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カテゴリ:短歌/俳句/小説/戯曲
◆第2話「就活の現実って?」 麻衣 先輩、久しぶりですね。 亘 ああ、いたのか。こんな所で会うなんて、奇遇だな。 麻衣 先輩、スーツ似合ってますよ。あと半年もすれば社会人なんですよね。 亘 …。 美里 今日は会社のイベントでもあったんですか? 亘 オレ…実はまだ、内定もらってないんだ。 麻衣 えっ? 亘 ここなら誰もいないと思って来たのに。まぁ、おまえたちで助かったよ。最近、同級生の顔を見るとイライラするからな。 美里 すみません、私、とっくに就活は終わったとばかり…。 亘 いいんだ、気にするな。ふぅ…。 亘 それより、おまえたち、どうしてここにいるんだ? 麻衣 今日は、就職課の説明会に行ってきたんです。 美里 あんまり面白くなかったんですけどね。 亘 あぁ、駒田のオッサンの話か。あのオッサンの話に賛成するわけじゃないけど、確かに就活は厳しいよな。オレだってサボったつもりはないのに、もう…三十社落ちたよ。 美里 三十…。 亘 間違いなく多い方だろうな。というより、ここまで落ち続ける奴もいないよな。 麻衣 先輩、確か商社に入りたいって言ってましたよね。 亘 …おまえ、よく覚えてるな。そう言えば、去年の今頃は、そんなこと言ってたっけ。 美里 何言ってるんですか。あたしたちをあんなに励ましてくれたのに。 亘 あの頃は何も知らなかったんだよ、何もな。ま、忘れてくれ。 麻衣 そんな…。 (喫茶店のマスター、デザートを運んでくる) マスター はい、サービス。 美里 あ、ありがとうございます! マスター 何だい、君たち、就職の話かい? 麻衣 ええ。まだ何もやってないんですけど。 マスター 僕らの頃は高度成長期で自由気ままにやってたけど、君たちが生きる時代は国内、海外に競争相手が増えて、大変だね。 美里 マスターも就職では悩んだんですか? マスター そうだね…。三十年近く前だからよく覚えてないけど、僕は自分の店を持つことに憧れてたから、あんまり会社のことは真剣に考えてなかったよ。 美里 最初は何の仕事をしたんですか? マスター えっと…食品の商社だよ。 商社なんて聞くと、今じゃカッコ良さそうに聞こえるが、僕らの頃は「横流し屋」みたいなもので、飲食店にビールや食材を卸したね。それで喫茶店に興味が出て、四十五歳で脱サラしたんだ。 美里 先輩、商社志望なんです。何かいい情報はありませんか? 亘 おい、美里、もういいんだ。 マスター 君、就職がうまくいってないのかい? 亘 …。 麻衣 先輩、ごめんなさい。詳しい事情も知らないで。 亘 オレだって、本当はオレだって、四年生の夏でこうなってるはずじゃなかったのに…。 マスター 君、将来やりたいことはないのかい? 亘 ないことはないんですが、というか、なかったんですが、今はもう、人に夢を語る自信がありません。 マスター 面接でたくさん失敗したの? 亘 面接だけじゃなく、僕の就活そのものが、いや、大学生活そのものが失敗だったんです。 マスター 僕には詳しいことは分からんが、君たちの大学には就職課があるだろう。そこに行ってみたらどうだい? 美里 就職課って、あそこの人たちが学生の気持ちなんて分かるのかしら? 麻衣 別に駒田課長のような人ばかりじゃないだろうし、私たちが就職の話を聞くってことにして、行ってみない? 亘 おい、おまえたち…。 麻衣 先輩、行ってみましょうよ。 マスター こういう時こそ行動だよ。一人じゃ悩みが深まるばかりだし、何かのきっかけにもなるだろうから、行ってみたらどうだい? 亘 はい…じゃあ、行ってみます。どうもありがとうございます。 (三人、喫茶店を出る) (三人、就職課へ) 美里 こんにちは! 職員1 君たちは三年生か?就職課はあと十分くらいで閉まるよ。 美里 ちょっと、相談したいことがあるんですけど。 麻衣 十分でも構いません。 職員1 そうは言われても、担当の者が…。あっ、そうだ、今日は課長が残っているから、課長に聞いてみるかい? 美里 課長っていうと…(二人、目を合わせる) 職員1 課長ぉ~!学生が就職相談に来てますよ。 駒田 (奥から)了解!じゃあ、相談室に通しててくれ。 職員1 じゃ、あっちで待ってて。お茶出せなくてごめんね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.06.23 04:13:50
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