加藤陽子「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」
東京大学の教授が、歴史オタクの中高生を相手に、五日間に亙って行った特別講義を基にして執筆されたもの。日清、日露の両戦争から、第一次世界大戦、満州事変、支那事変を経て、第二次世界大戦へと至る過程が詳細に述べられるが、なにしろ対象が中高生なので、頗る分かりやすいし、また、おもしろい。作中で紹介された、米スタンフォード大学のマーク・ピーティーの言葉を、ここでも紹介する。引用始め。近代植民地帝国のなかで、これほどはっきりと戦略的な思考に導かれ、また当局者の間にこれほど慎重な考察と広範な見解の一致が見られた国はない。日本の植民地はすべて、その獲得が日本の戦略的利益に合致するという最高レベルでの慎重な決定に基づいて領された。引用終わり。つまり、英仏ら、日本に先行した植民地帝国は、まずは資源と海外市場獲得という商業的な理由、次いで本国の過剰人口のはけ口として、失業問題の解決策として、社会政策的な理由から植民地を獲得していったのだが、日本だけは、ほぼ安全保障上の理由からのみ植民地の獲得が行われた。実に、瞠目すべき指摘である。