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カテゴリ:お仕事@インド企業
前回の日記では、「中国語を通じて、中国の社会に深く入り込んでいく」ことをテーマに書きましたが、今回はその逆に、「中国の社会にうまく溶け込めないために起こる、さまざまな問題」について書いてみます。
---------------------------- 昨年の春、中国・大連での勤務が始まる前後、中国の主要都市では、連日、反日デモが盛り上がりを見せていました。それは、日本のニュースでも非常に大きく取り上げられ、私の友人も、「あんな物騒な国に行って、本当に大丈夫か?」と、心配してくれたものでした。 ですが、フタを開けてみれば、別に、なーんともありませんでした。それもそのはず、中国の民衆は、別に、「反日」でも何でもありません。日本のマスメディアで喧伝されるほど、日本人に対して、悪感情を持っているわけではない。いや、もっとハッキリ言ってしまえば、彼らにとって、日本など、あまり眼中にないのです。 また、日本でよく言われることに、「中国人は、60年以上前の戦争の記憶を未だに引きずっている(だから日本人とは仲良くしない)」、というのがありますが、これもまた、的外れのように思います。 中国人は、日本人が考えるほど、過去にこだわったりはしません。中国の都市を歩くと、価値ある歴史的建造物や遺跡が、いとも簡単に取り壊されて、高層ビルに変わったりしています。それに象徴されるように、彼らは過去に囚われるどころか、自らの手で、ドラスティックに、「過去」と訣別することができる人々です。彼らと比べると、むしろ日本人の方がずっと、歴史文化伝統の連続性にこだわる民族のような気がします。 中国人とは基本的に、「今、この瞬間を生きる人々」だと思います。中華4000年の絢爛豪華な歴史伝統に育まれてはいますが、意識の上では、今、この瞬間が楽しいか、気持ちいいか、カッコいいか・・・みたいな基準で考え、行動しているように見えます。そんな彼らが、60年以上も前の侵略戦争の記憶から、日本人を未だに許せない、みたいな、ジメジメした感性の持ち主とは思えない。ま、中にはそういう人もいるんでしょうが、割合からすれば、少数だと思いますよ。 では、なぜ昨年、反日デモがあそこまで盛り上がったのか?・・・それに答えるためには、いまの中国が、非常に不平等感の強い、矛盾に満ちた社会であるという事実を、押さえておく必要があります。 ---------------------------- いま、多くの中国人は、この国の富や権力が、一握りのお金持ちや役人に牛耳られていると感じています。お金のない家庭や地域で育ったり、学歴がない人々は、社会的上昇のチャンスも非常に限られます。 大都市に住み、学歴の高い若い世代は、社会全体からすると、非常に恵まれているように見えますが、彼らの生活も非常に苦しい。教育費も、不動産価格も、以前と比べて、ベラボウに高くなり、給料の伸びだけでは全然追いつきません。 そのフラストレーションの矛先が、どこへ向かうかというというと、まずは、同国人のお金持ちや役人に向かいます。日本で報道されることはありませんが、広い中国のどこかで、ほぼ毎日のように、暴動か、それい近い出来事が起こっています。 その、お金持ちに対する怒りの一部が、ある種のきっかけで、日本人に向けられることがある・・これこそが、反日デモがなぜ起こったのかを説明する、より現実的な論拠のように思います。もしそうであれば、問題の一端は、中国に住む日本人自身にあるのでしょう。 いま日本企業は、すでに中国の各地に進出していますが、一般的な傾向として、日本から来た駐在員と、現地採用された中国人との間に、生活レベルや給料・待遇の面で、非常に大きな差があることが多いようです。 たとえばの話、日本人駐在員が、町で一番の超高級マンションに、会社のお金で住まわせてもらっているのを横目に、中国人の一般社員は、なけなしの給料のなかから、高い家賃を自腹切って払わなければならないのであれば・・・彼らの胸中は、「不公平」の3文字で満たされることでしょう。 とはいえ、私は日本人駐在員が、「郷に入れば郷に従え」で、皆中国人社員と同じレベルの生活をすべきだとまで、言ってるわけではありません。 日本と中国とは、まだまだ生活水準に差があります。中国人社員の平均的な住まいは、多くの日本人にとって、快適な居住に耐えうるレベルでないことが多い。また、言葉の違いや、(中国に連れてきた)家族の教育問題もあるし、また仕事の面では、日本の本社と同じレベルの成果を求められたりもする。だから現実問題として、通訳サービスとか、日本語の教育サービスなどが利用できる、それなりの「高級マンション」に住んで、気持ちよく仕事に専念できる環境を作ってあげる必要は、それなりにあると思う。 とはいえ、やはり、ものごとには限度があると思うのです。仮に日本人駐在員と中国人社員との間に、「天と地」のような待遇差があったなら、それは望ましい姿とはいえないでしょう。 今度は逆に、中国人社員が日本に「駐在」したとして、日本でどのような扱いを受けるのかを、考えてみましょう。 私の職場の例を挙げます。当社は米国企業ですが、日本法人と中国法人があります。最近は、中国法人に勤務する社員が、日本法人に一時期派遣されて、ソフトウェア開発等に従事することが多くなりました。 その際に支給される手当や住居費は、米国本社の規定した基準に従うのが原則です。そこまではイイんですが、最近、「それでは高すぎる。安くしろ!」という声が、日本側から上がってきました。 日本での住居費を安くあげるために、日本側の提示してきた案というのが、まさに噴飯ものでした。まるで中学生の修学旅行に使うような、便所も風呂も共同の、「しょんべん長屋」みたいな部屋!そんな所に、中国人社員を住まわせようとする感覚に、私は唖然としてしまいました。 この案を提示した日本人に聞きたい。あなたはそんな所に住めますか?中国人社員に住まわせたいんだったら、その前に、ご自分で家族連れて住んでみてください。また、あなたは日本人社員が中国に出向したら、どんな家に住むか知っていますか?普通は、町で一番の高級マンションに住むんですよ。だったら、中国人社員が東京に出向した際は、麻布十番とか、南青山の高級マンションに住まわせたっておかしくない。それが釣り合いってものでしょう? これに象徴されるように、日本人が中国で行っているビジネス慣行や、それを裏付ける価値観には、私の目からみても、健全なバランス感覚を欠く面が少なくありません。要は中国人を、対等なパートナーとして扱わない態度が目立つのです。これが、中国人の目にどう映っているのか・・・それに思いをめぐらせることができれば、なぜ中国で反日デモが起こったのか、その答えの半分は分かったも同然だと思います。 私は日本企業や日本人だけを批判しているわけではありません。中国に進出している、欧米企業にも、いろいろな問題がある。とはいえ、優秀な中国人社員の間で、「欧米企業は日本企業よりも、社員をフェアに扱う」という評判があるのを、折につけ耳にすることも事実です。 もしこの問題が改まらないのであれば、中国で一番優秀な人材が、欧米企業に流れてしまうという意味で、日本企業にとっても無視できぬ損失になるでしょう。 中国でビジネスをして利益をあげつつ、中国人社員の福利厚生やキャリアアップを第一に考える。日本人駐在員との間に極端な待遇差をつけない・・・その辺の知恵、健全なバランス感覚が、日本企業に求められてくるのでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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