|
カテゴリ:司法試験
![]() Aは,個人で営んできた自動車修理業を会社形態で営むこととし,友人Dにも出資 してもらい,甲株式会社を設立した。甲社は,取締役会及び監査役は置くが,会計参 与及び会計監査人は置かないものとされ,取締役には,Aのほか,以前からAに雇わ れていた修理工のB及びCが選任されるとともに,監査役には,Aの妻Eが選任さ れ,また,代表取締役には,Aが選定された(以上の甲社成立までの手続には,何ら 瑕疵はなかった。)。 ところが,甲社では,取締役会が1回も開催されず,その経営は,Aが独断で行っ ていた。そのため,Aは,知人Fから持ち掛けられた事業拡張のための不動産の購入 の話にも安易に乗ってしまい,Fに言われるまま,手付名目で甲社の資金3000万 円をFに交付したところ,Fがこれを持ち逃げして行方不明となってしまい,その結 果,甲社は,資金繰りに窮することとなった。 1 甲社の株主であるDは,A,B,C及びEに対し,会社法上,それぞれどのよう な責任を追及することができるか。 2 AがFに3000万円を交付する前の時点において,この事実を知った甲社の株 主であるD及び監査役であるEは,Aに対し,会社法上,それぞれどのような請求を することができたか。 【答案】 一 小問1 1 代表取締役Aに対する責任追求 (1)Aが、取締役会に諮らずに、知人Fから持ち掛けられた不動産購入を独断で決めたことは、任務懈怠(423条1項)にあたるか。 日常業務執行であれば、取締役会の権限を取締役に委任することができる(362条4項参照)。ところが、本件不動産購入は、事業拡張目的の用地取得であるから、日常業務執行にはあたらず、取締役会による決定を必要とする「業務執行」(362条1項1号)にあたる。ゆえに、Aの独断行為は、善管注意義務(330条、民法644条)、忠実義務(355条)に違反する任務懈怠(423条1項)にあたる。 その結果、Aが交付した会社資金3000万円をFに持ち逃げされ、会社は資金繰りに窮する「損害」が生じている。 したがって、Dは、甲社に対し、Aに損害賠償責任(423条1項)を追及する訴えを提起するよう請求できる(847条1項本文)。また、要件をみたせば自ら代表訴訟によりAの責任を追及することができる(同条4項)。 (2)Dは、Aに対し、429条1項の損害賠償責任を追及することができるか。 同条項の趣旨は、株式会社の活動が役員等に依存し、社会的影響が大きいことによる法定責任である。そこで、「第三者」とは、会社・役員等以外のものを意味し、株主もふくむ。次に、「悪意又は重大な過失」は、第三者の損害についてでなく、任務懈怠についてあれば足りる。そして、「損害」とは、直接損害にかぎらず、間接損害もふくむ。 本問では、まず、株主Dは「第三者」にあたる。次に、Aの独断行為は、任務懈怠について「悪意又は重大な過失」が認められる。そして、結果として会社の窮迫のために株主Dに生じた株価の下落という間接損害も「損害」にあたる。 したがって、Dは、Aに対し、自己に生じた損害の賠償責任を追及することができる(429条1項)。 (3)Dは、Aを株主総会決議により解任するという手段で経営責任を追及することができる(339条1項)。 そして、法定の要件を満たせば、解任の訴えにより同責任を追及することができる(同条4項)。 2 取締役B・Cに対する責任追及 (1)B・Cは、取締役会の構成員たる取締役(362条1項)として、Aの業務執行を監督する職責を負う(362条2項)。ところが、B・Cは、甲社では1度も取締役会が開かれていなかったのに、取締役会の招集を請求(366条1項)せず、Aの独断経営を放置した。そして、本来取締役会で決すべき不動産購入にかんしてAの独断をゆるした結果、Fによる会社資金の持ち逃げを防ぐことができなかった。よって、任務懈怠が認められる。 したがって、Dは、甲社に対し、B・Cに損害賠償責任(423条1項)を追及する訴えを提起するよう請求できる(847条1項本文)。また、要件をみたせば自ら代表訴訟によりB・Cの責任を追及することができる(同条4項)。 (2)Dは、B・Cに対し、その任務懈怠によって自己に生じた損害の賠償責任を追及することができる(429条1項)。 (3)Dは、B・Cを株主総会決議により解任するという手段で経営責任を追及することができる(339条1項)。 そして、法定の要件を満たせば、解任の訴えにより同責任を追及することができる(同条4項)。 3 監査役Eに対する責任追及 (1)Eは、監査役としてAら取締役の職務の執行を監査し、その適正を図るべき職責がある(381条)。 ところが、Eは、甲社では1度も取締役会が開かれていなかったのに、取締役会の招集を請求(383条1項)しなかった。そして、本来取締役会で決すべき不動産購入にかんしてAの独断をゆるした結果、Fによる会社資金の持ち逃げを防ぐことができなかった。よって、任務懈怠が認められる。 したがって、Dは、甲社に対し、Eに損害賠償責任(423条1項)を追及する訴えを提起するよう請求できる(847条1項本文)。また、要件をみたせば自ら代表訴訟によりEの責任を追及することができる(同条4項)。 (1)Aが、取締役会に諮らずに、知人Fから持ち掛けられた不動産購入を独断で決めたことは、任務懈怠(423条1項)にあたるか。 日常業務執行であれば、取締役会の権限を取締役に委任することができる(362条4項参照)。 ところが、本件不動産購入は、事業拡張目的の用地取得であるから、日常業務執行にはあたらず、 取締役会による決定を要する「業務執行」(362条1項1号)にあたる。ゆえに、Aの独断行為は、 善管注意義務(330条、民法644条)、忠実義務(355条)に違反する任務懈怠(423条1項) にあたる。 その結果、Aが交付した会社資金3000万円をFに持ち逃げされ、会社は資金繰りに窮する「損害」 が生じた。 したがって、Dは、甲社に対し、Aに損害賠償責任(423条1項)を追及する訴えを提起するよう 請求でき(847条1項本文)、 要件をみたせば自ら代表訴訟によりAの責任を追及することができる(同条4項)。 (2)Dは、Aに対し、429条1項の損害賠償責任を追及することができるか。 同条項は、株式会社の活動が役員等に依存し、かつ、社会的影響が大きいことによる法定責任である。 そこで、「第三者」とは、会社・役員等以外のものを意味し、株主もふくまれる。 次に、「悪意又は重大な過失」は、第三者の損害についてでなく、任務懈怠にあれば足る。 そして、「損害」は、直接損害にかぎらず、間接損害もふくむ。 本問では、まず、株主Dは「第三者」にふくまれる。次に、Aの独断行為は、任務懈怠につき 「悪意又は重大な過失」が認められる。そして、これによる会社の窮迫により株主Dに生じた 株価の下落という間接損害も「損害」にあたる。 したがって、Dは、Aに対し、自己に生じた損害の賠償責任を追及することができる(429条1項)。 (3)Dは、Aを株主総会決議により解任するという手段で経営責任を追及することができる(339条1項)。 そして、法定の要件を満たせば、解任の訴えにより同責任を追及することができる(同条4項)。 2 取締役B・Cに対して (1)B・Cは、取締役会の構成員たる取締役(362条1項)として、Aの業務執行を監督する職責を 負う(362条2項)。ところが、B・Cは、甲社では1度も取締役会が開かれていなかったにもかかわらず、 取締役会の招集請求(366条1項)もせず、Aの独断経営を放置し、本来であれば 取締役会で決すべき不動産購入にかんしてAの独断をゆるし、あまつさえFによる会社資金の持ち逃げを 防ぐことができなかった。よって、任務懈怠が認められる。 したがって、Dは、甲社に対し、B・Cに損害賠償責任(423条1項)を追及する訴えを提起するよう 請求でき(847条1項本文)、要件をみたせば自ら代表訴訟によりB・Cの 責任を追及することができる(同条4項)。 (2)Dは、B・Cに対し、その任務懈怠によって自己に生じた損害の賠償責任を追及することが できる(429条1項)。 (3)Dは、B・Cを株主総会決議により解任するという手段で経営責任を追及することができる(339条1項)。 そして、法定の要件を満たせば、解任の訴えにより同責任を追及することができる(同条4項)。 3 監査役Eに対して (1)Eは、監査役としてAら取締役の職務の執行を監査し、その適正を図るべき職責がある(381条)。 ところが、Eは、甲社では1度も取締役会が開かれていなかったにもかかわらず、 取締役会の招集請求(383条1項)をせず、取締役の行為差止請求(385条1項)をつうじて Aの独断経営を監査し、ひいてはFによる会社資金の持ち逃げを防ぐことができなかった。 よって、任務懈怠が認められる。 したがって、Dは、甲社に対し、Eに損害賠償責任(423条1項)を追及する訴えを提起するよう 請求でき(847条1項本文)、要件をみたせば自ら代表訴訟によりEの責任を追及することができる(同条4項)。 二 小問2 金銭交付前の場合 1 株主DのAに対する請求 (1)Aが、取締役会に諮らずに、本件不動産購入を独断で決めたことは、「法令に違反する行為」(360条1項)にあたる。そして、会社資金3000万円が流出すれば、会社は資金繰りに窮することになり、「著しい損害が生ずるおそれ」がある。したがって、Dは、法定の要件を満たせば、Aの行為の差止請求をすることができる(360条1項)。 (2)次に、Dは、Aが「法令に違反する行為」をしたことを理由に取締役会の招集を請求することができる(367条1項)。 2 監査役EのAに対する請求 (1)Eは、Aが「法令に違反する行為」をし、会社に「著しい損害が生ずるおそれがある」ので、Aに対し、行為の差止請求をすることができる(385条1項)。 (2)また、次に、Dは、Aに「法令に違反する事実」(382条)があることを理由に取締役会の招集を請求することができる(383条2項)。 以上(77行) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年07月31日 18時24分16秒
[司法試験] カテゴリの最新記事
|