カテゴリ:生活雑記
さて、近道をして県道へ出たものの困ったことが起きた。飲み水がないのだ。旅館でペットボトルのお茶を買おうとしたがあまりの高さに買うのを止めた。前日マイクロバスで送ってもらった道を戻れば自販機があったのに、近道をしたため目的地まで自販機がないことを覚悟した。どうやらその予想は当たったようだ。まあ良い。リュックの中には梨もリンゴもミカンもある。それを食べれば水分補給になるだろう。
七北田ダムまでの道は長閑で良かった。色づく秋の田。道端の野菊や萩。初めて通る道と初めて見る集落は、まるで桃源郷の隠れ里のように感じる。やがて前方にロックフィル式のダムが見え出した。道は急坂となり雨も強くなった。喘ぎ喘ぎ登り、ようやくダムを見下ろす公園に到着。そこで小休止し、梨を剥いて食べる。早くも喉が乾いたのだ。 そこへ1台の車が停まり青年が降りた。手には釣竿。そしてその先にゴム製のワーム。気味悪がった妻が「何それ?」と聞く。「釣りのためのゴムの虫だよ」と私。どうやらかなり大きいブラックバスが釣れるようだ。青年は柵を乗り越えてダムへ向かい、私達は再び雨の中を歩き出した。 旅館でもらった地図は、コースがはっきり分かるけど縮尺がない。念のために持って来た別の地図と見合わせて多分12、3kmくらいと想定してるのだが、道はくねくねと曲がりアップダウンの連続。その上に雨だ。どうしても目的地が遠く感じる。途中までつけていたラジオも消した。黙々と歩く妻と私。私は雨中のレースにも慣れているが、妻は疲労が増すにつれて気持ちが切れて来たようだ。ついに登り坂で遅れ出す。 「宮城町立大倉小学校白木分校」の標識を見つけたのはそんな時だった。宮城町が仙台市へ併合されてから久しい。それがそのままなのは、合併と同時に閉校されたのだろう。最後の登りを終えて道が下りになった途端に妻の足は速くなり、疲労骨折の左足が痛んで逆に私が遅れ出した。ようやく大倉小学校に着いたのは12時10分過ぎ。そこから定義に向かうバスはなく、仙台行きのバスが間もなく来る。私達はずぶ濡れになった衣服を脱いで着替え、予定を変更して仙台へ帰ることにした。 ハプニングは次々に起きた。バスがダムの堰堤を通って大倉川の右岸に出た時にバス停が見えた。ダムの上が狭いため一方通行で、定義行きのバスは何と川の向こうの道路を通っていたのだ。また熊ヶ根で降りてJRの駅に向かったが、1kmも離れていた上に熊ヶ根で停まる電車は2時間以上なかった。そこは無人駅だったのだ。幸い作並温泉始発のバスが間もなく来て私達は救われ、車中でお握りを食べているうちにようやく体も温まった。 ずぼらな計画で泣いたハイキングだったが、こうして何とか帰宅することが出来た。家に着くと、退屈したマックスが犬小屋の側に大きな穴を掘っていた。まる一日留守番で頑張ったマックスだ。彼を叱ることは出来ない。鍬で穴を埋め、荷物を片付けた後犬小屋に行くと、彼は前よりもさらに大きな穴を掘っていた。<完> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|