二年前からイタリアのコモという町に住んでいました。一部には「失踪!」という噂もあったようですが、いろいろ個人的な状況の中で、二年間こちらで主にミラノ(市立)音楽院に通っていました。その間、ソルミゼーション講座や聖心女子大学グリークラブのコンサートを指揮するために合わせて四ヶ月ほどは帰国しておりましたが、来月、コモを引き払って日本に帰国いたします。
今回の「留学」では、ミラノ(市立)音楽院のバロック声楽科に通い、二年間(修士)課程を終了しディプロマを取得しました。先生はロベルト・バルコーニで、彼のもとでまずは作曲家で歌手で詩人だったフランチェスコ・ラージ作曲のすべての曲と、ラージに関わる曲や1600年代ごく初頭イタリア音楽に取り組みました。そして、発声の癖を治すというか、基礎から叩き直すというか、技術的な面でも大変よい勉強ができました。
このバロック声楽科と並行して、ルネサンス・ポリフォニーの理論と実践を学ぶ二年課程にも通っておりましたが、こちらは先生のディエゴ・フラテッリが一年目で学校を辞めてしまったので、それっきりに。こちらで論文なり研究成果のコンサートをやりたかったのですが、まぁ、しょうがないです。しかし、いろいろ非常に良い勉強ができましたし、彼の指導の元、マントヴァ宮廷付きの教会「サンタ・バルバラ」でも勉強会とコンサートを行いました。
このミラノの学校ではまた、指揮者の杉山洋一先生の授業の一部分で基礎技術を徹底する時間に通わせていただきましたが、これが大変おもしろく、指揮の勉強としてはもちろん、音楽や共演者との向かい合い方、そして耳の使い方など貴重な経験になりました。
その他、夏期講習会では、グイード・モリーニとフランコ・パヴァンによる初期バロック講座にも参加し大変興味深い勉強ができました。
一方、ソルミゼーションや旋法について、あるいは1600年前後のメディチ家の音楽状況についての、いくつかの重要な論文や著作を読み、今も取り組んでおります。1970年代などから学問としてこの分野の研究が積み重ねられているその内容と充実度に圧倒されるばかりです。ソルミゼーション講座の内容を下支えする貴重な時間です。受講生の皆さんには、参考文献表がぐっと充実いたしましたので、そのうち共有したいと思っています。
20年以上前にもイタリアに来て、四年くらい勉強したのですが、音楽状況はもちろん、この国全体の変わり様、またそこに住みながら見る日本のイメージも以前とは全く異なるもので、いろいろ思いを巡らして折りましたが、音楽に関しては伝統とか歴史の積み重ねをつくづく感じていました。今後の音楽活動もここを基に、また日本でこそ出来ることを考えつつ、じっくり活動を始めたいと思っています。
どうぞこれからもよろしくおねがいします。
帰国後は早速、聖グレゴリオの家でのソルミゼーション授業が始まり、いくつかのコンサートやソルミゼーション講座が予定されています。追って、情報をアップしたいと思います。