複雑系による科学革命
「複雑系による科学革命」ジョン・キャスティ(中村和幸訳)(講談社)1997年(原著は1996年)に出版された、つまり我々にとってはかなり古い本。でもまずあの当時の雰囲気を知っておこうということで。P4 「こうして複雑系、すなわちローカルな情報に基づいて行動する知的で適応能力のある中規模のエージェントの集団は、今日まで科学が築き上げてきた単純系とはあまりにも異なっている。つまり複雑系の研究は、自然界や人間社会を科学的に探究するうえで、新しいページを開くものといえるのである。」P107 「1, 8, 3, 10, 5, 12, 7, 2, 9, 4, 11, 6」この数列の規則は?P111 上の数列にも関係するけど、この辺りで書かれているシェーンベルクの無調の話に興味が惹かれた。とりあえずApple Musicで検索。そしてさらにコンピュータによる作曲、さらにはカール・シムズの芸術に繋がっていく。「すなわち、機械が創造性を持つ可能性が開かれているのである。」P42 「複雑系が示す非直線的振る舞いの大部分は、次の五つの特徴をいろいろ組み合わせたものが原因となっている。その五つとは、パラドックス(自己言及)、不安定性、計算不能性、連結性、創発性である。」P158 アローの不可能性定理について。「アローのパラドックスが生じる根本的な原因は、推移的関係と非推移的関係の相違にある。」「愛する」は推移的ではない。アローの不可能性定理の面白いのは、すべての公理は妥当そうにみえるのに、完全に民主的な投票システムはそこから出てこないということだ。P169 「あるシステムの振る舞いにおける複雑性は、全く異なる二つの方法によって、不安定性から生じうることを見てきた。」カタストロフィーとカオスについて比較した、この部分についてはもう少し詳しく、正しく理解したい。P172 「そしてコンピュータ内部に、エル・ファロールの”仮想世界”を作り上げ、この状況でコンピュータ内部の人々がどのように振る舞うのかを研究することにした。アーサーが調べたかったのは、演繹論理が人々の行動の決定に無力だと思えるようなときに、どのようにして人々は判断を下すのかということだった。」P184 エーデルマンのDNAコンピュータについて。巡回セールスマン問題を解いた事例が紹介されている。実はこの「辺り」に大変興味をもっている。P190 備忘録的にキーワードのみ。「カウフマン・ネットワーク」、「Q分析」P197 「CLT(註:中心極限定理)は、数多くのエージェントの複雑な相互作用から、どのようにして単純な振る舞いが出現するかを説明する法則である。しかし、創発は、別の形で出現する可能性がある。たとえば、人間社会やアリの群落や粘菌など、個々の振る舞いが比較的シンプルな数多くのエージェントからなる集団である。しかし、こうしたエージェントがむしろ単純な規則に従って相互作用すると、生じる社会は豊かで変化に富み、その構成要素よりはずっと複雑な構造になる。」P228 「最も重要なのは、環境やエージェントについて語る際に、戦場、コロセウム、プレイヤー、戦士といった擬人的な用語を使ってきたことである。実際には、コンピュータという物理的装置の中のメモリーと、そのメモリー配列の中のオン・オフ・パターンに相当するものを作ったり壊したりする情報構造があるだけである。」P239 「ニューラル・ネットワークというのは、チューリング・マシンと同じ計算能力を持っている」、「大切なのは要素間の関係であって、要素自身ではない。」そして「学習を進化のプロセスとして研究したいならば、個を捨てて、集団にどんな変化が起こるかに注目しなければならない。」P243 遺伝的アルゴリズムについて。この数ページ前で例示されている「ロボット操縦問題」はわかりやすい。P256 Tierraについて。ちょっと古くてオリジナルには到達できないのかな。Wikipediaはここ。あるいはこれで学ぶか・・・P259 シュガースケイプも同様の「コンピュータの中の社会」。P271 Swarm、ここでソフトウェアが無償配布されている。あるいは同じ先生が書かれた書籍もある。P279 「いずれの場合にも”分子レベルの目”で観察されることは、純粋に化学的な操作と変化にすぎない。ただ”外に飛び出すこと”によってのみ、二つの操作の間にある統語上と意味論上の区別が可能となる。つまり、内部から見ると生化学が存在するだけだが、外部から見ると大切なタンパク質の姿が捉えられるのである。」「内部」と「外部」、ゲーデルの不完全性定理、そして行動心理学と認知心理学。P289 組織を「構造」から考えるのか、それとも「組織をプロセスの集まりと見る」のか。「フォンタナの使命は、組織が持つ両方の特徴(構造と機能)を統一した枠組みの中で理解しようと試みることである。(中略)大部分の科学者が、化学系は受け身の物質の集合(代表は分子)からなると思い込んでいることである。ここで受け身とは、それらの物質はエネルギーに突き動かされてようやく新しい化合物を作り出すという意味である。これは基本的に、化学を構造面から見た観点である。しかし機能面から見ると・・・」この続きは非常に示唆的。自己複製を禁止したスープの中で生じたことは!?P302 「おそらく太陽系は安定しておらず、タンパク質の折り畳みを計算するのは困難で、金融市場は全く効率的ではなさそうだ。だがこのような答えに共通するのは、現実の世界を数式で表現している点である。(中略)もし現実の世界で科学的に解答できない問題を探したいならば、自然界および人間社会の現象と、そうした世界の数理モデルとを注意深く区別しなければならない。」この点は非常に重要だろう。【中古】複雑系による科学革命 / ジョン・キャスティ