ピアノのオーディション
半年前、あねたんの通っているピアノの先生が、突然「ピアノのオーディションに試しに出てみませんか?」とお声を掛けてくださった。最初は子供の弾くピアノに順位をつけるのはいかがなものか??と思ったので丁重にお断りをしたのだが、このオーディションは、同じ作曲家の曲を、年齢で区切ったいくつかの部門に分かれて行い、本選に残ってオーディションに合格したあかつきには、CDに収録される・・というものだった。その部門はいくつにも分かれており、予選テープ審査の締め切りである3月上旬の時点で、A部門は幼稚園児童、B部門は小学生低学年、C部門は小学生高学年D部門は・・と細かく分かれているので、A部門ででるならば最年長の歳ででることはとても有利だし、なにより目標に向かって練習することが、今後の子供にとってすごくプラスになる・・との先生のお話だった・・・。まあ、予選に挑戦することは、いい経験になるかもしれないし、万が一にも奇跡的にCDに残れば、一生の宝物になるだろう、ま、ありえないとは思うけど・・と、軽い気持ちで「では、よろしくお願いいたします。」と申し上げた。・・・そう・・・最初は・・・。11月から譜読みをはじめ、曲の選択は自由だったので、比較的簡単なものを選んだので、譜読み自体は苦労はしなかった・・。あねたんの選んだ曲は2曲。「インディアンの踊り」と「大宮殿」しかし、譜読みの後の音楽性を出す、表現するところからが大変だった。曲のイメージを先生がお話くださっても、6歳のあねたんは「インディアン」そのものを知らない。「大宮殿」って何なのかわからない。インディアンの出てくるビデオを見せたり、バッキンガム宮殿の写真集やベルサイユ宮殿のネットでの写真を見せたりして、あねたんなりのイメージを作りやすくする。それでも、実体験がないので、大変だった。私がインディアンになってあねたんのピアノに合わせて「アワワワ~」と槍(代用品はあさがおの支柱)持ってグルグル回りながら踊ってみたり、大宮殿では恰幅のいい王様になってマントをひるがえし踊ってみせたり・・。それでもなかなか頭の中のイメージを音に乗せて表現することが難しいようで、言葉で説明しても、心が感じていなければ音に乗ってこないので、とにかく時間がかかった。とりわけ、苦労したのは(結局最後の本選本番までやってもたどり着けなかったが)、大宮殿の最初の八分音符2つのアフタクト。4泊目から入るのだが、どうしても1泊目のようになってしまう。そして、4拍子なのに、強弱中強弱ができない・・。最後の最後まで苦しんだ。3月8日が予選のテープを送る最終便の日。この日は、1時間以上をMD取りに費やし、もうしまいには何がよくて、何が悪いのかわからなくなってしまって、何回も何回も取り直し、夜に郵便局の本局までいって郵送したほどだった。よくあやたんも頑張ったと思う。もう遣り残したことはない、やっと終わった・・。きっと予選通過は無理だろうけれど、いい経験になった。そうほっとして、すっかり結果のことなど忘れていた。そして入学を控えた4月のある日。===あなたは予選を通過しました。本選のCDオーディションは5月3日です===うへえええええええええええええ!!まっじ~!!!!!!!!!これが率直な私の第一声だった。(あねたんもまゆまゆも家にはいなかったので思いっきり本音を叫んでしまった)(ごめんなさい・・。先生・・)すっかり終わったと思っていたオーディションの予選に思いがけなく通り、身に余るような機会を与えていただいて、ここから1ヶ月は必死にならないわけにはいかなかった。あねたんも毎日毎日よくぞここまで・・と思うほど練習をした。(といっても時間にすればそれほど長い間ではなかったけれど、とにかく彼女は必死でがんばりました)そして最後の1週間は、私も夕飯の支度が思いっきり手抜きになり、ある日などは私が必死になりすぎておなかが痛くなってパパに外食をお願いすることになってしまった。当のあねたんはケロッとしていたけれど、ママは胃炎になってしまったんだよ~~。そして迎えた前日のレッスン日。もう、ここまできたらやるだけのことはやった・・と達成感があって、あねたんも私も結構落ち着いてレッスンを受けることができた。先生からも「落ち着いて弾くことができれば大丈夫!本当によくここまでがんばったわね、あねたん、よくやったね」と身に余るお言葉を頂いて、余計に、心穏やかになりました。そしていよいよ5月3日。少しお指の運動のつもりで2回ほど聞き、あとは大好きなディズニーのテレビをみてリラックス。まゆまゆと冗談を言い合ったり鬼ごっこをしたり、と普段と変わらぬ様子で緊張している様子もあまりありません。私はといえば、公開録音なので、おじぎもしてはいけない、もちろん拍手もだめ、静粛に・・といろいろな注意書きを何度も何度も読み直しては、大丈夫、大丈夫、絶対大丈夫。と何度も何度も言い聞かせ、パパも口数が少なく、なるべくあねたんにはあまりピアノの話題を振らぬよう気遣っているようでした。会場には30分以上も早くついてしまい、コンサートホールのあるビルの1階にあるテラスで、姉妹そろって駆けずり回り、汗をかくほど・・・。一緒に出場する同い年のお友達と合流したらますますパワーアップ・・・。でもこれがよかったようです。本人は全然オーディションを受けるという意識はなく、まあ、舞台にいって間違えずに弾いて帰ってこれば、OK!と思っているので、リラックスして望めたようです。本番30分前に、子供たちが召集され、楽屋へと消えていきました。そこからの30分間の長かったこと・・・・。今までで一番長く感じた30分でした。そして第一奏者の子が、出てきて弾き始めました。「めっちゃうまい!!」第二奏者の子も落ち着いて弾いていて、さすがは予選を通った子です。これまたうまい!そしてプロの音楽家たちが弾くホールなので、なんと音の美しいこと・・。ピアノもあのスタインウェイ!いよいよ第三走者のあねたんが出てきました。広い広い舞台に一人きり。もう私たち大人が同行できる場所ではありません。自分で今までの練習の成果を出し切るしかないのです。足台を直していただき、椅子の高さも調節していただき、弾き始めました。私は微動だにできませんでした。横に座っていたまゆまゆの手をぎゅっと握り締め、頭は真っ白、体はガチガチ、そして涙がほほを伝いました。親ばかです。ほんとに世界一の親ばかです。間違えずに弾き終えたわが子を舞台に駆け上がって抱きしめたい衝動をぐっと押さえ、心で拍手喝采をしました。音楽性がどうとか、表現力がどうとか、音の質がどうとか、全然覚えていません。とにかく弾ききった、このことだけで、一人で舞台にたってこの緊張のなかで弾ききったことだけで、もう大満足でした。1時にオーディションが始まり、すべての奏者が弾き終わったのは5時半でした。そのあとミニコンサートがあって結果発表は6時半ごろでした。結果は、2曲弾いたうちの1曲「インディアンの踊り」が合格!50数曲のうちの1曲としてCDの中に収められることになりました。先生もオーディションを受けた教え子が3人とも合格して本当に嬉しそうにしていらっしゃいました。私たちも喜び3倍、手に手をとって喜び合いました。そして何より、頑張ったあねたんに、こころから頑張ったね!とぎゅっと抱きしめました。わが子ながらここまでやり遂げるとは思わなかった。本当に見事です!!自分のことより嬉しい!大変な半年間でしたが、記念のCDもそうですが、この半年の経験そのものがあねたんと私たちにとって一生の宝物となりました。この機会を与えてくださったピアノの先生と、オーディションを開催してくださったすべての先生方に心から感謝の意を表したいです。本当に本当にありがとうございました。そして、こんなおやばかな日記を読んでくださった方、本当にありがとう。そして馬鹿な親でごめんなさい。でも、どうしても残しておきたかったんです・・・。