中高年の生涯学習

下ネタで申し訳ないが、便所で「うんこ」をした後、この「うんこ」はどこへ行くのか、皆さんは御存じですか。一般のジャーナリズムでは、優秀な記者でも、この話題を追究する人はいない。どこに行くか、当たり前ではないか、下水管を通って下水処理場へ行って「処理」されるのではないか。そんな事を追究したって、あまり意味がないではないか。ここでこの話題は終わってしまいそうである。子どもの疑問のようで、大の大人が話題にするのもはずかしい。

本題に入る前に、筆者の経験談から始める。盲腸の手術をした後、病院の便所で便が出なくてこまった。病的な状態なので仕方ないのであるが、便が出ない状態、つまり便秘ということは普通の状態でもよくあることだ。便所へ入ったが便が出ない。病院の便所の中で、いろいろ工夫してみた。体を前に倒したり、呼吸をゆっくりしたり、足のかかとを浮かして、つま先立ちにしたり、便器に座りながらいろいろ体位を変えてみた。1日目は失敗。2日目には成功した。便が出た。

「うんこ」の語源を調べてみると、いきむ声の「うん」に小さいものを表す接尾辞の「こ」が付いたものと出ていたが、本当かどうかは疑わしい。解剖学の本で調べてみると、「おしっこ」の尿とは別ルートで「うんこ」は産出される。食べ物が口から入って、食道を通り、胃へ入る。胃は胃液を分泌し、ぜん動で食べ物を撹拌し粥状にする。続いて十二指腸で消化される。小腸で栄養が吸収され、大腸には吸収されなかったものが送り込まれる。ここで便の状態に固形され、直腸に送り込まれる。便は直腸の壁を刺激し脳に便意を伝える。肛門には自分の意思でコントロールできる外肛門括約筋とコントロールできない内肛門括約筋がある。
便意が伝わると内肛門括約筋をゆるめて、腹圧で便が肛門から出る。

この直腸とS字結腸が直角になっているため、便の詰まりを起こすことがあり、これが「うんこ」が出にくくなる原因である。これで病院の便所で体を曲げたり起こしたりした運動の効果の原理がわかった。ただしこれでうまく「うんこ」が出るという保証にはならない。からだの状況によって変わることは間違いない。
ちなみに尿は腎臓で産出されて、膀胱にたまる。

問題は下水処理場であった。某下水処理場を見学する機会があった。某とぼかしたのは、見学の説明者が周辺住民への反発に対する配慮をしている雰囲気があったせいである。障害者施設や下水処理場が自宅周辺にできると土地の価格が下がると反対運動を起きることがある。住民エゴなのだが、自分の家族に障がい児が生まれたら、自分の便はだれが処理しているのか、と想像力が働けば、これら施設の必要性は理解できるはずである。

処理場の建物だけみると、近代的な普通のビルであるが、中へ入ってみると大変な施設であることがわかる。それはビルの地下に大規模な仕掛けが作られているのである。エレベーターで地下1階に下りると、広大な地下世界が眼の前に広がる。ビルの下には大規模な沈砂地（ちんさち）が設置されている。下水はここに流れ込み、思い砂や大きなゴミ類をスクリーンで取り除く場所である。続いて最初沈殿池（さいしょちんでんち）で大きな汚泥を沈殿させる。この汚泥はスラッジセンターへ送られる。スラッジは英語のSludgeで沈殿物、汚泥の意味である。スラッジセンターでセメントに加工される。「うんこ」がセメントになるというのも驚きだが、巨大タンクに送られた汚水は、酸素を吹き込んで浄化される。最終沈殿池できれいになった上ずみ水を消毒して川に流している。

別の処理場では、この水を紙の再生工場に送り、トイレットペーパーを作っている。紙の再生工場の前庭に池が作られていて、中には鯉が泳いでいた。この池の水は下水処理場から送られた水と言う説明を聞いた。紙を作る工場は大量の水を使うので大抵、川の近くに作られている。海の近くの工場では下水処理場の生産した水を使っていたわけだ。

この水は鯉が生息できる程きれいなものだが、さらに高度浄化を施された水がせせらぎ公園に供給され、子どもが遊べる水辺の風景を作りだしている。
徹底したリサイクル思想が構築されている。わが「うんこ」が大変な社会貢献を行っているのがわかり、便所へ行くのが楽しみになった。