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カテゴリ:人類学
細やかながら、日々、鍛錬でフィットネスクラブに通っている。 マシーンに向かって走るのは苦しく、そして冬なのに30分もたつと汗が噴き出す。やがて額を流れる塩分を含んだ汗が眼を襲う。目に入ると痛いので、しばし脚を休めて持参のタオルで、汗を拭う。 そんな時、フッと考えた。ネアンデルタール人なら、この苦労もないかもしれないな、と。 ◎役割がよく分からない古人類の眼窩上隆起 4万年前にヨーロッパから忽然と消えたネアンデルタール人は、隆々と発達した眼窩上隆起が第1の特徴だ(写真=フランス、ラ・フェラシー洞窟、5万年前頃)。ただ、これはネアンデルタール人だけではなく、それ以前の初期人類に共通する顔面形質であり、いやもっと広く類人猿にも見られる。 それが弱々しいものになり、やがて消えたのは、現生人類ホモ・サピエンスからである(写真=最古の中東のホモ・サピエンスの1つ「カフゼーⅨ」、9万年前頃)。このカフゼーⅨは、前述のラ・フェラシーよりも確実に古いのだが、それでも早期ホモ・サピエンスなので、眼窩上隆起は明らかに弱まっている。 眼窩上隆起の役割は、よく分かっていない。硬い食物を噛むための頭部への衝撃を吸収するためだとか、強い太陽光から眼を守る庇なのだとか、あるいは雌に対する雄としての強靱さを示す性的アピールのためだともされる。 ただ、額から流れ落ちる汗を眼に入れないバリアにはなっていた、というのが、その時の僕の思いつきだ。 ◎サバンナに出たホモ・エレクトスは汗で困った? 前述したように眼窩上隆起は、アウストラロピテクスやホモ・エレクトスなどの初期人類にもよく発達していた。いや、類人猿の場合はもっと極端だ(写真=チンパンジー頭蓋模型)。 基本的な疎林居住者だったアウストラロピテクスはまだしも、二足歩行を確立して熱帯のサバンナに生活の場を求めたホモ・エレクトスは、流れる汗の処置に困っただろう。ちなみにこの頃、類人猿的な体毛を失っていたはずのホモ・エレクトスは、熱帯のサバンナへの適応として汗腺を発達させていた、と考えられる。 タオルやハンカチなど無い彼らは、汗を拭うこともしなかっただろう。体部については、それでもいいが、額から流れ落ちる汗の処置には困るだろう。塩分を含む汗が眼に入れば、痛いのだから。 ◎狩猟技術の進歩で汗をかかなくなった適応か しかし発達した眼窩上隆起があれば、汗は、顔面両脇から流れ落ちて眼には入らない。 寒冷なヨーロッパに進出したネアンデルタール人も、その骨にたくさん残されている骨折痕から、大型動物の狩猟に身を挺していたことが想定されている。寒冷地でも、どくどくと汗を流したに違いない。 しかしホモ・サピエンスは、投げ槍などの洗練された狩猟具を開発した。狩猟でも、ネアンデルタール人ほどには汗をかかなくなったかもしれない。 眼窩上隆起が弱々しくなり、やがて消失したのは、そんな適応ではないか、と僕はふと思ったのである。むろん火をフル活用して、食物を調理し、より軟らかい食物を食べられるようになったのも、眼窩上隆起の退縮化を促進したに違いない。
昨年の今日の日記:「長崎・五島、世界遺産の旅④:漁師食堂で朝からキビナゴの刺身、美味くてご飯をお代わりしてしまう」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202012150000/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2021.12.15 05:25:40
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