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カテゴリ:外来診療一般
さて今日は瀬戸内眼科コロシアム参戦記の続きです。
今回のプログラムでは、「網膜色素変性症治療の日本の第一人者」と言われる先生の講演もありました。
この「網膜色素変性症」は、遺伝性の疾患で全世界平均で3000~4000人に1人の発症率と言われている難病です。
これは進行性の病気で、最初は「薄暗い所で見えにくい」などの症状ですが、徐々にその夜盲・視野狭窄が進み、末期には高度の視力低下あるいは失明に至ることもあります。成人中途視覚障害原因3位であり、頻度が低いとはいえ大変重要な疾患です。
↑ これが患者様の実際の眼底写真ですが、中心部を除いて網膜が高度に変性・萎縮しているのが分かります。
以前は有効な治療法は全く無いと言われていたのですが、数年前から「ウノプロストンという目薬が効果がある」という論文が出始め、
その後、0.15%ウノプロストン(オキュセバ)点眼液という名前で開発が続いています。現在は、第2相臨床試験で網膜感度悪化の抑制が確認され、引き続き第3相臨床試験に向けての準備が進められています。
この期待の0.15%ウノプロストン点眼液なのですが、実は0.12%とやや濃度が薄いものの全く同じ成分の目薬が「レスキュラ点眼液」という名前で20年近く前からすでに発売されています。
このレスキュラ、緑内障・高眼圧症の治療薬として発売され、発売後数年はベストセラー薬として一世を風靡したこともあったのですが、「点眼時に非常にしみる」、「角膜(黒目)の上皮障害を高率に起こす」、「眼圧下降効果が弱い」などの弱点があり、1999年に同系統で更に効果が強く副作用の少ないキサラタン点眼液が発売されると、緑内障点眼薬としての命運をほぼ絶たれ忘れ去られた存在となってしまっていました。
ところが薬の作用と言うのは不思議なもので、今また新たな病気に効く可能性が浮上しているわけです。「緑内障の薬としてはダメだったが、実は違う不思議な力を持っていた。」ということなんですね。
今回の講演では、このレスキュラ(ウノプロストン)が、何故網膜色素変性症の治療に有効なのかなどの最新の知見が語られました。
それによると、ウノプロストンは分かりやすく言うと、死にそうになっている網膜の視細胞を「おい、寝るな!」と言って起こしている可能性があり、そのために細胞感度の改善が見られるのだろう、ということでした。例えるならば、
冬山で意識を失い遭難しかけている人をフルビンタして叩き起こすような力がある。
とのことでした。専門的には、視細胞のアポトーシスの抑制及び脈絡膜の血流増加作用と言うことになります。
そして面白いことに、培養細胞でのアポトーシス抑制効果はウノプロストンのみに認められ、同じ系統で現在緑内障治療で第一選択薬として使われている、キサラタン、トラバタンズ、タプロス、ルミガンなどにはその効果が認められない、ということでした。
我々眼科専門医の間では、良く飲み会などの話題で「網膜色素変性症にレスキュラ(ウノプロストン)が効くのなら、それよりもっと眼圧が良く下がる同系統薬のキサラタンとかならもっと効くんじゃないの?」という意見があり、「うん、血流改善効果は一緒なんだし、効くような気がするよね。」という結論になることもあったのですが、どうやらレスキュラ(ウノプロストン)のみが効くようなんですね。これは、「学校ではどうしようもない不良だったけど、社会に出たら実は特殊な才能を持っていた。」生徒のようなものですが、薬の効果というのは、本当に不思議で意外性に満ちていることが多いんですね。
後もう一つ勉強になったのは濃度の話でした。私は「ウノプロストンがそんなに効くなら、0.15%とかじゃなくてもっとどーんと濃度を上げたほうがいいのになあ。」とずっと思っていたのですが、この薬は元々「非常にしみる」ので、「色々試したけど、0.15%が限界。これ以上だととても点眼できない。」ということでした。
難病の網膜色素変性症ですが、治療薬の登場する日は確実に近づいています。私も実際に発売になるのを今から心待ちにしています。(続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.11.12 13:39:26
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