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マックス爺のエッセイ風日記

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2020.05.27
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カテゴリ:人生論
<死にゆく兄を悼む>

        

 走り梅雨のような雨が続く3日目の朝、義姉から電話があった。電話が鳴るとハッとしてディスプレーの電話番号を確認する。義姉だと分かっていよいよかと覚悟。兄が入院して2か月、医者も出来るだけの手は尽くして、後はもう死を待つだけになり私は「不祝儀」を準備した。新型コロナ騒動の真っただ中にある今は、義姉でさえも面会出来る状態になく、兄も機械で生かされているだけだった。

             

 葬儀に関する義姉の意思は分かった。それで不祝儀の袋に名前を書き、お金を包んだ。きっと宮崎の弟も来るはず。彼の後添えの連れ子が先日亡くなったことを義姉を通じて知ったが、そのお悔やみもしてないまま。そちらの分の袋に名前と金額を書き、お金を包んだ。きっと弟はわが家に泊まるはず、その時に手渡そうと思う。36歳で倒れて以来45年近く、兄の面倒を観続けて来た義姉。

  
 
 私たち兄弟は幼少時から家庭的に恵まれず、姉も家庭不在のままに死んだ。高卒後私と弟は独立し、ともに転勤族となって全国を回った。だから兄弟としての付き合いもほとんどないまま今日を迎えた。だが兄は良い義姉がずっと介護してくれた。弟も良い前妻が亡くなった後、素敵な後妻と出会った。それに比べ50年近く付き合った前妻が大金を持って家を出た私は、独り暮らし。人生の厳しさを感じる身だ。

      

 気の赴くままに幾つかの句を詠んだ。間もなくあの世に旅立つ兄への挽歌になれと。

    
      雨の日や薔薇咲き早も薔薇散りぬ
      走り梅雨兄発ちたるか死出の旅   *たち
      六月の雨や死にゆく兄の貌    *かお  
      小満や兄の死に顔見ざるまま   *しょうまん
      生も死も美しきかな薔薇ぞ散る

      父逝きて姉兄続く卯月かな    *うづき
      生も死も八十年の卯月かな
      青梅や会はざるままに兄逝きぬ
                  六月や死にゆく兄の涙雨

            

              梅雨寒やチェロ聴き歳時記繙く日  *ひもとく
              ともかくも酢味噌に和へむ葱坊主
              走り梅雨五つ違ひの兄逝けり      

            

        のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて 足垂乳の母は死にたまふなり

 母の死に際して斎藤茂吉(歌人・精神科医=斎藤茂太、北杜夫兄弟の父)はそう歌った。玄鳥(つばくらめ)はツバメのこと足垂乳(たらちね)は「母」にかかる枕詞。母が息を引き取ろうとするまさにその時、喉が赤いツバメが二羽家の屋梁(はり)に止まっていた。

 精神科医としての冷静な観察だけでなく、生母に対する深い愛を感じる。それはやはり幼児期から母に愛された記憶が濃厚に残る証だろう。だが父母の愛を知らないままに育った私たち兄弟は、愛だけでなく哀しみの感情すら乏しいのかも知れない。

    

   
    雨降りて十薬伸びる寓居かな  *じゅうやく=ドクダミ *ぐうきょ=仮住まい

   十薬に庭奪はれし寓居かな

                  

 義姉から兄が危篤に瀕していることを聞いたその日から、心に浮かんだ俳句を書き留めている。このブログは予約機能を使って書いており、実際は24日の日曜日。まだ兄の訃報には接していないが、45年以上の間病と闘って来た兄だけに、覚悟が必要だ。瀕死の肉親をすら俳句にする私だが、どんな非難にも耐えよう。死も生も生きとし生くるものの定め。誰しも逃れることは出来ない。





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Last updated  2020.05.27 10:54:19
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