南風一の世界

　キスの味　　　南風一

別れ際　別れがたくて
思わずきみの頬にキスをした
きみはちょっとのけぞった素振りをしたけれど
まんざらでもない風だった

「ああ　びっくりした」と言いながら
「さよなら」と言って自転車に乗って
去って行った・・・

もう４０年も前の出来事かな・・・
きみは短大を出たあと
地方銀行に勤務していた

私が大学２年生になる春だったかな？
その夏休みだったか？
親友を誘って一緒にドライブを楽しんだ

後年
その親友から聞いたところでは
親友のお兄さん（彼は彼女が勤務する県庁支店のすぐ斜め前で歯科医師をしていた）
のところに彼女のお見合い写真が回ってきたけれど
親友のお兄さんは断ったとのことだった

私がキスした可愛い彼女は
医者と結婚して
すぐ隣県へ引っ越して行ったとのことだった

うーん
結ばれぬ恋とはいいながら
彼女と過ごした春の休日は楽しかったなあ
俺がキスしたときの驚いたような彼女の顔が
照れくさそうで
可愛かった

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