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カテゴリ:手術全般
私が専門としている白内障手術、今や術式は高度に洗練され短時間で安全に受けられる手術として多くの患者様に認識されています。
ところがこの白内障手術、手術医としての立場から見ると一つ一つの手技に様々な落とし穴が潜んでおり、「やればやるほど難しい手術である」というのが実感です。実際、1年に数千例の白内障手術を行うような日本のトップサージャンでも「白内障手術は簡単だ」などという方は聞いたことがありません。
白内障手術は日本で年間に100万例近くが行われそのほとんどが上手くいくのは事実ですが、それは我々白内障手術医の毎日の必死の努力の積み重ねの結晶でもあるのです。
私も今までに2000例以上の白内障手術経験がありますが、常に安全な手術を行うために、「安全な白内障手術施行のための15か条」というものを作っており、毎回それを熟読してから手術室に向かうようにしています。今日はそれがどのようなものなのかちょっと難しいかもしれないですが見て頂きましょう。
1. 手術制御糸は上も下も絶対確実に取る。取れなかった場合は躊躇なく取り直す。
2. サイドポート(角膜の横2ヶ所に開ける手術のための穴)作成時には、眼球位置が緊張で変位している患者様が良くいるので、その場所で本当に良いかどうかもう一度確かめる。
3.ビスコート(目の中を保護するゼリー状の固い物質)はしっかり入れる、ただし入れ過ぎない。
4.CCC(水晶体の表面の皮をめくる、手術で最も大切な手技の1つ)を始める前に、何よりも眼位が正位に保たれているかを確認し偏位していれば指示して修正する。CCCは「初めは大きく後は小さく」を徹底する。中心よりやや右側で穿孔し、切れ方をしっかりと目視しながらある程度大きめを意識して進める。そのとき、常にフラップを確実に作ってそれを持って安全にCCCを進めることを意識するのが大切である。後半の3分の1くらいになったら色気を出すと流れやすいので、そこはもう無理しない。
5.手術切開創は「輪部に近い2面、長すぎない3面」を心がける。そのくらいの創の方が操作性が良い。特に溝堀で有利になる。
6.ハイドロダイセクション(水晶体の皮と中身を水の流れで分離する手技)は最低でも2箇所以上から回す。1箇所だけだと効ききっていないことがある。後、ハイドロ針は十分に奥まで突っ込んで使用する。水流は強すぎるとCBS(水晶体の皮の裏側が裂けてしまう事)のリスクがあるが、かといって弱すぎると回らない。更に大切なことは注水後上からハイドロ針であまり核を押さないこと!(あまり押さえると水が逃げてしまいかえって回らなくなる)
7.溝堀はとにかく「掘って掘って掘って掘って掘って掘って、止めて割る」を徹底する。グレードが高くても逆に低くてもしっかりとした溝さえあれば必ず割れる。全例D&C(ディバイド&コンカー:術式の名前)の私にとっては「溝がすべて」であることを自覚する。
8.4分割時はUStip(超音波を発信する白内障手術器具)を刺す位置が浅くなりすぎないように気をつける。また不完全分割にならないように粘って粘って確実に割る。
9.IA(水晶体の皮質という部分を取る器具)では、皮質を捕まえたら網膜方向(Z軸方向)に少し引いて取っていくようにする。
10.IOL(眼内レンズ)挿入前にはヒーロン(目の中を保護するゼリー状の柔らかめの物質)でバッグ(水晶体の袋)をパンパンにし、更に必ずビスコートブロックをする。
11.プリセットIOL(私が現在使用している眼内レンズは、インジェクターという目の中への挿入機械の中に前もってレンズが装填されている)はたまにおかしなセッティングになることがあるので、懸念を感じるときには迷わず新しいものに交換する。
12.IOL挿入時には動きを良く見て先行ループ(レンズに生えている足)を必ずin(水晶体の袋の中)に入れる。その後左手をしっかりと回外して、IOLをリリースする。
13.ヒーロンをたっぷりと追加してバックを膨らませた上で、「視神経乳頭に向かって押す」 を意識しながらフックでIOLを収める。
14.最後のIA(目の中の最後の仕上げの掃除)は時間をかけて丁寧にやる。眼内炎(術後の怖い感染症)発症阻止に最も大切。
15.wound(傷口)からリーク(水の漏れ)がないことをMQA(スポンジの名前)でしっかりと確認する。リークがあれば確実に止まるまでハイドレーション(漏れを止める手技)する。
この内容は、常に自分自身の手術を厳しく見つめ反省しながら細かく微調整しています。
これからも1つ1つの白内障手術を「自分の両親の手術を手がける気持ちで」丁寧に確実に施行していきたいと思っています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.01.15 08:55:12
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