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GIGAZINEって、ネットワーク系の記事や、食品系の記事は楽しいものが多くて、愛読しているのだが、記録メディアに関する記事については、首をかしげることが多い。最近も、
容量はBlu-rayの200倍でコストも激安、新たな光ディスクの材料が発見される なんて記事を、大興奮の様子で取り上げているし、過去にも、下記のように、高密度記録に関する画期的技術との触れ込みのニュースを見つけては、すぐにでもBDが過去の遺物になるかのような取り上げ方をしてきた。 容量はBlu-rayの20倍、ついに500GBの記録容量を実現した「ホログラフィックディスク」が登場 DVDの最大2000倍の大容量を実現する次世代光ディスク「5次元ディスク」が登場へ、Blu-rayなどを圧倒 今回の報道もそうで、内容的には地道な材料の研究成果だとは思うのだが、明らかにはしゃぎ過ぎだ。 その点では、タイトルはともかく、内容的には、Gizmodeの方がまだ冷静に取り上げているな。 どうするブルーレイ。東大、DVDのデータ量を1000倍にする新物質発見 今回発表の酸化チタン類の材料は、確かに今Blu-ray Diskで使われているレアメタルを使った無機系記録材料よりは格段に安いだろう。 ただ、現在でも、レアメタルを使う無機系より材料費は格段に安い有機系記録材料を使ったLTH typeのBlu-ray Diskのメディアの価格が、格段に安くなっているかというとそんなことはない。 当たり前だが、物の値段は材料だけで決まるのではなくて、製造工程の複雑さや歩留まり、品質検査の手間など、さまざまな要素で決まるからだ。 加工が難しい酸化チタン系で、Blu-ray Disk同等の容量のディスクを作ったとして、実際の価格はどうなるか、量産してみないと分からないのは当たり前だろう。 また、「ほぼ同じ強さの光でブルーレイディスクの約200倍の情報を記録」とのことだが、この微妙なレトリックの意図に、報道する側は気付かなければならない。 約200倍の根拠に挙げられている情報は、次の通りだ。 大越教授らは、おしろいの原料や光触媒として広く使われている酸化チタン類に着目。チタン原子3個と酸素原子5個が結合した「五酸化三チタン」のナノ結晶(粒径8~20ナノメートル、ナノは10億分の1)を作り、性質を調べた。この結晶は、電気を通しやすい黒色の粒子で、紫外線-近赤外線に相当する波長のレーザー光を当てたところ、結晶構造が変化し、電気を通しにくい半導体的な性質に変わった。その逆の変化が起きることも確かめた。最も一般的な「二酸化チタン」のナノ粒子を、炉内に水素を吹き込みながら加熱することで、この結晶を簡単に作る方法も開発した。まず、この実験で作ったのは、ナノ結晶「単体」であり、これにレーザーを当てて、デジタル記憶に使える「相変化」という現象を起こすことができることを確認したというものである。 ナノ結晶のサイズが8~20nmということで、幅があるので仮に10nmだとすると、Blu-ray Discの記録単位である「ピット」の最小サイズが0.138μm(=138nm)なので、長さの比でいうと17倍、面積比で言うと大雑把に二乗で計算すると190倍の情報量になるというのが、おそらく根拠なのだろう(それ以外に考えられないので)。 しかし、もしそうだとすると、この論理はおかしい。 そもそも、現在のBlu-ray Diskの記録密度の限界を決めているのは、記録デバイスの材料なんかではなくて、相変化を起こすために投射する青紫レーザーのビームスポットのサイズなのである。 DVDでは赤色レーザーが使われていたのに対し、Blu-rayでは、より波長の短い青紫レーザーを使うことで、記録単位であるピット長やトラック幅を小さくでき、DVDの4.7GBから25GBに記録容量を増大できたのは周知のことである。 なので、当たり前だが、たとえ、ナノ結晶を記録単位とする酸化チタン系材料が、実際に記録メディアに使えたとして、それをナノ結晶単位で照射できる超短波長のレーザーなんて、現時点ではどこにも存在しないのだ(そもそも青色レーザーでさえ、ノーベル賞級の大変な発明であることを記者が知らないとは思えないのだが)。 しかも、BDの200倍なんて凄い密度のディスクを作るには、加工性の悪い酸化チタン系材料のナノ結晶を、平らにしかも密に並べて塗布できる技術が必要になる。これは、量産品としては恐ろしく難しい技術になるだろう。 200倍なんて記録密度、解決すべき課題が高すぎて、現段階では絵に描いた餅だと断言していい。 大槻先生の報告も、「紫外線-近赤外線に相当する波長のレーザー光を当てた」と書いてあることから、個々のナノ結晶が、レーザーで相変化を起こすことが確認できたことを報告しているに過ぎない。決して、平面に密に並べたナノ結晶に、レーザーを使って10nm単位の密度で、ゼロイチの記録を行った、なんて誰も言っていないし、そんな実験が、現存するレーザーのビーム径で、できる訳がないのだ。 「ほぼ同じ強さの光でブルーレイディスクの約200倍の情報を記録できる」という文章で、レーザー光の強さには言及しているのに、レーザー光のビームスポットサイズには一切言及していないのも、ある意味、技術発表でギリギリ嘘にならない苦肉の策だろう。 もちろん、冷静に見れば、今回発表された酸化チタン系の材料を使ったBlu-ray Diskみたいなものは、今後、規格化を経て出てくる可能性はあるだろう。その場合の価格が、有機材料系にくらべて、圧倒的に安くできるかどうかは、前に書いたように製造技術の進展次第だが、可能性はあるだろう。その意味で、有望な材料の発表なのだろうとは思う。 逆に言うと、材料が発表されたから、すぐにでも製品ができるかのような記事は、地道な研究者にとっては、かえって迷惑な可能性さえあるだろう。 毎度のことだが、GIGAZINEは、こうした次世代大容量メディアに関しては特にそうなのだが、素材とか、ある部分的な技術の発表だけで、何もかもが解決するかような、大げさな報道が多すぎる(元の英文記事も問題が多いのだろうが)。 GIGAZINEって、地デジとか、Blu-rayとか、NGNとか、大嫌いなモノは、記事内容にもモロにそのバイアスがかかった記者の感情が染み出していて、それはそれで正直でいいけど、読者の多いニュースメディアなのだから、記事を書くときには、もう少しきちんと調べたほうがいいと思うけどな。 ブルーレイ、DVD、CD再生専用ドライブ【LITEON】iHOS104-06 【送料無料】I・O DATA/アイ・オー・データ BRD-SH10BLEK 内蔵型Blu-ray/ブルーレイディスクドライブ 10倍速書き込み可能 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年05月27日 01時35分29秒
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