すると、ストッパーを上げて、キャリーバックを引いて隣の車両に移っていった。
車内物売りは、うるさいこと、おびただしい。売る物は、衣料品だったり、非生鮮の食品だったり、いろいろだ。何度も見たけれども、誰も買う人はいない。それでもそんな「流し」をやっているのは、ソウルの地下鉄料金が安いからだろう。
いかに安いか。9月の日記でも書いたけれども、初乗り1000ウォンである(約70円)。チケットは自動券売機だが、韓国語の他に、英語、日本語、中文(中国語)を選択できるから、旅行者でも誰でも不自由なく買える(写真中)。最後の帰国の日、市中心部のホテルに近いウルジロイック(乙支路入口)駅から金浦空港駅まで地下鉄チケット買うと、料金はたった1200ウォンである! 1回乗り換えで約40分ほど乗ったから、距離は20~30キロはあったはずだ。それでいて、日本円で80円ちょっとなのだ!
物売りが地下鉄を販売場所にするのも、肯けるとというものだ。
◎無料紙読む人、回収する人
ちなみにチケットは、プラスチックのキャッシュカード状のもので、紙ではないからコストがかかる。そのため購入時に500ウォンの保証金を運賃と別に支払う。自動改札を通して降車後に、そばに設置されている専用機に乗車カードを投入すると、500ウォンのコインが戻ってくる。回収されたプラスチックチケットは再利用されるので、新品同様のものからいささか縁がすり減ったものまで、券売機から出てくるチケットはいろいろだ。
各車両を移動して回ってくるのは、物売り・物乞いだけではない。ソウルっ子が車内で読んでいるのは、駅の入り口で無料配布されているタブロイド判の無料紙(フリーペーパー)だ。東亜日報など大判の有料紙を街頭のキオスクのどこでも売っているが、ついぞ有料紙を読んでいる人を見かけなかった。
で、無料紙を読んでいた人は、降車時に網棚に捨てていく。これもマナー違反?と見たら、違った。必ず回収するおっさんが現れるのだ。彼らは大きなバッグを下げ、車両毎に網棚の無料紙を手際よく回収していく。おそらくおっさんたちは、それら無料紙を古紙回収業者に売っているのだろう。地下鉄料金が安く、無料紙が配られるソウルならではの商売である。
以上のことから、ソウルでは東京以上に貧富の格差が大きく、失業した極貧層はいろいろな知恵を使って、その日暮らしをしているのだろうと考えられる。
◎地下鉄駅の竹島の模型
最後に、日本政府がぜひとも留意して欲しいのは、主な駅の地下道に竹島(韓国名「独島」の精密な地形模型がケースに入って展示されていたことのだ(写真下=後述のアング駅地下道で)。大きさは、各辺1.5メートルくらいで、実にリアルに出来ている。ご丁寧に韓国語の他に、英語と日本語の説明も付いている。
私は、この模型をアング(安国)駅と金浦空港駅の2カ所で見た。だから、主要駅にはだいたい設置されているに違いない。
竹島は、現在、韓国が実効支配しているが、島の主権をめぐって日本は自国領と主張していることは周知のとおりだ。ところが竹島の模型など、どこにも見られない。ソウルを旅行した欧米人と日本人は、竹島は韓国領だと誤認するだろう。
中国漁船衝突事件ではっきりしたように、スターリン主義中国は尖閣諸島を自国領に強奪しようと企んでいる。日本は、ただ「いや、日本領だ」と弱々しく反論するだけだ。
大した金がかかるはずはないのだから(朝鮮高校の授業料無償化の資金を転用すれば、簡単に費用は捻出できるだろう)、尖閣諸島の模型を製作して、主要駅や公共施設に展示して、尖閣諸島の存在をいまだに知らない日本国民と外国人旅行者向けに広く広報すべきではないのか。
国土の主権とは、不断の広報がなければ守れない。竹島の例を見て、日本はどうやら竹島の主権を放棄したように見えてしまうのだ。