カテゴリ:商法過去問答案
【問題】 平成3年・第1問
定款に株式の譲渡制限の定めのある会社において、全株保有の一人株主がその持株の全部を取締役会の承認を得ずに譲渡し、譲受人から名義書換の請求があった場合、会社はこれを拒むことができるか。 【答案】 平成3年・第1問 1 商法204条第1項但書は定款による株式の譲渡制限を認めている。この定款による株式の譲渡制限があった場合、その株式譲渡は無効となるのかが問題となる。 (1) 法が定款による株式の譲渡制限を認めた趣旨 =現実の社会では株式会社といっても、家族経営とでもいいうるような小規模で閉鎖的な会社が多数存在する。 →そのような会社では、株式の自由譲渡を認めると、会社に敵対する者が経営に参画してくるなど、会社ひいては会社の実質的所有者である株主の利益をかえって害することになることを防止する必要がある (2)(しかし)株式は自由に譲渡できるのが原則である(204条第1項本文)。 (というのは)株主が引受価額を限度とする間接有限責任しか負わない(200条第1項)ことの反面として、 会社債権者の債権の引当は会社財産のみということになり、 会社財産を確保する必要性から、 ごく例外的な場合を除いて、株主に出資の払戻がなされることはないので、 株式を譲渡することによって株主が投下資本を回収する途を確保しておかなければならないからである (とすれば)株式の譲渡制限は、できる限り排除すべきであり、制限を認めるとしても、制限の目的を達成しうる限度にとどめるべきである。 (3)(このように考えると)定款による譲渡制限の目的は、会社ひいては株主の利益を害する者が会社に入ってくることを防止する点にある。 (よって) それに反する株式譲渡も、その目的を達成しうる限度で、つまり、会社との関係でのみ効力を生じないとすれば足り、株式譲渡当事者間では有効と解すべきである。 (また) 204条ノ5が譲受人からの買受権者指定請求を認めていることは、譲渡契約自体が無効ではないことの現われと言える (4)(以上より)譲渡制限に反する株式譲渡は、当事者間では有効。会社との関係で効力を生じない→会社は譲受人からの名義書換請求を拒めることが原則 2 (しかし) 設問の会社は一人会社。一人会社にも上記結論は妥当するのか (そもそも)株式の譲渡は当事者間では有効 (とすると)一人会社の株主が持株全部を譲渡した場合、一人株主はもはや株主ではなく、譲受人が会社に入って来ることで一人株主が害されることはない (従って) 取締役会の決議を経ることを要してまで守ろうとする利益がない (また) このような場合に会社に名義書換請求の拒否を認めことは、取締役の保身の手段を与えるだけであって、法の趣旨に反する。 (よって) 設問においては、会社は譲受人からの名義書換請求を拒むことはできない。 以上 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 30, 2004 07:32:14 AM
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