カテゴリ:わたし思考・考え方
彼らが出ていってしまうと、さっそくクーポーは椅子をベッドにぴったりくっつけた。
パイプの用意が終わるとジェルヴェーズの手を握った。 彼はひどく感動して、一服ごとにひと言ひと言しゃべりながら、ゆっくり煙草をふかした。 「どうだい?お前あの人たちのせいで頭痛がしたろう? わかってくれてるだろうが、来るのを止められなかったんだ。 つまりあれが連中の友情ってわけさ・・・。 だけど、だれも来てくれないほうがいいねえ。 おれだってこうして少しおまえとふたりきりでいたかったさ。 今夜はやけに長く感じたよ・・・。 かわいそうに、すごく痛かったろうねえ!・・・ こういうちびどもときたら、生まれるときにどんな痛い思いをさせるか、 てんでわかっちゃいないんだから。ほんとに腰が裂けるみたいだったろうね・・・。 どこが痛む?そこへ接吻してやろう」 彼はごつい手を妻の背中の下へそっとさしこむと、その体を引きよせ、 毛布ごしにそのおなかへ接吻した。 生みの悩みからまだなおりきっていないこのお産に彼は荒くれ男らしい感動をかきたてられたのだ。 痛むところへ息を吐きかけてでもなおしてやりたかった。 ジェルヴェーズはひどくしあわせだった。もうちっとも痛くないと夫に言った。 できるだけ早く床上げしたいと、そればかり彼女は考えていた。 いまとなっては腕をこまねいてぼんやりしているわけにはゆかないのだから。 だが夫は、心配しなくてもいいんだと彼女に言った。 赤ん坊の食い代を稼ぐのはおれの役目じゃあないか? もしこのねんねの世話を女房に押しつけてしまえばおれは鼻持ちならぬ腑抜け野郎さ。 子供をつくるのはなんでもない。むずかしいのは育てることだ。そうじゃないかい? その夜クーポーはほとんど眠らなかった。彼はストーブの火を活けておいた。 一時間ごとに起きだしては、なまぬるい砂糖湯を幾匙か赤ん坊に飲まさねばならなかった。 それでも朝になるといつもどおり仕事にでかけた。 おまけに昼飯の時間を利用して区役所へ出生届けを出しにいった。 そのあいだボッシュの女房は知らせをうけて駆けつけ、ジェルヴェーズのそばで一日を過ごした。 ところが病人のほうは十時間ぐっすり眠ると不平をこぼし、じっとベッドにいるだけで もう体がくたくたに疲れたみたいだと言った。起こしてくれないと病気になっちまうわ。 夕方クーポーが帰ってくると彼女は苦情を訴えた。 むろんボッシュのおかみさんは信用できるわ。 だけどよその女が自分の部屋に腰を据えて、引き出しをあけたり道具に触ったりするのを見ると、 居ても立ってもいられなくなってしまうの。 翌日門番女が用事先から帰ってくると、ジェルヴェーズが起き出して服を着こんでいるのを見た。 彼女は掃除をし夫の夕飯の用意をしていた。そうなるともう二度とふたたび寝ようとはしなかった。 みんなはあたしをからかっているのよ、きっと! 奥さんがたなら体が弱りこんだという格好をするのもいいわ。だけど貧乏人、暇なしだもの。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.04.21 04:02:41
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