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テーマ:座敷童子(17)
カテゴリ:精霊
このところ天気は良いものの、時々強風、いろんなものが飛んで行った那須です。
続きです。 ようやく一郎君と結ばれた美奈子さんは、そのことで頭がいっぱい、疲れて眠ったものの、翌朝も頭が働かない状況でした。 痛くなかったかと問われれば、少し痛かったのが真実だったのですが、それ以上に結ばれるべき相手と結ばれた満足感でいっぱいで、幸せだったのです。 何故結ばれるべき人と結ばれたと感じているのかは、よくわかりませんでしたが、自分の人生以上の時を待ち続けた人である気はしていました。 対する一郎君、美奈子さんと結ばれたことは喜ばしいと思っていましたし、彼の場合はちゃんと前世記憶があって、美奈子さんは、前前世で死なせてしまった女中「れん」の転生であることが見えていましたし、茨木の屋敷はその悲劇の場でもあって、彼女の幽霊に「幸せにしてあげる。」と子供の時に約束までしていたのです。 それなのに、人間的な感情に欠陥のあるサヴァンらしいというか、美奈子さんのような結ばれて幸せという特別な感慨はありませんでした。 単純に、美奈子さんは自分が結婚して一生を共にする相手であり、その予知どおりに進んでいるから好ましいことだ。それだけだったのです。 しかし、冷たいかというとそうではなく、それだけ大切にする相手だとは思っていました。 そして、一夜で全部経験してしまったことはもったいなかったかなと思いつつも、キスもセックスも、確かに快感ではあるけど、のめり込むようなものでもないと、冷静に判断していました。 そんなことを考えながら、同時に、昨夜の不思議な存在のことも考えることができるのが一郎君で、昨夜の白い影、美奈子さんは初めて見たようでしたから、2か月ぶりに会った真知子さんに聞いてみました。 「真知子さん、この家には座敷童さんはいるのですか。」 ポカンとする彼女に、昨夜見たものを説明すると、首を傾げられました。 「うーん、聞いたことないわね。でも、美奈子が座敷童と呼ばれていたことはあったわ。」 確かに、おかっぱ頭にすると、座敷童そっくりですし、仕事場でもそう呼ばれていたこともあったと聞いていましたから、思わず笑ってしまいました。 「あはは、職場でもそういわれていたそうです。」 「そうよ。おかっぱ頭にして和服着せてごらんなさい、もろ座敷童だから。」 そこで真知子さん、別のことを思い出しました。 「そうそう、弟が若いころ、結構夜遊びしてたのよ。」 弟とは、実家を継いでいる義守さんのことのようですが、夜遊びと言われてもぴんと来ず、どうやら女遊びらしいなという推測はできました。 しかし、そんなお店もありませんから、どう遊んだのか、疑問でした。 「ここには、キャバレーも飲み屋もありませんよね。どんな夜遊びですか。」 真知子さん、いたずらっぽくウインクしてみせました。 「夜這いよ夜這い。田舎って、結構おおらかで、みんなやってたのよ。」 「はあ。」 一郎君、博識ですから夜這いが何たるかは知っていましたが、今時そんな風習が残っているとは思っていなかったのです。 「それはそうと、義守さんと座敷童との関係は。」 「直接は関係なさそうだけど、ある晩夜這いに行って夜更け過ぎに帰ってきたら、ほら、うちの前に変な小山があるでしょう。」 言われてみると、佐藤家への入り口の手前で道路が不自然に曲がっており、そこに小さな盛り土というか、円墳のようにも見える丸い小山があったのです。 「ああ、確かにありますね。関西だったら古墳だと言うところですが、一つだけポツンとありますから、よくわかりませんね。」 真知子さん、古墳には思い至りませんでした。 「そうね。言われてみると、古墳なのかもしれないわね。堀ってみた人はいないようだから何とも言えないけど。あれ、由来は誰も知らないんだけど、バンニャマって言うの。」 ばんにゃまとは何じゃらほいと問い返したいところでしたが、真知子さんも知らないようですから、オウム返しになりました。 「ばんにゃまですか。」 「そう。それで、弟、酔っ払って帰ってきたら、バンニャマの上に小人が6人ぐらい並んで、ゴニョゴニョなにか話し合っていたんだって。」 それなら、昨夜の話声のようなものと共通点がありますから、一郎君、嬉しくなりました。 「それって、昨夜僕が最初に聞いた話声みたいなものと、共通しますよ。」 真知子、一郎はおとなしそうに見えるが、底知れない強さを持っていることを感じていました。 「あなたなら面白がって見ていられただろうけど、弟、本当に根性なしだから、怖くなって悲鳴をあげて家に駆けこんだの。」 「おやおや。その小人たちはどうなったのですか。」 一郎、その後を知りたかったのですが、だめでした。 「それを確かめられるような弟じゃなかったわよ。でも、とにかく怖かったらしく、それで夜遊びはぷっつりやめたの。」 それなら、別の考えもできそうです。 「じゃあ、ご先祖様が、義守さんの行いを正すようにと姿を変えて出たのかもしれませんね。」 これまた、真知子には新鮮な考えでした。 「あははは、一郎君は面白い考え方するわね。ところで、聞こうと思っていたんだけど、聞いていい。」 おかしな質問だと思いつつ、一郎君、うなずきました。 「どうぞ、なんなりと。」 「あなた、美奈子のどこが良かったの。気は良く付くし、家庭的で、少し太めだけど、器量も悪くないし、健康だから妻にするにはとってもいい女であることは認めるけど、あなたぐらいの学歴や家柄があれば、普通、こんな田舎の高卒の娘を相手にしないんじゃないかしら。」 一郎君、そんな考えは全くありませんから、臆面もなく言い切りました。 「美奈子さんほど妻にするのにいい女性はいませんよ。私は、学歴や家柄で結婚相手を選ぶ考えは持ちません。本人が良かった。それだけです。」 真知子自身そのとおりだと思っていましたが、京大卒の彼が言い切ると、かっこいいなと思いました。 「確かにそのとおりね。その言葉が聞けたら最高よ。美奈子は幸せだわ。」 美奈子さん、その時になって現れましたから、二人が何を話していたのかはわかりませんでしたが、姉が一郎君には好意的であることはわかりました。 客商売で人を見る目の有る姉が、若い男を気に入ることは大変珍しいことでもありましたから、一郎はそれだけのものを持っているのだろうと誇らしくなりましたし、そんな彼と一つになれたわけですから、改めて幸せだなあと感じました。 一郎さんと散歩でもしてきたらと姉真知子に言われて、彼を連れて外に出たものの、冬の山には雪こそなかったものの、周りは森しかありませんから、本当に散歩するしかありませんでした。 しかし、一郎君、冬木立でも木の種類がわかるらしく、ここには素晴らしい自然がある、春になったらまた来たいなと喜んでいました。 しばらく歩いた山の斜面に二人で寄り添って腰掛けると、美奈子は自然に彼の胸に顔をうずめました。 落ち着くなあ、二人で居られることはこんなにいいものだったんだと、また幸せの余韻に浸る彼女でした。 幸い晴れていましたから寒くはなく、そのまま1時間近く並んで座っていると、姪の美幸が、「美奈子おばちゃん、一郎おんちゃん。」と呼んでいるのが聞こえました。 何だろうと思って二人で歩いて行くと、「おじちゃんおばちゃんたちが集まったから、呼んできてって言われたの。」とのこと。 おじちゃんおばちゃんとは何のことかと一郎が美奈子に聞くと、彼女苦笑しながら、「私の婿の品定めよ。田舎の常識と思って我慢して。」と答えました。 一郎、妖精なのか妖怪なのかわからない存在たちも、娘に婿が来たと噂をしていたように思われましたし、婚礼は特に田舎では一大イベントだと聞かされていましたから、微笑んで答えました。 「そうなのか。じゃあ、君の家族の顔を拝みに行こう。」 家に帰ってみると、美奈子の兄弟姉妹6人のうち、山形に居る4人と真知子もそろったわけで、久々の全員集合だったのです。 でも、長姉長兄と美奈子は20歳以上離れていましたから、一郎、兄弟姉妹というよりも親子みたいだなあと思いました。 事実、長姉長兄の子供たちは、美奈子よりも年上でしたから、彼らにとっては、年下の叔母だったのです。 ですから美奈子、小さい頃から彼らに「おばちゃん。」と言われるのが嫌で、余り顔をあわせなかったのです。 二人がそろうと、美奈子の兄弟姉妹たち、両親をそっちのけで、一郎の品定めをしていましたが、若々しい容姿の割には落ち着き払っていましたから、こいつはただもんやない、との評価に達した様でした。 それで、一座をとりしきっていた長兄の信義が、「ここまで来たからには、美奈子を嫁とする覚悟はあると認めよう。」と言ってくれましたので、一郎、「次回は母を連れて挨拶に来ます。」と答え、美奈子を喜ばせました。 商売上手で、人には最も辛口らしい信義があっさり認めたことで、美奈子と一郎の結婚は一件落着したのですが、その時になって父の義永さん、一郎に言いました。 「大阪ちゅうところは、生き馬の目を抜く恐ろしいとこだと聞いていた。そんなとこから来た男に娘をやるとは思わなんだ。」 一郎は、笑い飛ばしました。 「まあ、お金に汚いところはありますが、私は美奈子さんを大切にするだけです。そうすれば、彼女も私を大切にしてくれると思いますし。」 義永、まだまだ男尊女卑の田舎の家長でしたから、彼の言うことがよく理解できませんでした。 しかし、娘は幸せそうな顔をしていますから、それもこの男の人徳かと考えることにしました。 二人の顔を見て、認めるか認めないかの結果さえ出せたら十分だったのか、実家の義守一家と両親を残して、昼食後皆さっさと帰ってしまいました。 美奈子と一郎二人は、東京に帰って、明日からの仕事のこともありますから、早めに帰ることにしました。 帰りも山形駅まで1時間でしたが、義守の運転ではなく、タクシー会社も経営していた信義が、自分のポケットマネーでタクシーを手配して送ってくれました。 山形駅までの間、疲れたのか美奈子は眠っていましたが、一郎の手をしっかり握っていましたから、運転手がそれを見て「いやあ、若い人は仲がいいと正直に出すからいいね。」と笑っていました。 山形駅からはまた上野までの特急(「やまばと」だったかなあ)だったのですが、冬の時期だったせいか乗客はまばらでした。 駅弁とお茶を買って、発車したら早めの夕食にしました。 食べ終わると、美奈子はタクシーの車内同様、一郎の左腕をしっかりつかんだまま眠ってしまいました。 その後が問題で、少し離れた席に居た中年のおばはんが、二人をチラチラと見て、けがらわしいようなものを見る目つきで嫌な顔をするのです。 おいおい、確かに僕と美奈子はまだ結婚していないけど、両親の許しは得て来たし、高校生に見えるかもしれないけど二人とも成人だし、べたべたしてるからって、何もそんな嫌そうな顔で見ないでもいいだろうと一郎は呆れました。 改めて美奈子の寝顔を見ると、付き合う前よりも少しほっそりして、美人になっていました。 うん、もっと美しくなるよ君は。 10年後には、広い家に住んで、猫も飼っているからね。おっと、その前に子供も生まれているはずだな。 でも、東京であんな庭付き一戸建てに住んでいるのも不思議だから、何か変化があるんだろうな。 一郎君の予知、途中はすっ飛ばしてしまいますから、何時もこんな感じだったのですが、絶対と言っていいほど当たります。 続く。 画像は、昨年末に保護した子猫2匹と成猫2匹です。 トラ、シマ、サビ、シロチャと名付けました。 不思議と成猫2匹の方が最初からなついています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 6, 2023 11:03:34 PM
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