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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年04月12日
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「優雅な舞(その10)」

梅香が重嶺の玄載のもとにたどり着いたのは二十一日の夜半だった。この日の朝に揖寧に戻った才の補佐・眞凌に範の補佐・玉蘭がくると聞いていたので、梅香が現れて玄載は驚いたものの、本来であれば第一報も範から来るはずなのを才からにしたことといい、朱楓ならばありえそうなので、表情にも表れなかった。が、万一のことも考えて梅香に尋ねた。

「眞凌から玉蘭が来ると聞いていたが、紫陽で何かあったのか?」
「いえ、氾王君が『西陽楼』にお出でになっており、香が移ったかもしれないので、念のために揖寧を後回しにしました。眞凌さんが来たそうですが、虚海の様子はいかがでしょうか?」
「虚海に出る妖魔は奏の方に寄っているから揖寧に向かう辺りは比較的安全らしい。もちろん吉量では無理だがな」
「それを聞いて安心しました。下手をしたら範に一旦戻らなければならないかとも思っていましたので」
「で、詳しい話を聞こう。廉王も聞きたがっている」
「え?こちらにはいらっしゃいませんよね?それに第一報は?」
「第一報は伝えていない。中途半端な情報でやきもきさせても仕方ないからな。それに着いたのが昨日の夜だ。詳しい話が翌日にも届くとわかっているならそれを届けた方がいいだろう?漣はそんなに逼迫していないからな」
「なるほど。では、報告します…」

梅香は詳報を語った。玄載はじっと聞いていた。

「なるほど、『げんばく』のせいで泰台輔の使令が狂い、契約満了と勘違いして泰台輔を喰らった。その邪魔をした白圭宮の首脳が側杖か。翔雲と言う小司馬は事態を収拾したが、仮朝については白紙、玉の生産やその輸送路については継続して監視するわけだな」
「はい」
「ご苦労だったな。明朝に発つなら仮眠を取ってくれ」
「はい」

梅香は払暁まで仮眠をとり、揖寧へと発った。玄載は午頃に近くにある飯堂に向かった。花街に近いこの店はガランとしている。飯堂というよりも酒楼に近く、もう少し遅い時間にならないと客もやってこない。が、玄載の他にも客がいた。匂い立つような若い娘は玄載の顔を見るとにっこりと微笑んだ。玄載は苦笑する。

「相変わらずですね。お供は?」
「多分この外にいると思うけど、この中には誰も。もちろん使令も」
「まぁ、外にいるのならいいけど、焔艶みたいな別嬪はこの辺じゃ引く手数多だからな。気をつけたほうがいいぞ」
「そうでもないわよ。眼が利く連中ばかりだから見向きもしないわ。手配書でも廻ってるんじゃないかしら?」
「王様には手を出すなってか?」
「冗談はさておき、どうだったの?廉麒に聞かせられないような話なんでしょ?」
「ああ、聞いたら気分が悪くなるなら良い方、下手したら世を儚みたくなるかもしれないな。とんでもない話だ。泰台輔の使令のことは知っているか?」
「ええ、噂だけなら。前の廉台輔が泰台輔を蓬莱から連れ戻そうとした時に酷い穢瘁で狂ってしまったいたとか。あの時、氾台輔や延台輔、景台輔なども一緒だったけど、その使令たちも含めて誰もが怖がって近づけなかったそうね。泰台輔でなければ折伏できなかったくらいの強力な使令だって」
「その使令が狂ったらしい。泰台輔は一昨年蓬莱で『げんばく』という奇禍に遭ったが、そのせいで泰台輔の使令を抑える力が弱くなったのか、使令が『げんばく』の毒素で狂ったのかはわからないが、とにかく泰台輔に背いた。使令は泰台輔を喰らおうとし、それを阻止しようとしたものを蹴散らした。蹴散らされ、命を失ったものの中に泰王君も含まれていたそうだ」
「使令が狂ったですって?使令は麒麟との契約でその遺骸を喰らう代わりに麒麟が死ぬまで逆らえないんでしょう?」
「だから、使令が狂って、契約が満了した、泰台輔は既に死んだ、と見做したのかもしれない。確かめようはないが」
「そんなことがあるの?」
「前代未聞らしい。そもそも『げんばく』だってそうだ。蓬莱では二百五十年前にも似たようなことはあったらしいが、それに巻き込まれたものなどいなかったので、どんなものかはわからない。多分、それのせいだろうと見ている」
「金波宮が?」
「金波宮だけじゃない。他の国でもそうだな。正直なところ、そうでも思わないとやっていられないだろう?もし仮に自分の半身の使令がいきなり襲ってきたらと考えたら使令をそばに置けないだろう?だから、そう考える」
「玄載っていつも親切ね。正解を押し付けようとしないし、間違わないような道も教えてくれる。落とし穴の位置もね。私もそれなりに頑張っているのにどうしてそこまで考えられないのかしら?」
「さぁ?焔艶には少し言葉が多くなりすぎるのは確かだな。でもそれは焔艶がそうさせているのだろう?それに焔艶より速く情報に接するからあれこれ考える時間もある。もし、焔艶よりも下らないことしか言えないようならこうして会うだけの意味はないだろう?持ちつ持たれつの関係でいるためにはこちらも頑張ると言うことだ」
「だから情報も小出しにするの?」
「焔艶の納得できる範囲のことを言っているだけだ。納得できずに混乱させるだけの情報は却って害になる。小出しというよりも段階をおってより確かなものにすると言って欲しいな」
「それだけ私が子供だということ?」
「そんな風に言うのがその証拠だろう?才には今王がいない。範は今後危なくなるかもしれない。そんな時王が台輔を信用しなかったらどうなる?少なくとも台輔のことを全面的に信用できないうちはこの先のことは辞めた方がいい」
「…それほど酷いことなの?」
「自分でも言っていただろう?泰台輔の使令がどんなかって。その想像から外れることはまずないだろう。けど、台輔の指令は違う。『げんばく』の毒素にやられているわけでもないから、台輔の命に逆らうことは絶対にない。つまり、焔艶の命にだ。それすらも信用できなくなったなら王として玉座に座っていられないだろう?その手の話を聞くだけの覚悟はあるのか?」
「そうね、今はまだないかもしれない。指令が麒麟の命に背くなんて想像もできなかったから。でも、顔を背けたりはできない。どの程度の被害だったの?泰王と泰台輔以外にも犠牲は出たの?」
「死者三十五名、重傷者十五名、十名の衛兵を除けば殆んどが白圭宮に首脳だ。五体満足な最も高位の官が小司馬だそうだ。たまたま、この小司馬の翔雲が有能で、事後処理をしっかりやったらしい。鴻基で混乱は起きていないそうだ」
「…そ、それは酷いな。小司馬よりも上のものが全滅か… ぞっとするな」
「顔が青いぞ。今日はこれくらいにしよう。無理しても何もならない」
「し、しかし…」
「こういう惨たらしいことを詳細に知ることに意味はあるのか?白圭宮の状況さえわかればいいのではないか?機能不全に陥るくらいの被害に遭いながらもどうにか踏みとどまっているのが現状で、それさえ把握していれば十分だろう?要らぬ情報のせいで気分を悪くしたり、台輔との関係を悪くしたりするのはすべきことじゃない。わかるよな?」
「う、うん…」
「ただなぁ、戴との提携はダメだろうな。ありゃ、泰台輔がいたから出来たものだし… でも、慶で…」
「できそうなの?」
「いや、そこまでやるかはわからないな。販路としては考えられるけど、そのためには奏との関係をどうにかしないとな。あそこが販路として使えるようになると、範が傾いても影響は少なくなるんじゃないか?」
「そうなんだけどね。ケッコウ根に持っているのが多いから」
「その辺りは舜に相談すればどうにかなるんじゃないか?農政関係の話のついでに」
「舜は奏と和解したの?」
「巧や慶との関係からそうなったみたいだな。雁が斃れた後の協議で同じ円卓を囲んだと聞いているが」
「そうか。なら、舜との連携を強くしないと。舜からなら慶も近いし、和解も…」
「それは上に帰ってから台輔とじっくり話し合って決めることだ」
「玄載は来てくれないの?」
「一応は漣の官じゃないからな。正式なお呼びならいつでも行くけど、個人的なものならここまでだな」
「王様を呼び出すってのも凄くない?」
「その分紅霞がそっちに顔を出しているだろう?あれに注文を出してくれればそれでいい」
「何か、誤魔化された気分」
「で、その気分も少しは良くなったのか?顔色も戻ったし、途中まで送って行ってやるか?」
「お願いできますかしら?」
「喜んで」

芝居がかった所作に二人して笑った。廉王・焔艶は改めて玄載の懐の深さに舌を巻く。が、このまま負けているつもりもない。もちろん、玄載の方とて容易く負けてやるつもりもない。自分がここにいる意味のために。二人は店から出て行った。

  *  *  *  *

梅香が揖寧についたのはその日の夕刻だった。漣から才に渡ってくるところでは流石に緊張したが、妖魔の姿はなかった。もちろん、揖寧につくまでは気が抜けない。揖寧の街の隔壁を越えて初めてホッと息を吐いた。才の遣士・琉毅の家は凌雲山の前から伸びる広途から少し入ったところにある少し大きめの家である。表向きは紫陽の輸出卸の支店を営んでいたが、王が斃れてからは商売が成り立たなくなって、休業状態である。とはいえ引き上げるわけにも行かないので、留まっている振りをしている。もともと王宮相手に現物ではなく、情報などの商いをしており、今も仮朝相手に商売をしているが、実態は明らかにしていない。その家の厩に趨虞を降ろし、梅香が起居に向かうと琉毅と補佐の眞凌がいた。

「遅くなりましてすみません」
「ああ、ご苦労様。今来たというのは、重嶺に行ってきたのかな?」
「はい。あちらを廻ってから揖寧に参りました。紫陽で氾王君とお会いすることになり、その、香を移されたままでは…」
「王のいない国にはそういうことでは来れないからね。騎獣が嫌がるだろうに。あの御仁も困ったものだ」
「朱楓さんに嵌められたのかもしれませんが」
「ありえるな。才は仮朝だから急ぐこともないし… 増員された三人も紫陽に留まってる。疑えばいくらでも疑える。が、そのことに意味があるとは思えない。この時期なら揖寧や重嶺にいるよりも紫陽にいる方が勉強にはなるだろう。万が一の時に三方に一度に知らせが出せるのも意味がある。玉蘭も出せば四方だな。緊迫度が違いすぎる」
「皆さんが次は範だと言いながら、大丈夫だという理由を探しているようにも見えます。それほど危ういのかと」
「隣接する国に行けばどこでもそういうだろう。表向きは斃れることなど絶対ないと言うけれど、実は斃れることに備えている。それくらいでなければこの仕事はできない。表向きの耳障りのない言葉に酔うようでは上に立てない。それだけのことだ。梅香はどう見る?」
「この五年が勝負かと。戴の玉は二年が限度。その先をどう凌ぐか、氾王がどう考えているかでしょう」
「五年か。そこまでもてば才に麒麟旗が揚る、ということか?」
「才に王が立てば流れが変わります。荒民が才に引き上げれば負担も軽くなります」
「だが、麒麟旗が揚ってもすぐに王が決まるわけではない。王が決まるまでなら十年くらいを見ないとな。少し甘いな」
「は、はい」
「とにかく詳報を聞かせてもらおう。どんな感じだったのだ?」
「はい、では報告させていただきます…」

梅香は詳報を琉毅や眞凌に伝えた。琉毅は顔色を変えなかったが、眞凌は多少目を伏せ、気分悪そうに見えた。報告が終わると、琉毅はホッと息を吐き出した。

「当面才に影響はなさそうだが、範は大変そうだな。長閑宮には知らせなくてもいいだろう。知らせても混乱するだけだな。第一報の内容だけでも十分衝撃を受けそうだ」
「第一報もこれからなんですか?」
「泰王と泰台輔が亡くなったことは知らせている。使令云々は内緒だな。原因がわからないうちは不安を煽るだけだ。今回の話も推測に過ぎないしな。下手をすると麒麟を忌避しかねない。扱いが難しすぎる。人を選ぶ情報だからな」
「そうですね」

梅香は頷くしかできなかった。






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最終更新日  2006年04月12日 12時12分12秒
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