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カテゴリ:想像の小箱(「十二」?)
「幕間狂言(その2)」
巧国首都傲霜にある来楽飯店の起居に靖嵐が入ってくると、そこには遣士の春陽、補佐の耀隼、そして高王・楽俊がいた。前日に簡易版を持って連絡員が来ていたが、その連絡員は隆洽に向かわせないで、傲霜で留め置いているようだ。靖嵐は懐から『花朗陰陽』の脚本の原本の写しを取り出しながら言った。 「金波宮からは三部持って来ました。隆洽に一部持って行きますので、後で一部お返しください」 「隆洽の先については良いの?」 「それについてもお知恵を拝借しろと」 「私のか?人使いの荒い連中だ」 「当事者ですから仕方ないんじゃありませんか?」 「あの時は確かにそうだが、実際には槙羅や趙駱、光月しか見ていないんだぞ」 「その光月さんが見た通りだったと言っていました。なぜこれほどのことが洩れたのか不思議だとも」 「槙羅や趙駱からも洩れていないと?」 「はい」 「『閭黄』の正体については精々十人くらいしか知らなかったはずだ。しかも、あのやり取りは詳しすぎる。私も槙羅から直接聞いているが、あれよりもずっと簡潔な感じだった。光月や趙駱も話すとしたらたぶんそうだろう。しかし、あの場にいたのは櫨家の面々しかいないはずだ。だから秘密が守られた。その秘密を暴いたものがいるわけか。金波宮ではどう見ている?」 「宗王君の兄の大河が怪しいのではないかと。『大兄』という筆名も意味深ではないかと」 「逆に疑いを持たせようという策謀もあるやもしれぬが… おおよその話では大河が一番怪しいとも言える。が、秀絡の兄であると言うのもちと困ったことだな。勝手に問い質すこともできぬだろうて」 「それもそうなのですが、どうも隆洽から情報が洩れているようだと通司が」 「緋媛がそういったのか?ふむ… 隆洽の『櫨家飯店』から洩れる可能性は確かに高い。が、それを警戒しても始まらぬな。符牒もすべて筒抜けだとすると流石に拙いが、敢えて流して様子を見たりもしたのか?」 「はい。それには私も関りましたが、どこまでがそうなのかが読めないということもあります。囮にも引っかかりません」 「随分と手強い相手のようだな。もしかすると阿岸辺りからも洩れているやも知れぬな」 「大河の子供ですか?」 「配浪の方は商館と言っても殆んどが舜の民で、身元のハッキリしていないものはそうはいない。そういうものが混じってれば目立つ。阿岸のほうは逆に荒民やらなにやら身元のハッキリしないものの吹き溜まりのような感じもある。直接言葉を交わさなくても、様子を陰から窺っているだけで動静がつかめることもある。そういえばあの娘は二十歳を過ぎたと思うが、大学に入るためにこちらには来なかったのか?」 「どうやら交州に戻ったようです。家督を継ぐとか何とか」 「え?家督?あの娘がか?」 「本来なら去年の春にでもこちらに来るはずでしたが、一年待って欲しいと連絡があり、今年の春には実家に帰ると。宗王君が践祚した当初から帰るように言われていたようですが、ついにと言う感じですね」 「…配浪の方はどうなのだ?」 「あちらの方は全く変わりありません。英輝が十八で彩夏が十六だったと思いますが、再来年には出てくるようなことを」 「巧に留まるのか?」 「はい。当分奏に戻るつもりはないようですわ」 「なのに少姐が交州に戻った?蒼月は何か言っていたか?」 「昨年の暮くらいまでは思い悩んでいたようですが、なにやら急に悩みが吹っ切れたようにやはり家に帰ると。蒼月も紅蘭も少し意外だったと言っていましたね」 「…その話は聞いていたかな?」 「私は言ったつもりでしたが?別のことをお考えだったのでは?」 「では隆洽には?」 「とりあえず知らせてあります。が、隆洽は交州とは疎遠らしいのです。上の方はですが」 「つまりかなり後手に廻っていると?」 「はい」 「紘硫」 (…ここに) 「急用ができたので隆洽と交州に行ってくると英巽に知らせてくれ。少麓か昭媛か空いている方に供をせよと」 (…御意) 楽俊が遁甲している使令に命を下すと、春陽がじっと見つめて、質した。 「ご自身で行かれますので?」 「秀絡を動かすには私でなければなるまい。少麓か昭媛かどちらかがいればなおさら動かしやすい」 「それほどであると?」 「それほどではないと思うのか?『大兄』というものは第二の『閭黄』になるやもしれぬ。が、今は何も罪を犯していない。知るはずのないことを知っていた理由を問い質す以上のことはできぬ。もし、大河なら秀絡でなければまともに応えまい。秀絡であってもはぐらかすかも知れぬ。私と秀絡の二人ならば誤魔化しようもないだろう、と期待するだけだ。無論、秀絡の頭ごなしに何かをするというのも好かぬし… 止むを得まい」 「では私も」 「靖嵐の替わりか?」 「靖嵐には靖嵐の務めがあります。留めてあった連絡員は金波宮に戻し、靖嵐は隆洽へ連れて行きます。才などへの連絡もありますので」 「ああ、それもあったな。春陽が動くなら耀隼は留まらないと困るし、その手足となって動く如桓も必要だろう。連絡員では心許ない。奏から動かしてもらうのも今回は避けたいからな。すぐに出られるか?」 「はい、いつでも」 春陽と靖嵐はいつでも出られるようになっていたが、楽俊が供にと指名した少麓や昭媛はやはり準備が必要なようだった。遁甲した高麟の使令が冢宰の英巽の足下から楽俊の言葉を伝えた時、丁度英巽に報告をしていた少麓と昭媛はハッとしたが、英巽は苦虫を噛み潰したような顔をし、侍郎の沈志に明日以降の朝議の予定変更などを命じ、目の前の二人の女官を見た。今回のことについて英巽は概略だけは聞いている。あの『閭黄』の再来が表れたかも知れぬと聞いて心底震えが走った。『閭黄』のせいで南方五カ国が斃れたと言っても過言ではない。楽俊はそれを調べるために奏に向かうという。行き先が隆洽と交州ということは『櫨家飯店』が怪しいと睨んでいるのか?ならば身内は外すべきか?表情も変えずに考えをめぐらせ、口を開いた。 「少麓、昭媛、急ぎの仕事は?」 「ありません」 「ならば昭媛、沈志を手伝って主上の留守に不備がないように努めよ。少麓、主上の騎獣をつれて来楽飯店へ行き、その後は主上のお供をせよ」 「はい」 「え~~!」 「昭媛、異議は認めぬ。交州に赴くのに私情を挟むようなものはお供させられぬということだ」 「え?では?」 「少麓、速く行け。昭媛、それについては主上が戻られるまでは言えぬ。心して待て」 「…はい」 少麓は昭媛を気遣うように一瞥してから自分の書卓を片付け、厩に走り、楽俊と自分の分の騎獣をつれて来楽飯店に向かった。落胆して残った昭媛の肩を沈志が叩く。 「手伝ってくれ。急な予定変更だからな。根回しとかが大変だ」 「は、はい」 「…昭媛、もしも賊を捕えに行く時にその賊の身内を縛吏に加えるか?」 「そんなことはしません!」 「ならば納得しろ」 「…はい」 沈志もまた英巽から多少のことは聞いている。使令が『隆洽と交州に向かう』といったのを聴いて直感したのだ。昭媛とてここまで言われれば厭でも気付く。翌日以降の予定を覆してまで高王が出向かねばならない理由とは何か。その出向く先が隆洽と交州、すなわち『櫨家飯店』、昭媛の実家に関わりがあることであろう。血の気が引く思いがした。余程のことに関っているのなら、自分もまた連座に問われるのではないか?しかし、そうなれば宗王である兄、秀絡は?しばしボンヤリしていたのだろう、沈志に頭を小突かれてハッとした。 「ボンヤリするな。今やるべきことをしろ」 「…はい」 昭媛はこぼれかけた涙を拭い、仕事に没頭することですべてを忘れようとした。 * * * * 奏国首都隆洽にある『櫨家飯店』の起居には趙駱と啓鷹がいた。彼らはまだ『花朗陰陽』についても『大兄』についても知らない。範の遣士・朱楓が補佐の玉蘭からことの概要を聞いて才、漣、奏への情報の伝達を止めたのだ。それが三日前のこと。趙駱と啓鷹は主に範の荒民の受け入れについて話をしていたが、不意に足下から声がした。遁甲した使令であろう。 (…趙駱殿、高王君があと一刻もしたらここに来る。宗王君と内密の話があるそうだ。騎獣の用意も) 「楽俊さんが?一体何が?」 (…それは私の領分ではない) 「ああ、なるほど。では、楽俊さんは一人で来るのかな?」 (…いや、春陽、少麓、靖嵐が一緒だ) 「…わかったとお伝えしてくれ」 (…承った) 床下から使令の気配が消えると、啓鷹はすぐに起居の周りを窺った。使令の声は低く、近くにいなければ聞こえないだろう。啓鷹が頷くと、趙駱は啓鷹を手招きし、耳元で囁くように言った。 「楽俊さんがお供を連れてやって来るとはかなりのことだろう。すぐに清漢宮に行って直接秀絡にことの次第を伝えよ。騎獣の用意と言っていたのは交州のことかも知れぬ。その旨もな」 「わかりました」 啓鷹は何気なさを装いながら起居から出て行った。それを見送って趙駱は呟いた。 「変なことにならなきゃいいんだが…」 趙駱の願いは叶いそうにない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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