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アトランタの風に吹… まみむ♪さん

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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年04月11日
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昨日がホムペ開設1200日&「日記」1200回だったことをすっかり失念していました。シリーズの途中なんで、ツーか、あの御仁のことで頭がいっぱいで…(^^ゞ 思いっきり苦手なんですよ、あの御仁のことを描くのが。あの独特の雰囲気とか上手く描けないんで… とはいえ、漸く『主役』の登場です。

 

「優雅な舞(その9)」

二十日の夕刻、梅香は紫陽にある朱楓の輸出卸の厩にゆっくりと趨虞を降ろした。短袍に半袴という軽装で趨虞に乗るのは街中では目立ってしまうので、騎獣の売買の盛んな連檣や芝草などを除き、通常は払暁や夕刻、夜間に出入りすることになる。王が斃れ、妖魔が出没している国では昼間しか移動ができないが、その他のところでは丁度良い時間に出入りできるように調節している。梅香が厩から起居に向かうと、そこには遣士の朱楓や補佐の玉蘭の姿はなく、風珠、康燕、史義らが待っていた。

「朱楓さんや玉藍さんは?」
「『西陽楼』の方においでです。そちらに来ていただきたいと」
「『西陽楼』?もしかしてあの御仁が?」
「…はい。できればお召し替えをと」
「風珠、私は明日揖寧に向かうことになっている。妖魔の出没する地に行く際には数日着替えをせずに騎獣を安心させる必要がある。下手に脂粉や香を纏って騎獣を不安にさせるのは如何に危険かはわかっているだろう?できればこちらで話がしたいと。無理だろうとは思うが、一度訊いて来てくれないか?」
「はい。わかりました」

風珠は梅香に言われるように『西陽楼』に向かった。梅香とてあの御仁のことだからこんなことが通るとも思ってはいないが、唯々諾々とするのでは身がいくつあっても堪らない。あの御仁と会うとなると移り香を我慢しなければならなくなる。それがどれほど危険か… 揖寧に行くことの多い康燕や史義は梅香のいうことが正しいとはわかっているが、力になれるわけもない。梅香は最悪の場合、経路を変更することもありうると考え始めていた。今回最も重要なのはこの範に詳報を伝えること。揖寧や重嶺は数日到着が遅れても問題にはならないだろう。むしろ、揖寧よりも重嶺に先に知らせても良いのではないか?などと考えているうちに風珠が戻ってきた。やはり『否』であった。着替えは構わぬから来いとの命であった。梅香は風珠に案内されて朱楓や玉蘭、そしてあの御仁の待つ『西陽楼』の離れに向かった。その離れは風趣溢れる建物であり、その内装は薫彩宮の冬官たちの匠を凝らしたもので、あの御仁以外が使うことはまずありえない。風珠が中に声をかける。

「お連れしました」
「入れ」

短い応えに風珠が扉を開ける。梅香は入り口で片膝をつき、下げていた顔を上げた。その眼に入ったのは煌びやかな姿である。氾王・呉藍滌その人であるが、その横にいる人の姿を見て梅香の顔が引き攣る。梅香は再び顔を下げつつ口上する。

「慶の通士、梅香にございます。本日は遣士の朱楓および補佐の玉蘭に報告があり推参いたしました。御前にてというのは朱楓の考えと思いますが、台輔のいらっしゃるところでは口にできませんので、別室にて両名に報告したいと思います」
「…構わぬと言ったら?」
「この場は失礼いたし、後日改めて朱楓、玉蘭に報告に参ります」
「…赦さぬと言ったら?」
「譬えこの首刎ねられようと従えません」
「強情じゃの。嬌嬢がいなければここで申すのか?」
「いえ、この中は香が焚き込められており、入ることが適いません。できましたら別室にて」
「朱楓、慶の官はこれが普通か?」
「任務を帯びておれば当たり前のことです。玉蘭とて揖寧に向かうのであればこの場には置きません」
「朱楓や玉蘭が化粧もせず、香も焚かぬのはそれに備えてか?」
「何があるかわかりませぬゆえ」
「勿体無いの。磨けば光るものをそのままとは。あのものも磨けば面白いかも知れぬに」
「申し訳ありませぬが、別室に移ってもよろしいでしょうか?」
「いや、ここで聞こう。あの者があそこで話しても周りには洩れまい。嬌嬢には別室に移ってもらえば良いであろ?使令にも聞かせぬ」
「主上、私も聞きたいですわ。泰麒の連れ戻しには私も助力いたしましたし」
「その後しばらく真っ青になっていたのは誰かの?その手の話らしい。できれば先に薫彩宮に戻っておるがよい。大丈夫そうな話なら戻ってしてやるからの」
「…はい」

氾麟は渋々房室から出ると、使令を呼び出して薫彩宮に戻っていった。氾王は朱楓に言う。

「これでどうじゃ?」
「しばしお待ちを」

朱楓はそう応えると玉蘭に目配せをした。玉蘭は香炉を風珠に渡して下がらせ、房の窓をすべて開けて空気を入れ替えた。風が氾王の頬を弄ったが、身動ぎもしなかった。やがて、玉蘭は窓を閉め、氾王の前に跪いた。

「ご無礼をいたしました」
「構わぬ」
「梅香、これなら移り香も殆んどあるまい。中に入りなさい」
「はい」

梅香もここまでやられれば否やはない。房に入り、扉を閉め、氾王の前で片膝をつき、言上する。

「無理を聞き入れて頂きありがとうございます。では、泰王崩御に関する詳報をお伝えします。事件は白圭宮での上元の式典で発生しました。戴の遣士は昨年末に身罷り、遣士代行となった翠蘭は一人末席に連なっており、したがって細かい経緯は不明なところもありますが、末席にいたことで命拾いしたと見られます。式典で急に泰台輔が胸を押さえて苦しみ出すとともに、獣の咆哮がしたそうです。白圭宮に妖魔が出現したのかと周りを見回したところ、泰台輔の足元の辺りから赤い大きな獣、泰台輔の使令が出現したそうです。その大きな体のせいで上座の様子は殆んど見れなくなったのですが、その式典で唯一帯刀を許されていた大僕が使令の前に立ちはだかり、泰王と泰台輔を逃がそうとしたので、冬器を持たぬ翠蘭は即座に式典の場である外殿から飛び出し、近くにいた衛兵から槍を受け取り、応援を呼び、弩などを用意するように要請して戻ったところ、外殿は既に血の海になっており、裏の扉が壊されていて、そこから脱出した泰王や泰台輔たちを使令が追いかけたようで、翠蘭は既に亡くなっていた大僕の大刀を掴んで追いかけたそうです。翠蘭は使令に斬り付けましたが寸前で避けられ、その場に倒れていた泰王を助け起そうとしましたが、泰王は左腕を失い、左肩から腰にかけて袈裟懸けで切られており、間も無く息を引き取ったそうです。使令は襲い掛かる衛兵たちを蹴散らし、泰台輔を喰らって悠々と引き上げ、応援の兵や弩は間に合わなかったそうです。この事件での犠牲者は泰王、冢宰、三公、八侯、王師左右将軍、六官長、内宰と小司冦、小司空、大僕および衛兵十名の三十五名で、重傷者は王師中将軍、瑞州師三将軍、小司徒、小宗伯、冢宰府侍郎、瑞州尹など十五名で、白圭宮の要が殆んど失われたため、残務処理などは動けるもののうち最も高位にある小司馬の翔雲と言うものが指揮をとり、一昨日にも泰王の葬儀が行われたもようです。なお、泰台輔と女怪については遺体が確認されないため、行方不明扱いだそうです。使令がこのようなことをしたのは泰台輔が蓬莱で『げんばく』にやられ、使令を抑える力が弱まったせいだろうと見られます。泰台輔の使令は普通の麒麟では折伏できそうにもない妖魔で、黒麒麟という類稀な力を持つ泰台輔だからこそ折伏できたわけで、使令を抑える力が弱まれば大人しくはしていないだろうと。また、泰台輔が蓬莱に流されていた折には酷い穢瘁のせいで使令が暴れ、多くの民を泰台輔の意思に関りなく害した前例もあるそうです。『げんばく』の毒素で使令が狂ったという可能性もあり、泰台輔との契約が満了した、すなわち、泰台輔が死んでしまったと見做して、契約に基づいて泰台輔の遺骸、まだ死んでいませんが、を喰らおうとし、それを邪魔するものを蹴散らしただけで、泰王以下の白圭宮の首脳は側杖を食ったと考えられます。以上です」
「…なるほど。確かに嬌嬢がいるところでは口にできぬわな。嬌嬢の耳に入ったら確実に卒倒してしまうであろ。先の話も誤報かと思ったので敢えて連れてきたものの、さて、どうやって伝えたものか…」
「『げんばく』の毒素ゆえに使令が狂ったというのでも、台輔にはお伝え難いですね」
「まぁ、嬌嬢は狂った使令を蓬莱で感じていたようだから、そのようなものといえばわかるだろうが、それでも卒倒しそうじゃの。余程恐ろしかったと見える」
「そのようなものを使令に降していたと泰台輔は余程の力の持ち主だったわけですね?」
「それが仇になったようじゃの。泰王ともその際に会ったし、その後も何度か会っているが、女傑といえるかの。妖魔に襲われ、腕を失いながらも虚海を渡り、慶に支援を求めてきた。景王に『覿面の罪』を犯させるやも知れぬのにな。それほどまでに想っていた泰麒に、その使令に屠られるとは… 因果かの」
「さぞや無念かと」
「ふむ… で、次は範と懸念してると思うが、何か調べておるであろ?」
「は、はい。柳と戴の間の航路について継続的に調査する予定です。無論、戴の玉泉の様子についてもですが」
「このような形で斃れ、はたしてどうなるのかの?朱楓、何かあったら知らせておくれ」
「はい」
「嬌嬢が待っておるゆえ今宵は帰るとしよう」

そういうと氾王はついと立ち上がり、房から出て行った。朱楓が見送りに良き、玉蘭と梅香がそこに残された。玉蘭は梅香に笑顔を見せて言う。

「向うの起居に戻りましょう。空気を入れ替えても長居をすれば香が移りますからね」
「は、はい」

玉蘭は『西陽楼』の起居に一旦寄り、家生たちに離れの片づけを命じてから輸出卸の方の起居に向かった。風珠に茶の用意をさせていると朱楓が戻ってきた。

「ふぅ、やっと一段落だ。梅香、夕餉はまだだよね?」
「はい。ですか皆さんは?」
「軽いものにするつもりさ。あまり良い気分じゃないからね。梅香はどうする?」
「私も軽いものを」
「で、どうするね?揖寧に行く?重嶺にする?」
「安全を考えるなら重嶺に行き、その後に揖寧に向かったほうが良いと思いますが」
「一日遅れるけど、揖寧の場合は仮朝だしね。そうしてくれるならこっちも助かる。智照さんにはよろしくね」

朱楓は風珠に夕餉の仕度を命じながら受け答えをする。梅香は疑問を口にする。

「今日のことは私を試したのですか?」
「試したといえば試したのかな?通士としての矜持がしっかりしてるかどうか、当たり前のことだからね。王様相手でも譲れないものは譲らない。首刎ねられても構わないとまで言うとは思わなかったけどね。試したうちに入るかい?」
「私ではなく、慶の通士が試されたのですね」
「そんなもんだね。ヘマしたら怒鳴りつけようと思ったけど、機会がなくて残念だ」
「恥を晒さずにすんだのですね。ホッとしました」
「ただ、もう少し言葉を選ばないとダメだな。相手によって変えないと墓穴を掘る。努力しな」
「はい」

夕餉の間、梅香は朱楓からあれこれと注意を受けた。梅香は紫陽に一泊し、翌朝重嶺に向かって発った。






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最終更新日  2006年04月11日 12時05分03秒
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