『フルギア人イソップの寓話集』雄鶏君と狐
ロバート・ヘンリスンの『イソップ寓話集』における自然描写 抜粋 鍋島能正(14号 1986)¶Quhill that the Goddes of the fludePhebus had callit to the harberie.And Hesperus put vp his cluddie heid,Schawand his lustie wisage in the sky.Than Lowrence luikit vp, quhair he couth ly,And kest his hand vpon his Ee on hicht,Merie and glaid that cummit wes the nicht.ついに、海の女神が陽の神を臥所(ふしど)に招(よ)んだ。そして、宵の明星は、雲の頭巾を上にあげて美しい顔を空に現わした。そのとき、ローレンス(狐の名前)は、その場で、空を見上げ片手を眼の上に高く翳(かざ)して夜になったことを非常に喜んだ。Out of the wod vnto ane hill he went,Quhair he micht se the tuinkling sternis cleir.And all the Planetis of the firmament,Thair cours, and eik thair mouing in the Spheir.Sum Retrograde, and sum Stationer.And of the Zodiak in quhat degreThay wer ilk ane, as Lowrence leirnit me.彼は森から出て丘に行った。そこでは、きらめく星がはっきり見えた。穹天(おおぞら)のすべての惑星と、天球層の中でのそれらのコースと動き具合も見えた。東から西へ動いているものと、少しも動かないものとがあった。そして、黄道帯(ゾディアク)のどの位置にある星も眺められたローレンスが私に教えたように。Than Saturne auld wes enterit in Capricorne,And Iuppiter mouit in Sagittarie.And Mars vp in the Rammis heid wes borne.And Phebus in the Lyoun furth can carie.Uenus the Crab, the Mone wes in Aquarie,Mercurius the God of EloquenceInto the Uirgyn maid his residence.そのとき、老サターンは、やぎ座に入っていた。ジュピターは射手座の中を動いていたし、マルスは雄羊座の上端に現れたばかりだった。そして、陽の神は、しし座の中を進んでいた。ヴィーナスは、かに座に、月の女神は水瓶座にいた。雄弁の神マーキュリーはおとめ座の中に、居を構えたところだった。上記は、鍋島先生が『フルギア人イソップの寓話集』13篇のうち、第3編雄鶏君と狐 からの以前描写を訳されたものである。雄鶏君と狐 西 納 春 雄、 安 藤 光 史 訳より 雄鶏と狐の話獣というものには理性がない、すなわち、思慮分別に欠けているが、それぞれの種類ごとに持って生まれた様々な性質を備えている。 400熊は力が強く、狼や獅子は猛々しく、犬は夜吠え、家を守るといった具合。獣の性質はあまりにも多様で、人にはとうてい知り尽くせるものではなく、 405種類において実に変化に富むので、私の知識ではそのすべてを書き記すことはとうていできない。そこでここでは、私がこの近年の間に見聞きした例を紹介しようと思う。それは一匹の狐と立派な雄鶏の間に起こったことだった。 410その頃、とある村に一人の寡婦やもめが住んでいた。彼女は糸巻き竿で糸を紡いで生計を立てていた。そして、寓話にあるように、彼女の財産といえば、ひと群の雌鶏と、それを守るための一羽の雄鶏だけだった。この雄鶏は、 415たいそう元気がよく、この寡婦のためにいつも鳴いては夜明けを知らせるのだった。この寡婦の家からほど遠からぬところに人を寄せつけないほど茂った茨の茂みがあり、その中にずる賢くて狡猾な 420狐が一匹棲んでいた。この狐は昼な夜なに雌鶏を盗んでその寡婦に大変な乱暴狼藉を働いていたが、彼女はこの狐に仕返しする術を持たなかった。このずる賢い狐は、雲雀がさえずり始めると、 425ひもじさに耐えかねて村へ向かった。そこでは夜も明けきらないのに雄鶏が夜に飽きてねぐらから飛び降りていた。狐のロレンス君はこれを見ると、いったいどんな方法でこの雄鶏をだませるかと 430あれこれ考え、策略を練った。しらばっくれた顔つきで跪(ひざまず)き、素知らぬ顔で狐は言った、「おはよう、ご主人様、立派なチャンテクレールさん。」これに驚いた雄鶏は、後ずさりした。 435「いえ、怖がることはありません。驚いたり逃げたりすることもありません。私はあなたにご奉仕しようとここに来たのですから。」「もしも私が、かつてあなたのご先祖様にしたように、あなたに奉仕しないとしたら、それは私の咎。 440あなたのお父様は、いつも私の胃袋を満たしてくれましたし、積み肥から荒野に食べ物を送ってくださいました。臨終(いまわ)のお父様を、私は一生懸命に看病し、頭を抱いて、暖かい飲み物を差し上げました。あの優しいお方は、私の腕の中で息を引き取られたのです。 445「私の父を知っているのか?」と雄鶏は答え、高笑いした。「そうですとも、まこと、あの方が樺の木の下で息を引き取られる時には、私はその頭を抱いてあげました。そして、なくなられた時には、埋葬のミサを唱えました。ですから、私たち二人の間にはどうして敵意などありましょう。 450お父様にあれほど奉仕した私以外に、いったい誰があなたの下僕(しもべ)として信頼できるでしょうか。」「私は、あなたの美しく見事な羽根毛と嘴(くちばし)と、立派な胸と、頸毛と鶏冠とさかを見ると、本当に、神様に誓って、この心が熱くなり、 455本当に親しい気持ちになります。あなたにお仕えするためなら、這い蹲つくばりましょう、たとえ霜や雪の中、雨降る天気の最中でも。そして私の灰色の毛皮をあなたの足下に敷きましょう。この狡猾で不正直な者、嘘つき狐は、 460雄鶏に一つだけ、けちをつけた。「私が思うに、あなた様はお父上のご様子と比べるとだいぶ異なり、欠点が見えます。時を告げる声では、お父上の方が上手でした。だって、お父上はいつも爪先で立って鳴かれたのですから。 465嘘じゃありません、すぐ側でこの目で見てたんですから。」それを聞いた雄鶏は、高くつま先立って嘴を掲げ、力を振り絞って歌った。ロレンス君は言う、「ご立派、さすがだ。間違いなく、お父上のご子息だ。 470でも、あの方の技巧(うまさ)には、まだ足りないところがありますよ。というのは、お父上は、鳴くときには、瞼(まぶた)をしっかと閉じて 躰からだを三度くるくる回したのですから。」自惚れと虚栄心は、多くの人々に破滅をもたらす。この雄鶏もまさにその通り、 475大いなる尊敬を勝ち得ようと、不用心にも、両眼を閉じて、二,三歩走り、歌う仕度を整えた。一声高らかに鳴いたその途端、待ち構えていた狐は彼の首をしっかとくわえた。 480狐は雄鶏を捕えると、一目散、森へ走った。自分の仕業をとがめられることなど恐れもせずに。それを見た雌鶏たち、パードック、スプルートック、コポックが大声で叫ぶと、寡婦はわめきながら家から走り出てきた。彼女はこの様を見て、息をのみ、叫んだ、 485「何てこと、人殺し、盗人(ぬすっと)!」と大音声。「ああ、大事なチャンテクレールが盗られたわ!」気がふれたように何度も何度も、金切り声やら叫ぶやら、髪の毛をかきむしり、胸を叩いた。そして、顔は青ざめ、茫然自失、 490悲しみのあまり、気を失い、冷汗をかいて卒倒した。それを見ると、雌鶏たちは、餌をついばむのを止めて、彼女が気絶している間に、この事件について議論した。「ああ」とパートックはたいそう悲しみ、 495頬に涙をぽろぽろ流しながら言った。「あの方は、私たちの愛しいお方、昼間の恋人、小夜鳴鳥(ナイチンゲール)、時を告げる鐘だった。夜寝ずの番をしてくれて、私たちに危険を知らせてくれた。そして、灰色のスカーフをかぶった曙の女神オーロラが 500夜と昼との間に頭をもたげる時を知らせてくれた。」「これからは、いったい誰が私たちの愛人となって、私たちを導いてくれるのかしら。私たちが悲しいときに、いったい誰が歌を歌ってくれるのでしょう。あの優しい嘴で、あの方はいつもパンを砕いてくださった。この世の中であの方ほど親切な方がいたかしら。 505愛の秘め事では、あの方は、自然から与えられた力を振り絞っていつでも私たちを歓ばせてくださった。あの方が亡くなって、私たちはどう生きたらよいのでしょう。」すると、スプルートックが言った、「およしよ、姉さん、悲しむのは、どうかしたんじゃないの、あの人のことでそんなに嘆くなんて。 510大丈夫、やって行けるわ。だって、ことわざにもあるわ、『去る恋あれば、来る恋あり』ってね。絶対、私は晴れ着を着るわ、そして陽気な五月に、もう一度若々しくなってそしてこの歌を歌うの、『こんな陽気な寡婦やもめはいなかった』をね。」 515「あの人は怒ってはいつも私たちを怖がらせたわ、そして嫉妬の鋭い槍で傷つけた。閨の方ではまるで役立たず。だって、体質が冷・乾だったんですもの。さあ、あの人がいなくなったんだから、ねえ、姉さん、 520悲しむふりして喜ばなくちゃ、それが最良の薬よ。生者は生者に、死者は死者にということね。」するとパートックが言った。彼女は、さっきは本心を隠していたのだった。彼女は、愛のない欲情に憑かれていた、「そうよ、あんな人が20人いたって 525私たちの性欲(のぞみ)は満たされないわ。こうして自由の身になれたんですもの、私はこの手に誓って宣言するわ、一週間以内にきっと、私の背中にもっと上手に爪を立ててくれる人を見つけます、ってね。」するとコポックが、聖職者らしく自信たっぷりに言った。 530「あれはまさしく天罰だったのですよ。あの人はとても浮気で放蕩、7人以上のお妾さんがいたのです。ですが、善と悪の釣り合いを守る正義の神様の堪忍袋の緒が切れて、厳しい罰を、 535悔い改めることのない姦通の罪に与えられたのです。」「あの人は傲慢で、平気で罪を犯しました。そして神様の恩寵にも、怒りにも全く頓着なく、権勢と力を伸ばすことに懸命でした。そのような自分の罪があのような恥ずべき最期へと、 540当然の死へと我が身を導いたのです。それ故に、狐に喉をがぶりとやられたのは、まさに神様のお裁きとしか言いようがありません。」こう言い終わったとき、寡婦は正気づいて立ち上がり、猟犬たちに叫んだ。 545「そら、バーキー、ベリー、ベル、ボウジー、ブルン、ライプ・ショー、リン・ウェイル、カーティス、ナンティクライド、さあ、皆一緒に、文句言わずに、追いかけとくれ!私の大事な雄鶏を助けておくれ、あれが殺されないうちに!さもなきゃ、二度とここに帰ってくるんじゃないよ!」 550それを聞いた犬たちは、一目散に駆け出した。火打ち石の火花のように、野原を走り抜け、疾風のように森を抜け、川を渡って行った。そして、ロレンスの姿が見えるまで走り続けた。ところで、狐は、猟犬が一列になって突進してくるのを見ると、 555雄鶏に心の中で語りかけた、「ああ、神様、お前と俺とが一緒に洞穴の中まで無事に行き着きますように。」すると、雄鶏が、いくらかは気を取り戻し、狐に言った、「私の言うとおりにすれば、絶対確実。お前さんは腹ペコで、こんなに走って疲れてる。 560力が尽きて、もうこれ以上逃げられないよ。ここで振り向いて、言いなさい、私と君は、向こう一年間友達だと。そうすれば、あの連中は立ち止まり、もう追っては来ないよ。」この狐は嘘つきのならず者で、 565自分の言い分を守る手管に長けている。しかし、驚くべき策略によって、見事に騙されたのだ。というのは、嘘は最後(しまい)には必ず敗れ去るからである。狐はくるりと振り返ると、教えられた通りに叫んだ。その瞬間、雄鶏は飛び上がって、枝にとまった。 570さて、皆様、ロレンス君が嘲笑ったのは一体誰か、お分かりですね。こうして、騙された狐は木の下で跪(ひざまず)いて、言った。「ああ、立派なチャンテクレールさん、もう一度降りてきてくださいな。そうすれば私は何の報酬なしでも一年間あなたの下僕になりましょう。」 575「冗談じゃあない。人殺し、盗賊、盗人、行っちまえ。首毛は血まみれ、襟毛も紫色にされてしまった。これで私とお前は永遠におさらばだ。」「お前の言うなりに目を閉じた私は馬鹿だった。そのために、すんでの所でこの首を失うところだった。」 580すると、狐が言った、「馬鹿だったのは私の方だ。ついつい口を開けてしまって、獲物を逃がしてしまった。」「失せろ、盗人、神様どうか、私がこいつの餌食になりませんように。」そういい終わると、雄鶏は野原を越えて飛んで行き。件(くだん)の寡婦の屋根裏窓に止まったのです。 585