風情について ~『一枚のハガキ』から~
新藤兼人の『一枚のハガキ』がキネマ旬報2011年日本映画のベスト1になったのは、この99歳の監督への敬意だけでなく作品自体良いのだ。さて、そのハガキ「今日はお祭りですがあなたがいらっしゃらないので何の風情もありません 友子」の簡潔さが何よりよい。中でも「何の風情も」の醸し出すもの、その含蓄が今の世間への一撃になっていると思えば尚更である。 新藤兼人はその前の2007年に『陸に上った軍艦』を作っている。監督は山本保博。そこで、同じ話を書いている。ボクはそちらも見ていたので『一枚のハガキ』とダブってくる。 「風情(ふぜい)」。日本には「風情=趣・情緒」が無くなりつつある。偶然その現場をまざまざと見た。TVだ。人気番組(?)2012年2月5日『劇的ビフォーアフター』。増改築の番組。増改築で駄目ならリフォームの番組。そこで見た庭の改造。今までのやや薄暗く苔や下萌えなど、まさに陰影のある庭が、オモチャのような庭に変貌をとげた。そのオモチャの庭は明るい。家族の思い出という理屈でモザイクの人工的な花をあしらう、醜悪だ。だが、TVはそれを絶賛しあたかも今までの庭が古くて暗く悪いと言わんばかり、大人のゲストたちはどう思ったか? 谷崎潤一郎『陰影礼賛』である。日本の家庭の照明が諸外国と比較して明るいと聞いたことがある。それは戦時中の灯火管制の反動という。そうかも知れぬ。だが、その前の幾百年もの間日本の照明は行灯、提灯などでなかったか。節電の今こそ日本の風情が蘇る時と思うのだが・・・。