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2015/08/09
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さて、昨日の続き。
麓から急な坂道を上り、森を抜けると葡萄畑の斜面が目の前に広がる。段々畑のように区画が造成されていて、それぞれの区画をシュトゥーフェStufeと読んでいる。入り口に一番近い右手の区画はシュトゥーフェ・アインツだ。アインツとは、ドイツ語の一つ、二つと数える時の「一」を意味するので、シュトゥーフェ・アインツはさしずめ「区画その1」といったところか。

ちなみに、シュトゥーフェとは段階を意味し、例えばプロジェクトなどで進捗状況を表現するときシュトゥーフェ・アインツ、シュトゥーフェ・ツヴァイとか言ったりする。私は「シュトゥーフェ・アインツ」という区画名を聞いた時、何かのプロジェクトの第一段階で、それが完成したら次なる段階へと進むのかと思っていたら、ただの区画番号だった。

私がそう思ったのには訳がある。というのは、この0.24haの区画のリースリングは2008年から全く剪定を行っていないのだ。普通は収穫が終わってから翌年の2月頃までに剪定を行い、一定数の枝や新芽を残して、枝葉の伸び方と収穫量をコントロールする。しかしここでは、かれこれ5年間枝は伸び放題に伸びて鳥の巣のようにからまっている。2008年に母枝を一番上の、地面から1m50cmほどの高さに張り渡された針金に巻き付けたっきり、幹から出てくる下枝を取り除く他は何もしていないという。一本の新梢は約2m30cmほど伸び、普通の枝よりも細く見える。その数は非常に多い。

「無剪定栽培では枝を曲げて整えたり葉を除いたりといった手間はかからないんだが」と栽培醸造責任者のアンドレアス・シューマンは言う。「収穫の手間でそれも相殺される。房は葡萄樹一本につき約60~80房とかなり多く、房は小さいが一つ一つの房は粒の間隔が広い。絡まり合った枝の外側に実るので日光が当たって果皮も厚くなり、雨が多くて腐敗が問題になった2013年も、この畑が一番問題が少なかった。斜面の一番下の区画なので成熟も遅く、畑の周辺は森なので、鳥の被害を防ぐためにネットをかけて葡萄を守る。葡萄樹としては、鳥に見付けて食べてもらいやすように、枝の外側に房をつけているわけなんだけど」


栽培醸造責任者のアンドレアス・シューマンとシュトゥーフェ・アインツの畑。畝の間が掘り起こされているのは、翌日植物の種をそこに撒くため。

アンドレアスは続ける。「なぜこんな栽培方法を試しているかって?発想のきっかけは『葡萄樹とは何か』という問いだった。ビオディナミで栽培していて、葡萄樹は自然の中ではどのように成長したのか、ということを考えるようになったんだ。葡萄樹は自然状態では上部が最も強く成長する。何故か?もともと木を伝って伸びる蔓性植物だから。枝の下部ではなく、最上部が伸びていくんだ」と言う。その性質を生かした仕立て方が、この無剪定栽培なのだろう。

「葡萄樹1本に約60房でも、房が非常に小さいので収穫量は上がらない。この手法で年中土壌を耕したりして収穫量を上げる事も出来るが、我々はやらない。土壌の世話といえば草花の種を撒くことで、葡萄樹の成長を草花と競合させて樹勢をコントロールするんだ。

ファルツでは畝の間の緑化は珍しい。この山の上では年間400ℓ前後の雨が降る。誰もが緑化には雨が少なすぎると言うが、ご覧のとおり下草は青々としている。地下水脈もあり給水には問題がない。森と壁に囲まれた区画で以前は灰色黴が繁殖しやすかったが、無剪定栽培に転換してから問題なくなった。

そもそも、ESCAなど葡萄樹の枝の病気の大半は剪定した切り口から感染する。剪定しなければ感染のリスクは当然減る。その他の病気については、他の区画と同様にメルタウ(うどん粉病)には少量の亜硫酸銅を使う(註:ビオやビオディナミでも少量なら許されている)し、脱脂粉乳やふくらし粉などビオで使う素材も散布する」そうだ。


無剪定栽培の葡萄樹。葉も小ぶりなのは4月下旬だったこともある。

オーディンスタールではこの区画が上手く行ったので、ジルヴァーナーの区画を2011年に5列、2012年にもう5列無剪定栽培に切り替えた。
「この手法を使っている生産者は他にもいるが、高品質を目指している生産者はいない。マシンを使って肥料を沢山やって、手間をかけないで栽培して多量の収穫を得るために無剪定栽培をしている。しかしそうすると、沢山の枝が力強く伸びて葉が重なり合って房が隠れ、葡萄は熟さず未熟で酸っぱいままだ。このシステムで高品質に育てるなら葡萄樹の樹勢は弱くなければならないし、収穫量も抑えなければならない。我々は常に50hℓ/haを下回っている」とアンドレアス。

ちなみに、シュトゥーフェ・アインツの区画は1986年植樹のリースリングで、雑色砂岩の砂質土壌だ。表土の深さは40cmあまりで、その下は岩石。ワインの味についてはいずれ述べるが、繊細で純粋で、余韻が異様に長いことが印象に残っている。

(つづく)





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Last updated  2015/08/09 11:00:51 PM
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李斯。@ お久しぶりです。 御無沙汰しております。 何時も拝見してい…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002@ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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