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テーマ:座敷童子(17)
カテゴリ:神話・伝説・哲学
カメ一郎、カメ四郎、シロチャの3匹から、21匹一緒に座敷童さまのところに行って、時を忘れて過ごそうと提案された猫たち、何だかよくわかりませんでしたが、長老のミトラは、この家に来た15年前から座敷童さまを知っていましたから、それも悪くはないと同意し、長老ミトラがいいと言うならいいだろうと皆提案に乗りました。
早速シロチャが、飲み水に向かって「みんな一緒に行きますから、どうすればいいか教えてください。」と頼むと、座敷童さま、主人と奥方が外出するまで待てと答えました。 理由もわからず待っていると、二人は買い物に出かけて行きました。 「出て行ったようですが。」 シロチャが聞くと、座敷童さまは、彼に命じました。 「そこのガスレンジに飛びついてみろ。」 カメ四郎がガスレンジの上に乗って叱られたり、リンはおしっこして奥様に叩かれたりしていましたから、シロチャは確かめました。 「後で叱られませんか。」 座敷童さまは、冷たく答えました。 「後はないから、大丈夫だ。」 訳がわかりませんでしたが、シロチャは、座敷童さまに言われたとおりに飛びついてみました。 すると、彼らのいたずら予防のためにガスレンジの上に置かれていた木の板に前足が引っかかり、何とかはいあがると、恐ろしい偶然で後ろ足でスイッチを踏んでしまいましたから、ガスレンジの点火スイッチが作動しました。 しばらくすると、木の板が燃え始め、周りに燃え移り始めました。 「家が燃えちゃうよ。お家がなくなっちゃうよ。」 シロチャが泣きわめくと、他の猫たちも驚いて炎を見ていましたが、壁紙やレンジフードの隣の戸棚に入っていた大量のラップ類が一挙に燃えて一酸化炭素が発生したらしく、直ぐに皆気を失って倒れました。 一郎君と美奈子さんが買い物から帰宅した時には、台所は燃え上がっていました。 一郎君、車庫に停車した時に火災報知器が鳴っていることに気付きましたし、車から出ると焦げ臭いにおいがしましたから、猫が心配で飛び出した美奈子さんにはドアーを開けるなと怒鳴ったのですが、彼女、夫の言葉が耳に入らずあっさり開けて室内に飛び込みました。 5月にしては暑いぐらいの日だったため、窓の一部が開いていて、適度に空気が供給されていたことと、一酸化炭素が発生するものは燃え尽きた後だったらしく、バックドラフトはおこらず、最初に飛び込んだ美奈子さん、高熱は感じましたが、呼吸はできました。 一郎君が彼女の後ろから飛び込むと、台所に火の手が上がっていましたから、すぐさま消火を考えました。 実は、こんな時のために玄関や裏口の側には消火用にバケツに水を入れて用意していたのですが、冷静な彼ですら燃えている室内に入るとそんなことは抜けてしまい、まず大きなバスタオルを持ち出し、その時一番燃えていた食器棚を叩いてみました。 全く消えそうにないので、次は水道で濡らして叩きましたが、いくらかましになった程度で消火しませんから、ぱっと考えを切り替えて、外の水栓からホースを引っ張ってきて、車庫にあった延長ホースをつないで放水し、消火しました。 ほんの1分ぐらいでほとんど消し止めたところに、美奈子さんが呼んだ消防車が駆けつけて来ましたが、一郎君は、危険だからと消防隊員に家の外に出されてしまいました。 一郎君、猫たちのことは、消火している時に足元にシロチャの死体が転がっていたことしかわかりませんでしたから、美奈子さんに確かめました。 「猫たちは。」 美奈子さんは、声が震えていました。 「皆、もう死んでた。」 消防が念のため少しだけ放水し、ほどなく鎮火が確認されましたが、その夜は夜中まで警察と消防の事情聴取が続きました。 一郎君は、家を建てた時のハウスメーカーの担当者に昨年リフォームも依頼していましたから、深夜でしたが電話をかけ、火事になったので、明日の朝には状況を見に来てもらうように頼みました。 今までも、猫が死ぬ度にお通夜をしていましたから、21匹のお通夜をしたいと一郎君と美奈子さんは消防に要望したのですが、火災当日は鎮火したように見えても再度燃焼することもありうるため宿泊させないように指導されているとのことでその願いは聞き届けられず、今夜はホテルに泊まるようにと言われてしまいました。 仕方なく家から近いホテルを予約したのですが、12時を過ぎてようやく警察の事情聴取が終わって家を出る時に、猫たちを一緒にさせてやってよいかと警察に聞きました。 本来は、現場検証まで現場に手を付けてはいけなかったようでしたが、室内の写真は撮ったからと認めてもらえて、目についた猫たちの死体を部屋の中央に集めました。 長年家族として過ごしてきた猫たちを一度に失ってしまった二人は、悲しみを通り越して泣くこともできず、眠ることもできず、朝までベッドに寝転がって悶々と過ごしました。 ホテルの朝食も、食欲どころではなくまともに食べられませんでしたから、7時には帰宅し、まず21匹全員の死体を確認しました。 昨夜見つからなかった猫も、大体普段のお気に入りの位置で死んでいましたが、カメ四郎は苦しかったのか猫トイレの中で死んでいました。 猫たちの居間にもなっていた20畳のダイニングキッチンは、火災で部屋中焼け焦げていましたが、猫たちの死体は床までは熱が行かなかったらしく、きれいなままでした。 猫たちを全て確認した後、一郎君は、泣きながら庭に大きな穴を掘りました。 そして、美奈子さんは泣きなが一匹ずつ名前を呼び、「ごめんね、拾わなければこんなことにならなかったのに、ごめんね。」と声をかけて夫が掘った穴の側に運びました。 そして一郎君が、我が家に来た順に7匹ずつ3段に重ねて並べ、葬りました。 猫たちを葬り終わった頃にハウスメーカーの担当者が来て、早速打ち合わせに入りました。 建築を大手のハウスメーカーに依頼すると、少し割高でもアフターサービスはしっかりしていますし、いざという時には親切かつ迅速に対応してもらえることが利点なのです。 この日も、電気屋さんとガス屋さんと水道屋さんに早速声をかけてもらえて、とりあえず今夜自宅で入浴宿泊できるだけの用意は整えてもらえました。 そして、9時過ぎから警察と消防による現場検証が始まりました。 昨夜の事情聴取の検証なわけですが、警察、消防双方から同じ質問をされることも多く、延々3時間続き、終わったら丁度お昼でした。 現場検証が終わってようやく家の中を確かめることができたのですが、火災よりも煤煙の被害の方が大きく、煙突のようになってしまった階段から窓が開いていた2階のトイレに至る周辺が、煤で真っ黒になっていました。 また、驚いたことに、火元とみられるガスレンジから見ると、部屋の対角線上にあったエアコンが見事に溶け落ちていました。 5部屋のうち、ほぼ無傷だったのは、玄関隣の和室だけで、火元の20畳のダイニングキッチンは一部天井まで燃え落ちていただけでなく、浴室脱衣室、1階と2階のトイレ、2階の3部屋とも、扉のすきまから煤煙が侵入し、家具や布団が煤をかぶっていました。 しかし、軽量鉄骨の躯体は無傷で、2階部分の基礎の木組みも無事でしたから、ハウスメーカーの担当者は、再建しやすいとほっとしていました。 火元のガスレンジ近辺は食器棚の壁まで焼失しており、冷蔵庫は半分焦げて冷蔵室の扉が開かなくなっていましたが、電源は無事で、作動してました。 逆に、ダイニングテーブルの横にあった電子レンジとオーブントースターの方が、取っ手類が溶けて使い物にならなくなっていました。 火災現場は、クレオソートというか木酢というか、独特の刺激臭がしますが、これは強烈で、目がちかちかするほどでした。 現場検証が終わると、とりあえず、1階の和室を居室として、2階の寝室までの通路を確保することにしました。 階段が一部濡れていたのですが、何と壁の中に火が残っていないかの確認のため消防が穴をあけてみた後、鎮火確認の際に少し放水したのが穴から出たものらしいことがわかりました。 また、ガスレンジ後ろの壁の一部が焼けており。断熱材まで燃えて穴が二つ開いていたのですが、この穴二つも消防が鎮火確認のためにつついたら開いたものでした。 江戸時代の火消しではありませんが、現在の消防も、家を破壊することがあるようです。 家の中で一番真っ黒になっていたのは2階のトイレでした。 これ、壁から便器まで真っ黒で、普通に雑巾でふいても、全く汚れが落ちませんでした。 一郎君と美奈子さん、現場検証が終わった後も、食事もとらず、休まず、夕方遅くまで清掃作業を続けて、何とか2階の寝室までの通路を確保しました。 キッチンが全く使えなくなり、電子レンジやトースターも使用不能になっていましたが、表面上部が溶けて冷蔵室が開かなくなった冷蔵庫は動いてはいましたから、冷凍室、野菜室のものを有効利用するため、とりあえず電気屋さんに行って、冷蔵庫と電子レンジと電気ポットを買ってくることにしました。 19時前に電気屋さんに駆け込んだら、何故か終業の音楽が流れていました。 そこで、今は緊急事態宣言の影響で19時閉店だったことに初めて気づきました。 それで、慌てて一番早く届く冷蔵庫を選んで、電子レンジとポットは持ち帰りで帰宅し、隣の家からいただいた差し入れで遅い夕食にしました。 続く。 画像は、悲しい悲しい猫たちのお墓です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 21, 2020 08:35:45 PM
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