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2006年04月07日
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「優雅な舞(その5)」

戴国首都鴻基。夕暮れ間近の広途を遣士代行の翠蘭と陵崖が家へと歩いている。昨日の午後に続いて今日も白圭宮に向かい、遺体の収集、確認、修復、遺物の確認や確保、その他諸々の作業を手伝ってきたのだ。昨日の午後に初めて惨状を見た陵崖は言葉を失い、ひたすら作業の手伝いに没頭した。下手に何かを考えてしまうと強烈な吐き気に襲われてしまいそうだったし、夕べも今朝も食欲があまりなく、粥をすするくらいだった。翠蘭の方も胃が受け付けないのか、粥すらも箸がつけられない有様だった。それでも率先して事態の収拾に協力した。この二日でわかったのは死者が三十五名、重傷十五名、行方不明およそ一名。上座の方にいた冢宰や三公、六官の長、諸侯らはすべて身罷り、次官級も半数は死に、残りは重傷で身動きできない。比較的軽傷で事態の収拾の指揮に当たっているのは小司馬の翔雲である。王師や瑞州師の将軍も数人が運良く生き延びたものの、四肢のいずれかを失っており、将軍職を務めるのはもはや無理だろう。つまり、首都州の瑞州を含む王宮の要が一気に失われ、最も上位で五体満足といえるのが翔雲だった。夏官としては線がやや細く、秋官向きのように見えたが、王師や州師の副将らに命じて兵の動揺を抑えるとともに、白圭宮内の後片付けを行わせた。逃亡した使令は人の敵うものではないが、王や台輔の仇として討ち果たしたいので、弩を持たせた一軍に探索に当たらせた。王師直属の一卒百騎の空行兵にも小弩を持たせて雲海の上下ともに探索に当たらせた。これらの体制が整ったのが事件発生からおよそ二刻、泰王の葬儀終了までの条件で白雉の肢を翔雲が持ち、ことに当たったのだ。民に動揺を与えないためにどのように発表すればよいかと翔雲に相談された翠蘭は『白圭宮で奇禍に見舞われ、王や台輔らが身罷った』と公表するのはどうかと応えた。台輔の使令によることだなど知らせる必要もないし、王と台輔がいない旨が伝わればよい。里祠に二本の半旗を掲げるよう通達するだけでも民はその意味を知るだろう。知ることが必ずしも幸せとは限らないのだ。などといったことを翠蘭は考えていたが口に出す前に翔雲はあっさり首肯した。おそらくは翔雲も同じように考えており、遣士代行の翠蘭も同様に考えているなら大丈夫だろうと判断した上での相談だったに違いない。翠蘭はそのように感じた。この翔雲が仮朝で舵取りをしていくのなら、さほど酷いことにはならないかもしれない、と思いつつ、片づけを手伝った。その作業もほぼ一段落し、明後日に泰王の葬儀を行うことになった。手際のよさに翠蘭も舌を巻くほどだった。翠蘭と陵崖が疲れた身体を引き摺るようにして家に戻ると、起居から灯りが漏れていた。そこでは彩香が茶を飲んでいた。

「お帰りなさい。勝手に頂いているわ」
「あ、いえ、どうして彩香さんが?」
「あれで報告が終わりなわけないでしょう?詳報を届けてもらうにも翠蘭は動けそうもないし。だから取りにきたのよ」
「すみませんでした。あの時はあれ以上のことを考えられませんでしたので」
「あれから丸一日以上経ったけど、落ち着いて話せるかしら?」
「あまり自信はありませんが… 私は上元の式典に末席で加わっていましたが、これが幸いしました。式典の最中に台輔が急に顔を歪め、胸の辺りを押さえました。と同時に獣の咆哮が轟きました。妖魔が出没したのかと左右を見回したところ、台輔の足元の辺りから赤い獣が出現しました。台輔の使令です。誰もが呆気に取られていました。が、あの場で唯一帯刀が許されていた虎嘯さんが大刀を手に泰王や台輔に逃げるように叫びました。それで私は冬器を求めて外殿から飛び出し、近くにいた衛兵から槍を受け取るとともに弩などを用意するように言い、すぐさま引き返しました。しかし、その時には既に外殿は血の海になっており、使令は裏の扉を破っていました。そちらに泰王や台輔が逃げたのです。虎嘯さんはお亡くなりになっていたので、私は虎嘯さんの大刀を手に追いかけ、斬りつけたのですが、逃げられました」
「使令に斬りつけたのに無傷だったのか?」
「はい。不思議なことです。使令が気ままに鎌首を振るうだけで数人の命が消えていくのに私だけが…」
「で、泰王と台輔は?」
「私が斬りつけたその場に泰王は倒れておりました。左腕が飛び、左肩から腰にかけて袈裟懸けにばっさりと。その向こう側に女怪の残骸もありましたが、いつの間にか消えていました。台輔は… 使令に食われていました。私が見たときには既に上半身がなく、もはや助からぬと観念しました。すべてを食い終わったときの使令のあの眼、満足そうな眼つきが忘れられません。あれは台輔を食いながら、それの邪魔をする衛兵たちを屠っていたのです。食い終わってから悠々と去って行きました。私は泰王の最期を看取るくらいしかできませんでした」
「弩は間に合わなかったのか?」
「はい、弩を持った兵が来た時にはすべてが終わっていました」
「具体的な被害は?」
「遺体が確認されたのは泰王、冢宰、三公、八侯、王師左右将軍、六官長、内宰と小司冦、小司空、衛兵十名と虎嘯さんです。重傷は王師中将軍、瑞州師三将軍、小司徒、小宗伯、冢宰府侍郎、瑞州尹など十五名です。台輔と女怪は遺体が確認されていませんので、行方不明扱いです」
「どちらも翠蘭が確認しているのだろう?」
「どちらも私だけなのです。白圭宮のものは誰一人見ていません。ですから、確認できないと」
「微妙な表現だな。かつて鳴蝕で蓬莱に流されたように考えているのか?」
「いえ、翔雲はそんなことは考えていません。遺体が確認できないだけだ、としています」
「翔雲?誰だそれは?」
「小司馬です。今現在五体満足なもののうち最高位にいるのが小司馬の翔雲でしたので、彼が白雉の肢を握っています。泰王の葬儀が終わるまでの措置だと翔雲自身が宣言し、葬儀の後に改めて仮朝を取りまとめるものを決める手はずになっています。ちなみに泰王の葬儀は明後日に執り行われます」
「明後日だと?速くはないのか?」
「それだけ翔雲が有能だということです。鴻基の街も喪に服していますが、混乱はどこにも見られません。これまでどうして小司馬などで留まっていたのか不思議に思えるような人物です」
「かなり評価が高いな」
「事件後二刻ほどで体制固めを終わらせ、民への公表をどうすべきか私に相談しましたが、私の答えと同じものをすでに腹案として持っているようでした。頭の切れ、実務能力、人心掌握のすべてで並み以上の力を持っていると思います」
「そうなると麒麟旗が揚ればすぐにでも王になりそうだな」
「当人が王になる気があれば、ですが」
「そういう覇気があるようには見えないのか?」
「はい、ですが、半刻も話をしていませんので見えていないのかもしれません」
「で、虎嘯さんの遺体は?」
「…酷い有様でした。欠落した部分はありませんが、四肢がばらばらに飛び散っていました。それを縫い付けて柩に」
「…そうか。葬儀の手配は…夕暉さん来るのかな?」
「ああ、忘れていました。翔岳さんが亡くなった時にその横に葬って欲しいといわれて、その手はずを」
「私と入れ替わりに香萠が金波宮に向かっている。速ければ明後日にも鴻基に直接来るか、何らかの連絡が来るだろう。葬儀はそれまで行わないようにしておいて欲しい」
「わかりました」
「それにしてもあまり気分の良い話ではないな。食事はちゃんとしているのか?」
「ええ、まぁ…」
「嘘をつくな。気持ちが滅入っているからと食事も取らないと身体の方も参ってしまうぞ。陵崖も頬がこけているし。胃に優しいものを作ってやろう。食欲のない時でも食べられるものだ。憶えておいて損はないぞ」
「はい」
「ぼやっとしていないで手伝え。手伝わなければ憶えられないだろうが」
「は、はい」

彩香が半ば強引に翠蘭を厨に連れて行った頃、金波宮の蘭邸では香萠が第一報を報告していた。

「ご報告いたします。泰台輔の使令が錯乱、泰王君、泰台輔、および大僕の虎嘯殿その他多数を殺害、逃亡。とのことです。雁の補佐の彩香さんが鴻基に詳細を確認しに行っており、明後日には蘭桂さんが金波宮にご報告する予定です」

がたんと音がして、夕暉の座っていた椅子が倒れた。卓子に手をつき、目を見開いている。予期したこととはいえ、一縷の望みも抱いていた。その望みが断たれたのだ。隣に座る景王は夕暉の手を握り、優しく声をかける。

「夕暉、席につけ。ともに時を過ごしたものを亡くすのは辛い。が、まず、己のなすことをなせ」
「…は、はい」
「翠蘭、陵崖についてはどうなのだ?」
「陵崖さんと私は上元の式典に出ておりませんので何も。翠蘭さんが式典に出席し、血塗れでお帰りになり、先ほどのことを第一報として伝えよ、と命じられましたので、すぐに関弓に向かいました。翠蘭さんも怪我はなさっていません」
「ふむ、翠蘭は危地を脱して情報を伝えたわけか。それにしては情報量が少ないのは余程のことがあったせいかな?緋媛、どう思う?」
「情報をまとめるだけの冷静さに欠けるような事態に遭遇したと思います。簡潔なのは悲惨なことの裏返しでしょう」
「私もそう思う。第一、使令が台輔に逆らうなどということがあるのか?使令が王と台輔を害するなど誰が信じる?だから簡潔にしたのだろうな。泰麒の使令は普通の使令とは桁違いの力を持っていると聞いたことがあるから、翠蘭がほぼ無傷で生還した方が奇跡かも知れぬな。その場にいて生き残っていなければ何もわからぬままだったろう。強運と言ってよいかもな。しかし、使令の錯乱についてはどう思う?」
「あくまで推測ですが、『げんばく』の関係で使令を抑える力を失ったのかもしれません。でなければ説明がつきません。これまで折伏された使令が麒麟の命に逆らって王や麒麟を害するなど聞いたことがありませんので、確証などありませんが」
「そういえば…」
「遠甫、何かあるのか?」
「泰台輔が蓬莱に流されていた時にあまりに酷い穢瘁のために使令が狂った、ということがありましたな。似ていませぬか?」
「泰麒が受けた『げんばく』の毒素の穢瘁で使令が狂ったと?では、なぜ、王や麒麟を襲うのだ?」
「麒麟が死んだと思い込み、その遺骸を喰らうのを邪魔するものどもを蹴散らしたのでは?たまたま王も亡くなったと」
「死んだ麒麟の命に従うことはない、ということか?そんなことがあるのか?」
「もちろん、今まで聞いたことなどありませぬ。が、こう考えねば説明がつきませぬので」
「それも『げんばく』の毒素ゆえか?」
「御意」
「しかし、『げんばく』など知らぬ他の国の王たちにどう知らせるのだ?蓬莱での奇禍のせいだとするのか?」
「御意」
「ふむ、使令が麒麟に逆らうなど前例があってよいはずがない。だから、蓬莱のせいにするのか。それなら他に累は及ばぬ。蓬莱に行こうという麒麟もいなくなるだろう。なかなかうまい具合にことが進むな。…気に入らぬ」
「主上」
「単に気に入らぬだけだ。どこぞに文句を言いたいわけではない。不満があるわけでもない。素直に認めたくないだけだ。だが、各国にはそれなりに伝えねばならぬだろう。詳報についてはあまり聞きたくないこともありそうだしな。それについては蘭桂が戻ってからにすることにしよう。で、夕暉、五日ほど休みをやろう」
「…よろしいのですか?」
「止むを得まい。私とて行きたいが、ともに行くのは障りがあろう?ならば夕暉が行くしかあるまい」
「ありがとうございます」
「急ぎになるだろうからとらを貸してやる。遺体を運ぶのが難しいと思うが、向うに葬るのか?」
「兄が望んだ地です。あちらに、と思っています」
「そうか。鈴はどうする?」
「次の機会にさせます。安全に渡航できるようになったら一緒に」
「わかった。では気をつけて行ってこい」
「はい」

夕暉は一礼すると花庁から出て行った。翌朝、夕暉は香萠とともに金波宮を発った。






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最終更新日  2006年04月07日 12時58分32秒
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