人間仁科のブログ・八重山見聞録外伝

鰯ヘッドは意外な人物を取り込んでいたりする。その例をあげるなら、顕著で端的でもっとも解り易い思われるのは麻原ショーコー先生を担いだ青年たちだろう。

彼らの中には他人が羨む高学歴高収入の者も多数いたし、けっして少なくはない財産をつぎ込んだ者さえいたのである。鰯ヘッドにまつわるテーマに限らずとも巷にはものを考えるときの基準に学歴の高低を引っ張り出す向きが幅を利かしているようだが、大学全入時代を迎えようと言う昨今、学歴なんぞ屁のツッパリぐらいにしかならぬし、巷でまことしやかに語られるほどに低学歴と高学歴に犯罪率や殺傷率の差なんぞなくて、実は単に学歴分布に比例しているに過ぎなかったりするのである。つまり世の中に100人犯罪者がいて、そのうちの50％が高卒で、1％が東大卒業生であるならば学歴分布も同様に50対1であるという事だ。無論誤差もあるし、高い教育を受けたものに多少の分があるのは確かだろう。

しかしである。こと鰯ヘッドの信者分布に関して言うなら高学歴になんら分はない。中卒も大学院卒も同様に鰯ヘッドを信心する。社会的影響力や対外的な発言力を考慮するならば、むしろ高学歴なほうがたちが悪いとも言えるのである。中卒の鉄筋工のお兄さんが鰯ヘッドに巻き込めるのは精々が、できちゃった結婚で結ばれた幼妻と同僚や級友を含めた中卒仲間数名程度であるが、これが最高学府で優秀な成績を収めるような者だとその影響力を行使できる範囲は言うまでもなく中卒鉄筋工の数倍どころでは済まない。

加えて鰯ヘッド信仰のための理論武装だって大卒は中卒よりも得意だろうし、逆に言えばその両手で抱えた鰯ヘッドを小奇麗な布で覆い隠したぐらいにして獲物を懐へとおびき寄せ、容易には逃げられぬほどに近づいてから鰯ヘッドで噛みついてくるぐらいの小細工にだって長けている。



思うに、武装したり偽装したりする時点でやっぱ胡散臭いのである。臭くないと思うなら臭気紛々で堂々と往来を行けばよく、できるものならば私なんぞが希望するに各信者の方々はその信仰対象の鰯ヘッドを首からでもぶら下げて頂き、誰が見ても一目でそうとわかるようにしていて欲しいのである。さすればこちらも無益な時間を過ごさずに済むし、鰯の頭が如何に尊いかなんて一文の得にもならぬどころか散財ばかりを誘導する阿呆話を聞かされずに済むからである。

できるものなら私は、多くの苦悩や苦労や苦節を抱え多くの迷妄や煩悩に手を焼き七転八倒しながらその度に起き上がってきたような人とお付き合いしたいので、鰯ヘッドを信心する人とはあまりお付き合いしたくない。なぜって、鰯ヘッドに依拠した時点で当人の人生に刻まれてきた筈の苦悩も苦労も苦節も迷妄も煩悩も見事本人の手からこぼれ落ち、彼の手に残ったものは鰯の頭だけだからだ。

辛いのや苦しいのは同情もしてあげられるが、辛さ苦しさを放棄するかわりに手に入れた鰯の頭はあまりに軽すぎて「ちょっと手に取ってみて。ほら」なんて言われても持ってみる気にもなれないのである。