東野圭吾「私が彼を殺した」
加賀恭一郎シリーズの第五弾。加賀は前作の「悪意」では練馬署から警視庁捜査一課に戻っていたが、今作では再び練馬署の所属となっている。シリーズ第三弾の「どちらかが彼女を殺した」と同じく、犯人を提示しないまま終わる。「どちらか~」が二者択一だったのに対し、今作は三者択一で難易度が増大。これも「どちらか~」と同じく、巻末に袋とじで真犯人解明のヒントを掲載しているが、あくまでヒントであり、真犯人を明かしているわけではないのも「どちらか~」のときと同じ。以下、ネタばれあり。毒薬カプセルの入手は三人とも可能であり、真犯人特定の材料とはならない。問題は、二つあるピルケース(ひとつは穂高の前妻のもの)を摩り替えることが出来たかどうか。ということで真犯人は、穂高の前妻にまつわる荷物を自室に置いていた駿河なのだが、正直、これは袋とじを見なければわからない。振り返って読めば、無神経な穂高も、さすがに前妻とのおそろいのTシャツなどは美和子に見られないよう、ダンボールに入れて駿河の部屋に置かせていたというような記述があって、そうとわかるようになっている。単なる犯人当てパズルにならないよう、わがままな作家とそのマネージャー役、女にだらしない作家とその女編集者、兄妹相かん等、どろどろした人間関係をちりばめているが、個人的には犯人当てパズルの要素ははずして、この設定で深繍綿々たるミステリーにして欲しかった。それくらいおもしろかった。