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2006年04月18日
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「優雅な舞(その16)」

奏国首都隆洽清漢宮。宗王秀絡は中秋の名月を楽しもうという名目で隣国巧の高主従を招くことに成功した。宗王となってまだ二年半。天候が安定し、西部諸州に出没していた妖魔も姿を消し、国外に逃れていた荒民も帰還し、民人も笑顔を取り戻しつつあった。が、仮朝を支えてくれたものたちと今後もやって行ってよいのかという問題がある。百年を越える仮朝であったから、少しずつ人材の入れ替えなどもやらないと拙いのだが、なかなか進展しない。冢宰の郭真は十年くらいかけてゆっくりと、と言っているが、代わりとなる人材に不足している現状を見るにつけ暗くなる。正丁はおよそ二百万人まで回復したが、その半数は他国に逃れて苦労してきており、まともに教育も受けていない。国内に残った半数もその日暮らしであったために学校制度そのものが崩壊してしまっていた。その立て直しが急務だったが、そこに充てる人材にすら窮していたのだ。官制を整えるには十年ではなく三十年くらいを見込まないとダメだろう。このことが明らかになってどっぷり沈んでいた秀絡だが、雁に続き、戴が斃れたことで周辺のきな臭さにも対処せねばならなくなった。長年国交断絶状態になっている才の荒民が範の大きな負担となっており、玉の産地である戴が斃れたことで範は窮地に立っている。多数の荒民を抱えている余裕などなくなり、一日も速く才に戻って欲しいと要請しているものの、才の荒民は動かない。どうやら長閑宮の仮朝の面々がすべて黙殺しているようなのだ。これではいけないと秀絡も長閑宮に何度も働きかけたが、その度にけんもほろろに門前払いを喰わされてしまうのだ。内外ともに厳しい情勢の中で観月を楽しんでよいのかと言う声もあったが、その際に高主従を招くことが広まると、不満の声はピタリと止んだ。高王楽俊に知恵を借りるのだろうと推測したからだ。秀絡自身、そのことも考えたが、主な狙いは別にあった。が…

「悪いな。今回は急な用事のために少麓は連れて来れなかった。昭媛だけだが、構わないよな?」
「は、はぁ…」

開口一番の楽俊の言葉に秀絡はガックリした。宗王になる前に雁に派遣されていた五年間も含めて少麓と会う機会は激減していた。一国の王ともなれば他国の官とそうしばしば会うことも適わず、何くれと機会を模索して成功したと思っていただけに落胆も大きかった。そのあまりにもしょげ返った顔に昭媛が苦笑する。奏の官がいる前では兄とは言えからかうような発言はできない。そんな昭媛をみて緋翠が不思議そうな顔をする。その小首をかしげている緋翠の頭を撫でてやりながら楽俊が言う。

「月が出るまでにはまだ時間がある。宗台輔に緋翠の案内を頼んでもよろしいかな?長閑宮は眺めがよいゆえ」
「はい、喜んで。では台輔こちらへ」
「はい」

宗麒は楽俊の言わんとしてることを察し、緋翠を連れて行く。楽俊は秀絡に耳打ちする。

「月が出るまでに生臭い話を片付けよう。春陽もつれてきているが、そちらは?」
「郭真さんと趙駱さんに出てもらいます。私の執務室でよろしいですか?」
「人払いができるなら」
「もちろんです」

にこやかな表情で周りには悟られないように会話を交わし、場所を移した。奏からは秀絡、郭真、趙駱の三人、巧からは楽俊、昭媛、春陽の三人である。

「国内は落ち着いてきたようだな。民の顔が明るい。あとは清漢宮の中か?」
「ええ、お蔭さまで天候も安定し、妖魔も出なくなりましたので民は喜んでいます。が、如何せん、人材不足が…」
「大河のところには頼めないのか?」
「やはり国のことをするのは勝手が違うとかで断られました。今は趙駱さんのところでお願いしています」
「うちは春陽のところを真似しているだけで、まだ人材を輩出するまでには至っていない。何かコツはあるのか?」
「いえ、うちは蒼月さんのところや蘭華さんのところで鍛えられてきたものを翠篁宮に送り出すだけです。私塾としてはそちらの方が上ですね」
「あそこは上痒に上がるくらいから大学に入る前くらいまでの子供を対象にしているよな。そういうところはやはり交州かな?」
「あちらから隆洽に来るようなものなら使えるかもしれませんが、どうもこちらには足を向けてくれないようです。となると没庫の開発も念頭に置かないといけないのかな?」
「今はまだそこまでの財政的な余裕がありません。荒民などが流れてくれば別ですが」
「雁からこちらまで流れてきた荒民には没庫での港湾開発に従事してもらっています。来てくれそうな人は廻してください」
「昭媛、土木関係に詳しいものがいないか調べて、没庫で働く気がないか質すように。春陽、慶のほうには?」
「慶のほうは少々難しいかと。呉渡や麦州の港湾の整備、呉渡と麦州、明郭と巌頭を繋ぐ街道の整備に力を入れいています。何れも雁から逃れてきたものにあたらせていますので」
「呉渡と麦州?輸送路の確保か?」
「はい、舜からの穀物は配浪から阿岸を通して烏号に送ることも考えられましたが、呉渡から麦州を抜けて烏号に送っています。陸路ではやはり慶のほうが距離も短く、海路の長さを十分補っていますので。この輸送路の整備や輸送そのものに荒民を充てています。今年に入ってからの荒民は漉水の氾濫で蓄えを失ったものも多く、秋の収獲まで食いつなぐのが難しいことを考慮したのでしょう。その辺りの経緯については必要であれば詳しく調べますが」
「おそらくは蘭桂辺りの発案だろうな。灌漑工事などにも雁の荒民を多用して田圃を増やすこともしているようだし。単に施しを与えるようなことはせず、必ず何某かの労働の対価として与えるようにしているようだな。詳細は何かのついででよい。金波宮に用事があった時にでも詳しく聞いてきてくれればそれで構わない」
「わかりました」
「となると、そちらから巧に勉強しに来てもらうかだな。秀絡や昭媛がそうだったように」
「今のところはそれだけの余裕がありません。兄のところが私たちをどうやって出してくれていたのかが不思議ですね」
「阿岸までの船賃だけじゃないのか?」
「それですんでいたのが不思議なんですよ。櫨家飯店の名前を出したから蒼月さんや蘭華さんが引き受けてくれたのでしょう。そうでなければ巧の民の方を優先するんじゃないですか?」
「ああ、それはあるかもしれないな。何れ何かの縁になると思ったのだろう。今でも秀絡が頼めばどうにかなるだろう?」
「それは大丈夫だと思いますが、問題は誰を派遣するかです。自分のことはなんですが、私たち兄妹は当たりですね。兄の子どもたちも優秀だと聞いています。でも、勉強する機会を与えたから誰でもそうなるとは限りませんよね?可能性のある子は率先して出したいのですが、誰がそうなのかが… やはり子供のころの躾でしょうか?」
「自分のことがわからないのか?まぁ、大河のところに預けて見込みのあるのを蒼月のところに送って育てるのが間違いないか?それくらいのことなら協力してくれないのかな?」
「なかなかいい返事がもらえません」
「となると時間をかけるしかないだろうな。隆洽から徐々に諸州に広げる感じでだな。巧だって五十年経つがまだまだだぞ。二三年でどうにかというのがずうずうしいとも思えるが?」
「はぁ、巧でまだまだなんですか…」
「人材が充実していれば昭媛はそっちに返しているさ。それができない程度だって理解してもらいたい。人材は百年が目途かもな」
「百年ですか?」
「ああ、五十年で充実できなかったからそういうしかないだろう?」

楽俊の言は明らかに秀絡を励ますためのものである。紫楽飯店、来楽飯店、春華亭などが軌道に乗り始め、人材は揃いつつある。ただ、何れも経験不足であり、昭媛も少麓も能力はあってもそれを活かしきれていない面もまだある。昭媛を返せないのはある意味では昭媛を鍛えているからでもある。秀絡はその辺りのことも弁えているので楽俊にあわせて笑う振りもした。

「ところで、最大の懸案はやはり才か?」
「ええ、範が危ういから才の荒民をうちでどうにかと思っているんですが、なかなか話も聞いてもらえません」
「采王君は二度にわたって奏が原因で斃れているからな。仲良くしようというのは難しいかも知れぬ。が、それにしても頑なだな。範が危うくなれば荒民たちがどうなるかも判っているだろうに」
「いえ、どうもその辺りについてはわかっていないようなのです」
「趙駱、琉毅がぼやいていたか?」
「はい。琉毅も何度となく長閑宮に働きかけたようですが、聞く耳が全くないようです。氾王君からの要請もたな晒しのようで」
「氾王が要請をするとはかなり厳しいと見ないといけないだろうに… その辺りがわかっていないのだな?」
「はい。戴からの玉も秋になって途絶えてしまったようで、冬官府はともかく市中では粗悪品でさえ手に入らない始末です。範の民はその二割が工芸に携っているといわれますが、そこが壊滅的な打撃を被っています。雁が斃れた時に他国に渡ったりしましたが、今回は流石にそのような手蔓もありませんし、帰農するにもそこには才の荒民が居座っています。浮民がかなりでているようです」
「悪い兆候だな。いくら気候が良いとは言え冬ともなれば寒さとひもじさが堪えるだろう。なのに才の荒民がぬくぬくしていたら… 荒民への襲撃はどんな感じなんだ?」
「徒党を組んであちこちで行われているようです。丁度収獲の時期ですからね。荒民の方も収獲を奪われれば面白くないでしょう。そちらの方もきな臭いみたいですね」
「朱楓はどうしている?」
「品薄になっている工芸品をあちこちに売りさばき、それで漣から穀物輸入ですね。だんだん足下を見られだして捗々しくないようで」
「浮民向けの食糧確保か。一方で食料を奪われた荒民のほうもある。彼らが大人しく才に戻ってくれればいいが…」
「才の妖魔は全体的に減っているようです。これまで東部諸州は人が住めるようなもんじゃなかったんですが、まともになっています。ですからそこに帰ればいいんですが、長閑宮がそういう情報を流していません。だから、荒民は動こうとしない」
「範から言われたのでは信用できないというわけか。そのような対応をしていたらまたぞろ妖魔が増えるのではないか?」
「はい。厭な情報が一つ。範と才の高岫付近に妖魔が出始めています。これまではなかっただけに痛いですね」
「陸路で才に帰るものが減るということか?」
「はい。坤海門は相変わらずですが、今は赤海よりも白海側に妖魔が出るみたいですね。確認はできていませんが」
「…虚海側はまだマシなのだろう?」
「はい、今のところは」
「とすると何か口実をつけて揖寧にいった方がいいのかな?ただあそこには手蔓がない。采王だけだったからな」
「楽俊さんもなんですか?」
「才や範はどうも苦手であまり出向いていない。そのツケがきているのかもしれないな」
「楽俊さんに相談すればどうにかなると思ったんですが…」
「秀絡、私にだって得手不得手はある。逆に言えば私の不得手を秀絡の得手にするくらいでないとな。障りがあるぞ」
「え?障り?」
「兄さん、義姉様をいつまでも隆洽に呼べないってことじゃないかしら?」
「えええ??そ、そんなぁ…」
「昭媛、仮にも宗王をからかっては失礼だぞ。春陽、琉毅と図って長閑宮に行く手立てを」
「おそらくは年明けくらいではと」
「…範が斃れた後でないと難しいか?」
「はい。口実がありませんので」
「趙駱、そう思うか?」
「はい。荒民が逆流してからでないと本気で考えないようですので、それ以前では無駄足になるかと」
「ではその時には秀絡も出向けるかな?耀隼と偽っていればわからぬかもな。春陽、趙駱とも綿密に打ち合わせを」
「わかりました」

話が一段落したところに女官が観月の席が整ったと知らせに来た。一同は二人の麒麟の待つ席へと向かった。






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最終更新日  2006年04月18日 12時10分31秒
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