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カテゴリ:小説
電話は沼南不動産センター兼願いを叶える沼南易者協会からだった。
どうせ、前金がないから着手できないとか、 そういう類の話なんじゃないかと思ったが、 出てみることにした。 谷原「中野くん、準備できたよー。 相手のスケジュールもあるから、今日空いてるよね。 印鑑持って、すぐ来てよ。」 俺は意外な言葉に驚いた。 本当にアーシャに会えるのだろうか。 それに今日の今日とは。 中「えっ、今からですか。」 谷原「そりゃそうでしょ。一応はあの娘、アイドルなんでしょ。 それに中野くんは、どうせ失業中なんでしょ。 早く会いたい女性に会って、すっきりした気持ちで就職活動した 方がよっぽどいいでしょ。 すっきりね、すっきり。 すっ・きりー♪なんてね。 印鑑はシャチハタじゃダメだからね。 三文判でいいから。」 俺はわけのわからないまま、ハンコをポケットに入れて、 自転車をこいだ。 俺の姿に気付いたのか、不動産屋のドアが開いて、 谷原が出てきた。 谷原「おお、早かったねえ。じゃあ、ハンコだけもらって、 すぐに出るよ。」 中「出るって、ここじゃないんですか。」 谷原「ここな訳ないでしょ。 ちゃんと場所があるんだよ。 一応ステージっちゃあ、ステージ用意してあるから。 キラキラしたステージじゃないけどね。 まあ、うちの車で5分くらいだから。 早く、印鑑押して。複写の2枚目も忘れないでよ。」 中「本当に会えるの?」 谷原「だからウチはセイコウ報酬って、 この契約書でもうたってるでしょ。 時間がないから、急いで急いで。」 こんなに急がせるのは、何か騙されている気分だが、 もしウソだったら「成功報酬」をいい訳にして、 俺は断固払わないつもりだ。 俺はさっと印鑑を押すと、 塗装が腐りかけた白いコンパクトカーに乗った。 車はすぐ近くの空きテナントビルで停まった。 シャッターには「テナント募集」の看板が貼られている。 谷原はまずポストに向かった。 ポストに入っていたチラシをいまいましそうに、 床にたたきつけ、ポストの中をまさぐっている。 ポストから鍵を取り出し、 それでシャッターを開けた。 その部屋は以前はケーキか何かを作って販売していた 店なのかもしれない。 空っぽのガラスのショーケースが並んでいる。 谷原はそのガラスのショーケースの下のステンレスの 扉を開けて、ナンバー式の南京錠のような物の ナンバーをそろえている。 初めて見たが、ナンバーをそろえると その南京錠が外れて中から普通の鍵が出てきた。 今度はその鍵を持って、別の部屋のドアの前に立った。 谷原はさっきからずっと無言だった。 谷原は持っていたバッグから、目出し帽というのだろうか、 目と口の部分だけが開いた強盗がかぶるようなあれを 取り出した。 谷原は小さな声で言った。 谷原「これ、一応被りな。 少し脅すとかはいいけど、必要以上にしゃべるなよ。 それと万が一の時は、このベル押せ。」 俺は小さな♪のマークのボタンがついたボックスを渡された。 俺は不安になった。 谷原「大丈夫だよ。施設はちゃんとしてるし、 俺も終わるまでここで待機してるから。 ちゃんと施錠さえすれば大丈夫だから。 若いんだから、楽しんでこい。 30万じゃ、本当はこっちも割にあわない仕事で、 半分ボランティアみたいなもんだけどな。 浪漫だよ、浪漫。行くぞ。」 谷原は目出し帽をかぶった。 俺も同じように被った。 谷原がドアを開けると、そこはすぐに下り階段だった。 地下につながっているようだ。 その5へつづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.03.24 21:21:44
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