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【PC Watch】 理研のスーパーコンピュータ「京」が世界最速に
スパコン「京」が、現時点で大差で世界最速になったことは、日本の技術振興の上で、大変喜ばしいことだと思う。暗い世相を多少なりとも明るくしてくれたのだから、その功績は大きい。 ただ、一連の報道を読んでいて、あまりに内容が浅く、なかなか知りたいことを報道してくれる報道メディアがなくて、イライラしているのも事実だ。 民主党がバカだと笑って、それみたことかと非難する記事も飽きた。蓮舫がどう思うかなんて、どーでもいい。 私が知りたいのは、3年前の事業仕分けの時点で、NECが参加意義を認めず途中で撤退し、目標性能の達成どころか、プロジェクトが瓦解しかかっていた状況(そのゴタゴタ自体が事業仕分けで問題視された点の一つだった)で、どうやって一から設計の方針変更を行い、プロジェクトを立て直したのか?という、その後の経緯だ。 数少ない記事を探すと、 プロセッサ/マイコン:なぜ「京」がスパコン1位を獲得できたのか - EE Times Japan まずは、NECのベクタープロセッサをやめた怪我の功名で、システム構成がシンプルになり、スカラープロセッサ(SPARC64)だけで、純粋な性能向上を目指すという目標設定が明確になった面はあったようだ。 米国のスパコンでは、NVIDIAなどのGPUを使ったマルチプロセッサシステムが多い。 GPUの利用は、コストや集積度では有利な面もあるだろうが、既にあるものを活用するだけに、マルチプロセッサの結合の最適化が難しく、構成が複雑になる問題がある。 GPUは、チップ内は、専用バスで密結合され高速な通信ができるし、メモリも高速な専用ビデオメモリで広いバンド幅を確保できる。 しかし、GPUに接続できるビデオメモリの容量は、そもそも利用目的が違うので上限があり、スパコン用途には必ずしも十分とは言えない。 その上、GPU間の通信は、PCI Expressなどの汎用バスを介し、レイテンシが大きなDDR3メモリあたりを共有メモリに使い、通信するしかなく、システム全体のスループットを落とす原因になるし、システム構成も階層が複雑になり、適用するソフトの設計やチューニングを難しくしているはずだ。 それに対し、「京」は、独自のSPARC64を核とした、マルチプロセッサシステムとし、プロセッサ単体の演算能力も高いのだが、プロセッサの結合方法について、あり物の利用でないからこそできる効率のよい方式に力を注いだ。 バススイッチを使わない高速なプロセッサ間通信方式や、プロセッサのトポロジ(接続形態)をシンプルに設計することで共有メモリの構成をシンプル化して、メモリバンド幅を拡大し、システム全体の性能向上を目指した点が、大きな差別化ポイントになったようだ。 マルチプロセッサシステムは、プロセッサの数を増やしたら、増やした数だけ性能が向上するわけではなく、増やせば増やすほど、大きなパフォーマンスロスが出る。「京」は、プロセッサ間の結合を工夫し、そのロスを減らしたことが、世界一に繋がったのだろう。 スパコン,「実行効率世界1位」の意義 - 日経エレクトロニクス - Tech-On! この記事でも触れられているように、実行効率が92.0%というのは、この数のマルチプロセッサシステムとしては驚異的な数字なのだ。この技術的背景があれば、確かに、プロセッサをあといくつ追加すれば、世界一が達成できるという目処が立つ。 開発予算の前倒しが、説得力を持って通った理由も分かる気がするな。 米国の敵失が勝因…日本のスパコン世界一 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) また、この記事によれば、「京」が、事業仕分けの結論を覆し、予算を前倒しして開発を促進したのに対し、トップを争う予定だった米国のスパコン開発が遅れた敵失もあって、一位を確保できたらしい。 ただ、これを「敵失」と一言で片付けるのは安易過ぎであり、GPUを使ったシステム構成が複雑で、チューニングが難しいことも一因だろうから、日本と米国の技術の差として誇っていいはずだ。 ただ、単に喜んでも入られない。 「地球シミュレータ」もそうだったが、日本のスパコンは、基本的に一品物のことが多く、産業全体への波及効果が小さい。「京」は、「地球シミュレータ」よりは、他分野への解放や、スケールダウンした活用も考えられているが、それでもコストは割高だし、世界的に見れば価格競争力はないだろう。 米国は、汎用GPUを使うだけに、その技術は、スケールダウンして、ローコストに様々な産業分野で活用できる。 そのスパコン技術を開発する目的意識の根本的な違いが、日米のビジネス感覚の差でもある。 その意味で、日本のスパコンプロジェクトの方向性には、今でもあまり賛成しかねるし、一時的に、米国や中国に勝ったと喜んでいるだけでは、ビジネスとしての、日本のスパコンの将来は暗いと思う。 【送料無料選択可!】はじめてのWindows HPCシステム 手持ちのパソコンが「スーパーコンピュータ」になる! (I/O BOOKS) (単行本・ムック) / 柴田良一/著 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011年06月26日 01時37分49秒
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