石神井公園の夜は孤独
またまた石神井公園に来てしまいました。あまり歩くことのない北側には思いがけずよい酒場がありましたが,公園のある南側には昼間は何度となく来ており,日中に彷徨った限りではこれといった酒場はありそうもないように見受けられます。中華料理店や食堂にはちょっとよさそうな店があったので,いざとなればそちらに行けばいいかなと程度の軽い気持ちでやって来たのでした。 さて,駅前商店街を進み渋いお菓子屋さんのある通りを進むと「ほかり食堂」があります。できれば最初は居酒屋からスタートしたいところですが,店内を覗き込むとなかなかよい雰囲気のようなので入ってみることにしました。店の外観はそれこそ安誂えの中華食堂のように見えますが,どうやらその安っぽさは,現代風の電飾看板が原因のようで,ガラスのサッシ戸越しに見える店内はまさに老舗の大衆食堂そのものです。広い店内にずらりと並んだテーブル席はいずれも1人客ばかり。銘々それぞれに定食を食べたり,ちょっとした肴をつまんでビールを呑んだりしていますが,どなたも黙々と自分だけの世界に浸っているのは食堂ならでは。都心の食堂と違って女性客はまったくおらず,どことなく殺伐とした空気が漂っているのも緊張感があっていい感じ。まあ,まだ早めのこの時間帯がちょうど近所の高齢者の夕食時と重なっているだけかもしれませんけど。チューハイと餃子をお願いすると,酒はセルフサービスとのこと。店の奥の冷蔵庫から缶チューハイを取り出し,コップを取って席に戻ります。酒だけはお燗を付けるために店の方にお願いするのがルールのようです。店は高齢のご夫婦でなさっていて,配膳を担当するお母さんが優しい笑顔を絶やさないのが印象的でした。品書:ビール(大:500,中:400),缶酎ハイ:200,ウーロンハイ:250,酒:350,串カツ/肉炒/焼肉:450,野菜炒/魚フライ/肉なす炒/とり唐揚:400,餃子:300 次は居酒屋にしておきたいとしばらく付近を歩きますが,中華料理店やラーメン店などが多く,これといった店が見つかりません。さらにしばらく彷徨っているとようやくうってつけの風情あるお店に巡りつくことができました。駅前の飲食店の入る雑居ビルのうらびれ具合に執着し過ぎて,すぐそばにあったこの店を逸れるように歩き回ってしまったようです。「ゆたか」という赤提灯に紺暖簾の王道酒場です。店内も奥にはテーブルがあるようでしたが,基本的にはカウンターのお店です。お客さんの入りはそこそこで,店の男女お二人が出迎えてくれました。最初ご夫婦かと思ったのですが,どうやら女性が店主で男性は雇われているようです。数年おきに長い旅に出て,たまに戻ってきてはここに勤めて資金稼ぎをするという店員さんのことが常連さんと女店主の話題に上っていて,どうやらこの女性は代替わりで店を切り盛りするようになった方のようで,すでにけっこうな歴史のある店なのかもしれません。席に着くと男性店員さんがお屠蘇と言って日本酒をグラスで御馳走してくれました。こういうちょっとしたサービスはうれしいものです。せっかくなので,お酒をお燗してもらうことにしました。焼物は期待したよりずっとしっかりしておいしくて,もうちょっとだけ値段が安いとうれしいのだなあと独り思いつつ酒をすすったのでした。