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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年05月11日
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「幕間狂言(その3)」

少麓が来るということで少し上機嫌で待っていた宗王・秀絡は、起居に入るなり使令に監視をさせる楽俊の様子に気を引き締めた。楽俊が連れてきたのは春陽、少麓、靖嵐の三人であり、『櫨家飯店』の起居で待っていたのは秀絡、趙駱、啓鷹の三人である。使令から周囲に誰も潜んでいないと報告を受けた楽俊が靖嵐に眼で促すと、靖嵐は『花朗陰陽』の脚本の写しを出す。キョトンとした顔をした三人を見ながら、楽俊は懐から簡易版を出して趙駱に渡しながら言う。

「これは先日連檣で演じられた『花朗陰陽』という小説の脚本の原本で、こっちの方は実際に演じられた簡易版の脚本だ。具体的にどういうものかは趙駱が一番よくわかると思うが」

そういわれ、趙駱は簡易版をパラパラとめくっていたが、やがて目が真剣になり、眉間に深い皺が刻まれていった。秀絡は原本の方を手にとって読んでいたが、前の宗王の登極前後の話とか興味をひきつけられるものがあったようだ。秀絡がまだ前半を読み終わるかどうかという時に、バン、と大きな音がした。簡易版を読み終えた趙駱が卓子を叩いたのだ。趙駱は椅子から立ち上がり、簡易版を手に楽俊に向かって言う。

「楽俊さん、この『大兄』とは何者ですか?あの時のことはこんなに詳しく知っているのは三人しかいないはずです。しかもその三人とも口を閉ざしているはずです。少なくとも私はそうだし、槙羅さんや光月だってそうでしょう。それ以外のあの場にいた人たちはみな生きてはいないし、誰も書き残したりもしていない。むしろ秘密にしようとするでしょう。絶対に洩れるはずのないことです。なのに!」
「…光月もそう言っていたそうだ。絶対に洩れるはずがないとね。そうだな、靖嵐?」
「はい。光月さんもあれほど詳しく語ったことはないと。槙羅さんや趙駱さんもそうだろうと」
「私もこれほどまでは聞いていないから金波宮の面々もそうだろう。郭真さんにだって洩らしてはいないからな。奏の民では、秀絡が最初に知ることになったのだろうな」
「え?」
「先の宗台輔の最後のことだ。そこまで行っていないか?では、読み終わるまで待つことにしよう」
「あ、すみません」

楽俊と趙駱の会話に気を取られて脚本を読むのが途中で止まっていた。秀絡は慌てて先を読む。やがて背筋がぞっとするようなことが書いてあった。読み終わったとき、秀絡は半ば呆然としていた。卓郎君利広は知っている。逆賊『閭黄』も知っている。だが、それが同一人物だなんて… 秀絡は楽俊の声で我に返った。

「秀絡も知らなかったようだな」
「あ、はい、いえ、これは小説ですよね?」
「ああ、小説だ。が、小説だからすべて作り事というわけではない。私の知っている範囲ではすべて事実だ」
「そ、そんな馬鹿なことが…」
「そう、そんな馬鹿なことが実際にあったのだ。趙駱はその時清漢宮にいて槙羅が『閭黄』を討った場面を見ている。実際のセリフは違うかも知れぬが、こういうことがあったのは間違いない。で、その場にいたのは櫨家の人々と槙羅、趙駱、光月と言う慶の官三人だけで、櫨家の人々はこの後事実を誰にも告げずに蓬山に向かい王位を返上し身罷っている。槙羅は『閭黄』の顔を切り刻み、身元をわからなくしている。従って清漢宮ではいまだに誰が『閭黄』だったかを知るものはいない。慶でも緘口令が布かれたので洩れることはない。なのに『大兄』というものは事実を知っていた。なぜか、な」
「誰も知らない、はず?」
「そうだ。私は秀絡にも洩らしていないし、傲霜に残っている昭媛も知らない。遣士ですら知らないものもいる。此度のことがなければ利広が『閭黄』であった事実を抱えたまま身罷るものも多かったろう。だが、暴露されてしまった。おそらくは供王や劉王を揺さぶるつもりだったのだろう。あの二人は利広との縁が深い、それゆえ何も知らせていない。恭や柳の遣士たちはこれらが二人の耳に入らぬよう注意する役割を負っている。百年以上経っているのでそろそろという声もある。が、敢えて口にする必要など誰も感じていないはずだ。影響が計り知れないからな」
「それが供王の耳に入ってしまった…」
「おそらくは今は劉王にも知らせているだろう。下手な話を聞かされるよりはずっとましだからな。私が来た理由の一つはそこにある。趙駱とて無能ではないが、如何せん当事者だ。冷静に受け止めるには時間が必要だが、そういう余裕がない。…秀絡、『大兄』と聞いて誰を思い浮かべた?」
「楽俊さん、大河兄さんはそんな…」
「やはりな。昭媛は置いてきて正解だったな。秀絡でさえこの有様だ」
「…どういうことですか?」
「『大兄』といえば一族の年長者のことも言う。つまり朱旌ならば首領という意味にもなろう。普通はそこに頭が行く。朱旌の小説の作者だからな。なのに自分の兄のことを真っ先に口にしたというのは冷静さを欠いているか、思い当たる節があるかだ」
「楽俊さん!」
「違うというのか?」
「…違いません」

秀絡は楽俊に問い返されて俯き、その応えは小さなものだった。そんな秀絡の様子を見ても楽俊は変わらない。予め想像した範囲内の反応だったからだ。しかし、楽俊の後ろに控える少麓は気が気ではない。が、ただ見ているしかできない。楽俊は秀絡から眼を離さずに言った。

「啓鷹、宗台輔と王探しをした時に『櫨家飯店』で秀絡の祖母の臨終に立ち会ったらしいが、その時変なことを言っていたとか?」
「はい、王になる器、玉と言っていましたが、大河は玉にならぬように育てたと。影にしかならぬとか。玉は別にいるとも。それで大河の弟妹や子供らを見て回り、秀絡にたどり着いたのですが…」
「そのようなことが可能だと思ったか?」
「玉にならぬように育てることですか?いいえ、臨終間近の戯言だとその時は思っていました。ですが、今は…」
「怪しいと?」
「はい。誰も知りえぬことが洩れるように、誰もなしえないことも出来るのではないかと思い始めています。不気味ですが」
「正直な奴だな。秀絡がいるのを忘れていないか?」
「いえ、これくらいのことなどなんでもないと思いますので」
「ほぉ、信頼されているな、秀絡?」
「茶化さないで下さい。…つまり、大河兄さんは黒に近いと?」
「可能性は否定できない。が、証拠もなければ確証もない。だから直接あって確かめるしかないと思っている。もちろん、大河が『大兄』でなければ良いとも思うが、もしも『大兄』であっても認めるわけはないと思っている。ところで、大河の娘の少姐が交州に戻ったそうだな」
「はい、去年くらいから家督の譲り渡しを始めていたようで、この春に正式に家公になりました」
「何?少姐は阿岸から戻ってすぐに家公になったのか?」
「はい、大河兄さんは私が宗王になり、やがて孤児も出なくなるだろうから他の国で舎館を始めたいと言っていました。少姐が戻ってきたらすぐにでも出かけるようなことを…」
「どこに行ったんだ?」
「とりあえずは烏号に行くと。もしかすると別な場所に行くかもとか…」
「つまり、大河は交州にはいないということか?」
「さぁ… 出かけるときには私にも一言くらい挨拶して行ってくれると思うんですが、今のところはまだ」
「ではまだいるのかな?ならば会って来ようか」
「今からですか?」
「騎獣の用意を、と連絡はしたはずだが?」
「いえ、では行きましょうか」

秀絡はやや俯き加減に言った。趙駱と靖嵐は隆洽に残り、楽俊、秀絡、春陽、少麓、啓鷹の五人は交州に向かった。趙駱は頭を冷やしたいと固辞し、靖嵐は人数が多くなりすぎるからと辞退したのだ。交州につき、『櫨家飯店』に行ってみると様子がおかしい。どうやら舎館は休みのようである。一同は訝しげに舎館の中に声をかけた。出てきたのは白い袍を纏った少姐である。少し目が赤い。舎館の前に立つ面々を見て驚いたようだ。

「秀絡叔父さん!もう知らせが届いたのですか?」
「知らせ?何のことだ?」
「父さんと母さんが烏号で…」

訝しむ秀絡の前で少姐は声を上げて泣き出した。少麓が少姐を抱くようにして話を聞こうとする。楽俊が目配せをすると啓鷹はさっと府第へと駆け出していく。

「少姐、一体何があったんだ?烏号ってもうあっちに行っていたのか?」
「一月前に様子を見に行ってくると… ホンの数日で帰ってくるって言っていたのに…」
「一月前?行く前には知らせてくれると思ったのに…」
「いいえ、どんな様子かを見てくるだけだから叔父さんには知らせなくてもいいだろうって父さんが…」
「義姉さんも一緒だったのか?」
「ええ、母さんも一緒に…」

少麓とは反対側から顔を覗き込むようにして秀絡が少姐からポツリポツリと話を聞きだしているうちに啓鷹が戻ってきた。啓鷹は秀絡に聞こえないように楽俊や春陽に報告をする。

「今朝方ついた船で大河と細君の旅旌が烏号から送られてきたそうです。何でも匪賊に襲われたとか」
「亡骸は?」
「襲われたのは半月以上前のことだったらしく、殺した上、身包み剥がしてうち捨てたようです。荷物などを売りさばくうちに足がついたようで、旅旌だけが戻ってきたとか」
「あれは喪服というわけか…臭いな」
「あれが芝居だと?」
「そこまでは言わぬが… その船というのは烏号をいつ発ったのだ?」
「七日ほど前だそうです。『花朗陰陽』が演られる前ですね」
「うむ…」

楽俊は泣き続ける少姐とそれを宥めようとしている秀絡と少麓を見つめ、眉を顰めて呟いた。

「これで糸が切れたのか…」

楽俊たちは少姐に弔意を示してそのまま交州を後にした。





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最終更新日  2006年05月11日 12時10分24秒
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