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カテゴリ:想像の小箱(「十二」?)
「優雅な舞(その1)」
慶国首都堯天に聳える凌雲山の頂にある金波宮。赤楽二百一年正月十四日は翌日に上元を控えているだけに浮き立っている。奚や菴だけでなく、官や兵もどこかしらウキウキしているようだ。この日は珍しく掌客殿が使用されている。翌日の上元の式典の賓客が泊まっているわけだが、この三人の賓客のうち少なくとも二人はこの扱いに閉口している。ご機嫌伺いに現れた景王に食って掛からんばかりの勢いだ。 「なぁ、どうしてここなんだ?いつも通りに蘭邸じゃ拙いのか?」 「今回は台輔がいらしていますので。それなりにしないと、とうちの官どもが五月蝿くてな。楽俊だけなら蘭邸でも良いが」 「緋翠がいるから?それはどういうことだ?」 「紛らわしいと苦情が来ているのだ。台輔を私と間違えたらどうすると。そんなことはないと思うのだが」 「…秀絡、お前どう思う?」 「楽俊さん、いきなり振らないで下さいよ。お二人が並んでいれば違いはハッキリしますが、相手の振りをされたら… 間違えるかもしれませんね」 「そうか?私にはそんなに似ているとは… 雰囲気がまるで違うだろう?」 「例えば、景王が襦裙を纏って少し夢見心地な表情をなさったとします。一方の台輔が官服を着て眉間に皺を寄せたら… 別々にお会いしたら『今日はちょっと雰囲気が違う気がするが?』くらいに感じますよ。雰囲気はまるで違いますが」 「秀絡、それって褒めているのか貶しているのかわからないぞ」 「景王は王ですし、台輔は麒麟です。纏っている雰囲気は自ずと違いますが、それ以外は似ていらっしゃいますよ。私は事実を述べただけで、それについて評価した覚えはありません。似ていることが良いとも悪いとも思いませんのでね」 「この屁理屈小僧めが。まぁ、ものごとに左右されないと言う意味では間違いないが… そんなに似てるか?」 「楽俊さんは外見で人を見ないから似ていないと感じるのではないですか?人を本質で見れる人は多くないですよ」 「なんか誤魔化された気がするが… でも、夕餉くらいは蘭邸じゃ拙いのか?」 「表向きは台輔がいるからだけど、ホントは八国会議をやるからなんだ。楽俊なら構わないが、宗王は…」 「ああ、そういうのやってるんだ。あれって遣士の人事に絡む時にやるんだよな」 「自分で始めておいて忘れたのか?五年か十年に一度、もしくは通司、遣士の新規任用に関る事態が生じた時、じゃないのか?確か、髪按が通司に抜擢される時に開いたのだろう?」 「髪按が通司?そりゃ百四十年も前の話だ。夕暉が麦州候になった玉突きで蘭桂が大司冦、髪按が通司になったんだろう?今回って… 戴か?」 「ああ、翔岳の跡をどうするかだ。一応は補佐の翠蘭を代行にしているが、春の除目までに正式に決めないといけない。翠蘭が悪いと言うのではないが、何せ若いというか、緋媛の娘であるというか、いろいろあってな」 「もめているのか?」 「どうなのだろう?何せ戴だからな。行きたがる奴もいない。おまけに傾きかかっているし」 「翔岳の死が悪い予兆になってしまったからな。多少抜けている奴でないと戴ではきついだろうな」 「抜けている奴?それはどういうことだ?」 「まぁ、蘭桂や緋媛なら知ってると思うが… そういえば蘭桂は天官長になったのか?」 「止むを得まい。仮に暁星を征州にやったが、蘭桂をいつ戻せるかわからぬからな。官職の交換だ。普通はありえぬがな」 「紫蘭が暁星のほうについていって、髪按がその後釜か… でもそれも一時的なのだろう?」 「それも頭が痛いのだ。緋媛を出すという案もあるがそうすると玖嗄がなぁ… 単身赴任をしないってのをやめるべきなのかな?」 「良人が細君の足を引っ張っているのか?それは可哀想だな。玖嗄も針の筵だろう」 「おそらくはその辺りも絡むのだろうな。諸官の人事は最終的には冢宰府だが、素案は天官府だからな。ややこしい」 「じゃあ、蘭桂や髪按もでてるのか?」 「夕暉は出ていないが、光月は大司冦だからな。こう考えてみると門閥みたいになっているんだな」 「…他人事みたいに言うなよ。慶のことだろう?」 「結果として官の子弟が大学で優秀な成績を収めて登用されているだけなんだが、仙だから親も現役なんだよな。ところによっては孫だの曾孫だの… こういうのは考えものだな」 「それでも仙の子は男女一人ずつだから良いものの、仙の子沢山は、もしあったら大変なことになるな」 「何難しいお話をなさっているんですの?」 「おお、漸くお姫様のお召し替えが終わった」 「酷い言い草ですわね。どうせ馬子にも衣装だといいたいのでしょう?」 「…秀絡、そう聞こえたか?」 「ですから、いきなり私に振らないで下さい。少なくとも揶揄の仕方は良くないかと。お二人が並ぶと違いが良くわかる」 「もぉ!秀絡さんまで!」 「いやいや、苛烈な王と慈悲の麒麟の違いについて話していたからね。昭媛、そうは思わないか」 「兄さん、人に振るなと言っていながら私に振るんですか?ホントは少麓さんに振りたいんでしょ?」 「…憎まれ口は内輪だけの時にしてくれよ。景王が笑っている」 「え?あ、その…」 「構わぬ。自分の家のように過ごしてもらえればそれが嬉しい。私も肩肘張ったことが嫌いだからな。立っていないで」 「え?でも…」 「一応は非公式な会合だ。王妹としてでなく、昭媛として加わりなさい。少麓も座って」 楽俊が促したので、緋翠、少麓、昭媛の三人はとりあえず榻に並んで座った。三人の王相手にどう振舞えば良いのか様子見である。緋翠はすぐにでも景王と高王の間に入って行きたいのだが、今ひとつ雰囲気がつかめずに戸惑ってきょろきょろしていた。その様子を横目に見ていた楽俊は苦笑し、緋翠に声をかける。 「緋翠、こっちにおいで。お前が来たいと言っていたから来たのに、話もしないでは後悔するだろう?」 「は、はい!」 緋翠は喜んで景王と高王の間にちょこんと座ってニコニコしている。緋翠がどいて空いた所には秀絡がちゃっかり座っている。 「秀絡、両手に花か?」 「楽俊さんだってそうでしょう?」 「え?こっちは緋翠がそうだよ。私は刺身のツマみたいなものだ」 「台輔が来たいと言っていたが、どういうことなのかな?」 「ああ、去年の二百年の時に来るはずだったのがダメになって、相当に膨れていたんだよ。事情が事情だけに表向きは大人しかったが、なんだかんだとちくちく言われてね。あっち関係のことは話には入れないってのもあるのかな?すっかり甘えん坊だよ。で、『たまには母さんにあいたい』って」 「母さん?」 「そ、それは言わないで下さいってお願いしてるのに!」 「蓬莱では親兄弟が似ているんだろう?その話をしたら偉く気に入ったみたいでね。姉妹でもいいんじゃないかって思うが」 「う~~ん、どっちも微妙だな。宗王に言わせると私たちは外見は似ているというし… 蓬莱の基準なら母子か姉妹だな。けど、蓬莱には他人の空似と言うのもあるし… 見た目では姉妹が順当なのか?」 「でも気持ち的には親子みたいだろう?いきなりこんな大きな子供が出来るのは考えものだが、年が離れすぎて…」 「楽俊」 「おっと、これは禁句だったか?神仙だと関係ないんじゃないか?それに永遠の娘にはお気に召さないとか?」 「なんとなく厭なんだ。神仙は寿命と無縁だが、年のことを言われるとムッとする。漢の場合は若く見られるのが厭だろう?軽く見られたような気になるんじゃないか?」 「確かにそれはあるかもしれないな。若いということは免罪符だが、要するに未熟だから大目に見ようってことだからな。そういう侮られるようなことが厭だから、いろいろ言葉遣いとか考えたりもしたが… 今はあまり考えないな。周りを見ると私よりも若い王様も多いしね。無理をすることもないかな、という気になってきた。が、秀絡はどうだ?」 「だから、急に振らないで下さいよ。焦るじゃないですか」 「そうは見えないが?」 「王になってからまだ二年では右も左も戸惑うばかりですから、あれこれ考える暇もありませんよ」 「だから、少麓をよこせって?」 「え?」 「…こういう場で言わないで下さいよ。当人にはこれから言うつもりだったんですから」 「ああ、それは悪いことをした。でも、少麓だって巧のために働きだしたばかりだぞ。少しは考えたらどうだ?」 「少しは考えていますよ。けど、私だってイッパイイッパイなんです。心が寛げる相手が欲しいと思ってはいけませんか?」 「実家にはイロイロいるんじゃないか?」 「あちらはあちらで別ですよ。少なくとも気がおけるような感じじゃないですから」 「でも、昭媛じゃないってのはどういう意味なのかな?」 「えっと、そ、それは…」 「啓鷹と阿薫をくっつけようとしてるそうじゃないか。前例主義って奴か?」 「……」 「楽俊、啓鷹は慶の官だぞ。玉拓みたいになるのは困るな」 「といわれているぞ。少麓についてもそうだ。野合では子は授からぬぞ」 「……」 「兄さん、顔を真っ赤にしてどうしたんですか?私に少麓を義姉様と呼べと?」 「昭媛!」 「少麓も顔が赤いわよ。もう二十年も前のことだから言うけど、パッと見たときから気にいらなかったのよね。なんとなくこんな風になりそうな気がしてたから。まぁ、あなたが悪い人じゃないってわかったからいいんだけど、小姑なんて思われたくはないし… でも、兄さんに取られるのも癪だわ」 「癪って…」 「義姉様って響きはいいけど、遠く離れるのは厭だし、巧に恩返しもしていないのも情けないでしょ?兄さんの分もあるし」 「ああ、確かに私は恩を得ただけで奏に戻ってしまったからな。それを言われると辛いな」 「秀絡、今日は何で『私』なんだ?いつも通りに『俺』でもいいが?」 「えっと、景王君の前ですから。初めてなのに無礼な奴だと思われたくないので」 「私はそんなこと構わないぞ。むしろ普段と違う方が厭だな。なぁ、楽俊?」 「私にも『おいら』と言えって?でもそれは蘭邸じゃないとな。ここはどうも『おいら』って雰囲気じゃない」 「言い訳がましいな。緋翠、緋翠の前では楽俊はなんていうんだ?私か?おいらか?」 「私の前ではいつも『私』です。どうしてなんでしょう?」 「そりゃ台輔の前だからキチンとしないと拙いだろうって思うんだろうさ。台輔の目を通して天が見ている」 「え?そうなんですか?」 「楽俊、ホントのような誤魔化しは言うなよ」 「誤魔化しじゃないさ。実際、台輔の前だからと言うわけじゃないが、常に天には見張られている気がする。それを思い出してきちんとしようと思うんだろうな。もう五十年もやっていると癖になってしまっている。直しようがないな」 「だから私の前でも『私』なのか?」 「そういうわけじゃないさ。秀絡も言っているだろう?私は外見で人を見ないって。緋翠とは全く違うさ。真面目にしなくちゃイケないときは真面目にしているだけだ。王宮には『おいら』ってのは似あわないからな」 「まぁいい、明日は蘭邸でのんびりしてもらうからな。その時は『私』は厳禁だ」 「そりゃ酷い。じゃあ、秀絡もだぞ」 「私もですか?でも、蘭邸の雰囲気と言うのは味わいたいから…」 「そう大したものでもないぞ。あまり期待すると拍子抜けするからな」 「楽俊、お前が言うな。それは私が言うことだろうが」 掌客殿では景王と賓客たちの笑い声が絶えなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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