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カテゴリ:短歌/俳句/小説/戯曲
◆第3話「謎の経営者」 (麻衣、帰宅する) 麻衣 ただいま。 母 お帰り。今日は遅かったね。 麻衣 ちょっと友達と話してて。 母 友達って、美里ちゃん? 麻衣 うん。それと、先輩。まだ就職先が決まってない先輩と、就職課に行ってきたの。 母 決まってないって、そりゃ、大変だねぇ。そろそろ、あんたたちの学年が就職活動っていうのにね。 麻衣 先輩、すごく暗かった。苦しそうだった。就職が決まらないと、人はあんなにも変わるものなんだ、って思ったよ。 母 それはねぇ、仕事だからねぇ。お父さんたちだって、失業や転職は大問題だよ。うちは公務員だからまだいいけど、康司君の会社は、最近二人もベテランの人が辞めたんだってよ。 麻衣 康司君の会社が?小さな会社なのに。 母 あたしゃ、詳しいことは分からないけど、最近はガソリンとか食品も上がってて主婦も財布のヒモが固いし、小さい会社は売上が落ちて、経費もかさんで、大変なんだろうね。 麻衣(笑いながら) お母さんって、経済学者みたいね。 母 どこが学者よ。あたしらはただの主婦。お父さんを応援して、あんたたちの成長を見守るのが仕事なのよ。 麻衣 立派な仕事ね。私もお母さんみたいな主婦になりたいな。 母 お母さんは今からテレビ見るから、あんたはご飯食べて、今日はゆっくり休みなさい。確か、明日は早いんだったね。本当は一緒に食べたいんだけど、あんたが遅かったから、先に食べちゃったよ。ごめんね。 麻衣 ううん。ありがとう。じゃあ、そうするね。 (翌朝。麻衣、自宅を出る。信号で待っていると、近所の幼馴染みの康司が現れる) 康司 麻衣! 麻衣 康司君、久しぶりね。今から仕事? 康司 …当たり前じゃないか。もう学生じゃないんだからな。 麻衣 お母さんから聞いたんだけど、康司君の会社、最近退職があったの? 康司 なんだ、おまえ、相変わらず情報通だな。…まぁ、退職っていうか、辞めさせられたんだけどな。 麻衣 どういうこと? 康司 一年目のオレが言うのも何だけど、ウチの会社、ホント売上きつくてさ。 それで、専務が退職金を満額出せそうにないって言って、早期退職者には規定の金額を出すけど、ずっと残った場合は、満額保証はできない、って言ったんだ。そしたら、一週間で二人も辞めたんだ。 (麻衣、神妙に聞き入る) 康司 で、二人のうち一人が営業の責任者で、その人の得意先がオレにも回ってきて、今日から地下鉄で通うことにしたんだ。ガソリンも値上がりしてるし、通勤手当だけじゃ賄えないからな。 麻衣 …経済って、動いてるのね。 康司 は?…当たり前じゃないか。おまえもしっかり会社を見極めて、後悔しないように選べよ。就職の合同説明会は広告イベントだから、いいことしか言わないぞ。 麻衣 就職課はどうなの? 康司 就職課って…。すまんが全く分からないな。とにかく、オレに言えることは、会社や仕事のことは、社会人になって知ることばかりで、学生時代の経験や知識はほとんど使いものにならないってことだ。 康司 おまえは真面目だからあんまり心配してないけど、対策は早めの方がいいぞ。何かあったら、九時以降なら電話もつながるから、いつでも聞いてくれ。 あ、それと、おまえの学校の近くの喫茶店のマスターに「純一さん」って聞いてみたらいいぞ。面白い社長さんだ。じゃあな。 麻衣 ありがとう。今日もお仕事頑張ってね。 (麻衣、電車の中で考え事にふける) 麻衣 朝の地下鉄で見るサラリーマンの人たちって、改めて見てみると、なんて疲れた顔をしてるんだろう。それに、派遣会社の広告もいっぱい。 サラ金や多重債務者の債務整理の広告も、最近増えてきた気がする。これって、生活に困っている人…仕事や人生がうまくいってない人が多くて、みんな、苦しんでるってことなのかなぁ…。 (麻衣、大学に到着) 絵里 よっ! 麻衣 絵里。今日は朝から授業なの? 絵里 なぁ~に言ってんの。今日は客室乗務員に内定した先輩に会うから、早く来たの。 麻衣 絵里、JTBって言ってたじゃない? 絵里 それとCA、キャビンアテンダント。 麻衣 どこが楽しいの? 絵里 どこがって…。もしかしたら、芸能人とか有名人に会えちゃったりしそうじゃない?それに、制服もかわいいし、女の子の憧れだし、男もなにげにスッチー好きだし…。 あたしの第一志望って言えるかも。じゃ、あたしあっちだから、また今度ね! 麻衣 じゃあ、またね。 (麻衣、授業に出る。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.06.23 04:08:18
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