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カテゴリ:短歌/俳句/小説/戯曲
(相談室に三人座る。駒田入室) 駒田 こんな時間に相談に来るなんて、就職課は六時までだから、覚えておきなさい。 麻衣 はい、突然伺ってすみません。 駒田 で、何だい、相談ってのは。 美里 実は…私たちじゃなくて、こちらの先輩のことなんですけど。 亘 …。 駒田 その先輩が相談希望なら、自分で相談内容を話したらどうだ。 亘 四年のこの時期で内定ゼロって、やっぱり、ヤバイんですか? 駒田 ヤバイ?…その言葉遣いがヤバイなぁ。君、面接何社受けた? 亘 三十社ほどです。 駒田 三十?で、何社受かった?最終には何社行った? 亘 最終面接まで行ったのは四社で、全部落ちました。 駒田 全部落ちたぁ? (亘、うつむく) 駒田 君は、自己分析はどれくらいやった?業界研究は?筆記対策は?日経は読んだか?小論文対策はやったか?OB訪問は何社やった? 亘 …。 駒田 なんだ、覚えてないのか?そんなことも言えないから三十社も落ちたんじゃないのか? 亘 …。 美里 そんな…。 麻衣 私たちが聞きたいのは、この時期の四年生にどういう対策があるか、ということです。自己分析や業界研究も、冬とは違うやり方が必要かもしれないので、教えてもらえませんか? 駒田 おいおい、四年生で、三十社も落ちて、しかもこんなに暗いんじゃ、対策なんてあるわけないじゃないか。ちゃんと去年から日経読んで、自己分析やって、業界研究しとけば、今頃ここに来なくて済んだんだよ。 麻衣 でも、就職課は、就職に悩む学生のためにあるんですよね? 駒田 それはそうだが…。 亘 考えられる対策は全部やりました。始めた時期が遅かったとも思いません。志望業界だって、二年生の頃から描いていました。 でも、何かが違う気がして一時期何もしなかったら、いつの間にか時間がたって、どうにもモチベーションが上がらないんです。 駒田 おいおい、だったら就職課じゃなくて、保健室に行った方がいいんじゃないか? 美里 ちょっと、それはひどくありませんか? 亘 僕は自分の引きこもりで失敗したと思っています。だから、何と言われても弁解はしませんし、就職課に頼るつもりもありません。 ですが、僕と同じような気持ちの学生も、この九州学院にはたくさんいます。よかったら、今年の三年生には、対策ばかりじゃなくて、本質的な話をしてもらえないでしょうか? 駒田 本質的な話?我々の教えていること以外に、何の本質があるんだ? 就活は、自己分析して、業界を決めて、説明会に行って、エントリーシートを出して、面接を受ければ終わりだ。それらを全て、早めにやること。それ以外に対策はない。 亘 じゃあ、それをその通りにやった学生たちが、どうして行きたい会社に決まらず、苦しんでいるんでしょうか。どうして決まっても、なお不安なんでしょうか。この学校では、学生たちの意向を無視して、有名企業ばかりに入らせようとしてはいないでしょうか。 駒田 四季報に財務データを提供できないような会社は一流じゃない。どうせ働くなら、一流企業の方がいいじゃないか。それは就職課だけじゃなく、大学の思いやりなんだ。 亘 思いやり?学生の思いを聞かずに、一体何の思いやりが持てるんですか?もういい、今日はどうもありがとうございました。長々と失礼しました。 美里 先輩…。 亘 失礼しました。 麻衣 どうもありがとうございました。 駒田 …。 (三人、駅へ) 亘 今日は情けないところ見せて悪かったな。 美里 あたし、もっと先輩の話を聞きたいんですけど、今からバイトが…。 亘 そうか、頑張れよ。失敗談ならいくらでも話してやれるぞ。 麻衣 先輩!まだ希望はあるから、私たちと一緒に頑張りましょうよ! 亘 ありがとう。オレだって、まだ希望を捨てたわけじゃない。どんなに遅くなろうと、きっと納得の内定を掴んでみせるよ。もしかしたら、おまえたちと同じ時期になるかもしれないけどな。じゃあ、今日は本当にお疲れ様。またな。(亘、電車に乗り込む) 《麻衣の回想》 確かに、うちの就職対策は真剣じゃないわけじゃない。資料も情報も、相談体制も整ってる。でも、何か一つ、肝心なことが全く考えられてない気がする。 あの、誰からも慕われてた先輩が、中途半端なことを言うはずもない。先輩の言ってた「本質的な話」って、どういうことなんだろう?私はそれを知っているのかしら? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.06.23 04:11:29
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