烏骨鶏
形あるものは、目から形なく鼓膜を響かせるものは耳からするりと私の中に侵入して、まぶたの裏に潜む何億枚の写真を 連続で再生させる。 錆びない金の針と糸を頼りに、少しの切れ端から幾パターンの地図を 刺子をするようにひと縫いひと縫いを重ねて復元してはするりと糸を抜きさってしまう。 だってこれは、本物の地図ではないから。できた瞬間に、噓になってしまうから。 月が、地球を散歩する速度と同じ早さで逆さまに再生したつもりでも、一度辿り着いた場所にはもう二度と足跡を残せないことになっていて。 長針と短針の両方がぐちゃぐちゃに壊れた狂った鶏に教える。三本目の黒い針を刺し込んで、縫いつける。これがあなたの場所なんだよって。 新しい、一秒ひと針を縫う。