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2006年05月18日
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「春の予感(その4)」

黄海の中心にある五山の東峰、蓬山。その麓にある蓬廬宮には麒麟の卵果の生る捨身木があり、麒麟の幼獣たちもここで育てられる。麒麟を己がものにすれば王になれると勘違いした不届きものが麒麟に危害を与えたりせぬように郭壁で囲われた上に呪で結界が張られている。蓬廬宮の外郭から十里離れた場所から結界は張られており、並みのものでは蓬廬宮の郭壁まで近づくことすらできない。それでも呪に鈍感な輩が紛れ込むので、女仙たちが力づくで排除することもある。飛仙とはいえ、その力は甚だしく、武装した一旅くらいの兵では一人の女仙で容易に対処できる。大概は元来た道を戻らせるが、悪質な場合は首と胴が離れることになる。この結界は蓬廬宮に麒麟がいるかどうか、その麒麟がどのような状態かで強さが変わってくる。捨身木に卵果が生っている時は最も強く、三里手前で最終警告が発せられることになる。かつて劉王・頑丘が蓬山を訪れた時がそうであった。その際は特例で認められたが、通常はそれより先に進むことなどできぬし、もしも進んだとしたら命の保証などありえない。逆に結界が最も緩いのは昇山の時期である。麒麟が成獣になり、王の選定の時期に入り、その国の民が大挙して蓬山を目指して黄海を渡ってくるのである。このときばかりは蓬廬宮の外郭の外にある結界は殆んど感じられないくらいの弱さに抑えられる。とはいえ、人はなんでもないが、妖魔などはなんとなく先に進みたくなくなるようなものだ。だから、時折騎獣が蓬廬宮の三里手前で四肢を突っ張って前に進まなくなったりする。剛氏たちはなれたもので、そういう騎獣には玉の欠片を鼻っ面に見せるようにして、結界を越えさせる。もちろん彼らは自分たちも先に進みたくないと感じる時には決して踏み込まない。それは養い親たちから叩き込まれたことだからだ。剛氏たちに先導されて才の民たちが蓬廬宮の外宮、甫渡宮にたどり着いたのは春分に令乾門から入ってから一月弱、三月十二日のことだった。才の民二百人、剛氏四十人ほどで出発したが、才の民は二十人ほど減っていた。途中列からはぐれ、それきりになったものたちである。彼らははぐれてから一日と経たないうちに妖魔の腹の中に納まっただろう。平均すれば一日に一人くらいずつ減っていったことになるが、剛氏たちに言わせれば『平穏な旅だった』そうだ。隊列が直接妖魔に襲われることもなく、被害が一割程度で済んだことは『鳳雛がいる』と感じさせるものだったらしい。その日は甫渡宮の周りに露営して、翌日から采麟による謁見が始まるらしい。その夜営で無病は呀孟に話しかけた。

「家公様」
「…様はいい。似合わないから字で構わない。呀孟と呼んでくれ」
「呼び捨てなどはできません。では、呀孟さん、先ほど剛氏と話をしていたら『鳳雛がいる』と言っていました」
「鳳雛?王になるものがここにいるというのか?なぜだ?」
「ここまでの旅程が平穏だったからだそうです。時折人は減っていましたが、集団が襲われることもなかったし、野営地でも何事もなかった。妖魔のせいで逃げ出すこともなかったのは珍しいそうです」
「そうなのか?途中水や薪では随分と苦労したが?」
「あれは苦労のうちには入らないそうです。何もないのが当たり前、あればメッケモンとでも言うのでしょうか。我々は仙と言うこともありましたが、他のものも誰一人餓えも渇きもしていませんでした。普通はありえないとか」
「彼らにしてみればそうなのだろうな。常に死と隣りあわせで生きている彼らだから思うのだろう」
「で、この後どうするのかと訊かれました」
「この後?どういうことだ?」
「令坤門までのことです。鳳雛がいて王が決まったならば、すぐにでも令坤門の方に移動したいそうなんです。才の民ですから坤城の黄海側にいる州師に守ってもらえるってこともあるのでしょう」
「なぜ急ぐ必要がある?四月の中旬を過ぎた頃にゆるゆると帰路につくのが普通ではないのか?」
「通常はその辺りまで昇山者の拝謁が続き、その間に彼らはこの近辺で狩りをするそうです。が、鳳雛がいるときは別だそうで。というのは、鳳雛は帰りにはいないってことです。往きが楽だった分、そして王が決まったということで皆が慎重さに欠け、妖魔を呼び寄せやすくなるのだそうです。実際、鳳雛が蓬廬宮に入り、残りの面々が帰路についてすぐに襲われたこともあるそうです。今回は昇山者の数も多くなく、拝謁もすぐに終わりそうだから、この辺りに留まる理由もないのだそうで」
「なるほど、坤城の近辺まで連れて行けば役目は終わりだし、その後に狩りをする時間も取れるというわけか。もし、鳳雛がいれば帰りが危険になるからどうにかしたいというのは判るが…」
「この近くは黄海では最も安全な場所ですからね」
「そうだ。まぁ、二百人くらいなら州師の中に紛れることも不可能ではないが、安全はここの比ではない。これだけ見晴らしのいいところで火を焚いても安全だなんて信じられぬよ。だが、この安全になれるのも怖いな」
「では?」
「王が決まればここに留まる理由はない。すぐに帰路についても構わないだろう。まぁ、数日は興奮を抑えなければ拙いがな」
「…興奮しますかね?」
「少なくともその連れは興奮するだろうさ。そのものの興奮が収まり次第出立で構わぬ。が、あくまでこれは王が決まった場合だ。この中に王がいないときは四月の中旬まで留まることになろう。…長い一月になるやもしれぬがな」
「……」

自嘲気味に呟いた言葉に無病は返す言葉がなかった。呀孟も無病もその夜は久々に熟睡した。黄海に入ってから初めてのことである。翌朝、準備を整えてからしばらく経った頃、蓬廬宮の門が開き、采麟とそのお付の女仙たちが甫渡宮へと向かった。彼女らが甫渡宮に収まり、最初に拝謁するのはやはり、呀孟と無病の二人である。旅装とは別に唯一持参した衣冠を調え、采麟の前に平伏し、言上した。

「私は揖寧の長閑宮にて仮朝の長を務めております、洪勇、字を呀孟と申すもの、これは私の補佐で陳大、字を無病と申します。私は前王の時代より冢宰を任じ、王や台輔を補佐する立場にありながら、王や台輔が身罷ることを防げませんでした。また、空位の時に仮朝の長として民の安寧を図る立場にありながら、無為無策にて多くの民に塗炭の苦しみを味あわせ、黄泉に旅ださせたりもしました。このような私がこれ以上仮朝の長に留まるのはよくないと思い、罷りこしました」
「冢宰!」

呀孟の言上に思わず無病は顔と声を上げていた。一方、采麟は何を言われたのかわからぬ様子で傍らの女仙を見た。女仙は采麟に頷き返すと、呀孟に向かって問い質した。

「洪勇とやら。お前は何をしにここに参ったのじゃ。王としての選定を受けんとしてではないのか?」
「もとより、王としての選定を受けられるとは思っておりません」
「それはお前が洪氏だからか?確か前王は洪雲とか申したな。一族か?」
「はい。祖父同志が兄弟だったと聞いております。しかし、私は長閑宮では本姓を名乗らず、孫氏を名乗っておりましたので、王はそのことに気付いていなかったと思います」
「前王はお前が一族だと気付かずに冢宰に任じた間抜けだと言いたいのか?」
「そ、そういうわけではございません」
「ならばどういう意味だ?」
「一族ということで取り立てられたとは思っておりません」
「だが、お前は無為無策で無能だと告白したのだぞ。そのようなものを冢宰にした王はやはり間抜けか?」
「そ、それは…」
「では聞くが、王になろうという気もなく、なぜ昇山した?」
「蓬山公に私のことを処断していただきたく参上したしました」
「処断?何をもって処断せよというのか?」
「蓬山公の民を私の無能ゆえに多く喪ったことに対してです」
「異なことを言う。公はまだ才に行ってはおらぬ。その任にはない」
「し、しかし!」
「くどい!処断して欲しければ新たな王に頼むがよろしかろう。他になければ下がるがよい」
「は、はい」

呀孟と無病は思わず平伏し、そのまま膝行して下がろうとした。が、その時か細い声がそれを止めた。

「待って」
「はい?」

小さいがよく通る声が無病の耳を打ち、思わず返事をし、顔をあげてしまった。無病の隣で呀孟も動きを止めている。その声はどうやら采麟が発したようだった。先ほどから受け答えをしていた女仙が采麟に問うた。

「公、いかがいたしました?」
「そちらのものはよくわかったが、あちらのものは?」
「洪勇のお付でござりますが、それが?」
「良く見たい」
「わかりました」

御簾の向こう側のやり取りは無病たちには良く聞こえていない。采麟と話をしていた女仙が無病に言った。

「陳大とやら、前に」
「へっ?」
「前に出よといったのじゃ。早くしないか!」
「は、はい」

思わぬことに無病は慌てて膝行し、最初に平伏した場所まで進み、そこで平伏すると、更に前へ進めと命じられた。御簾の前まで進むと顔を上げよと命じられ、言う通りにした。御簾越しにうっすらと采麟の姿が見えた。その瞳が自分を見据えている。と、采麟が御簾を上げるように命じたらしく、スルスルと巻き上げられていく。無病はぽかんと上がっていく御簾を見ていたが、視線を感じて顔を戻すと金髪の少女と眼があってしまった。その表情は笑っているように見えたが、無病は慌てて平伏した。しかし、その手をひんやりとした小さな手が掴んだ。そして、耳元で先ほどのか細い声が囁いた。

「どうか、お立ち下さい」
「え?」

無病が吃驚して顔をあげると目の前に金髪の少女が跪き、じっと無病を見つめていた。無病がフラフラと立ち上がると、金髪の少女は無病の前に額づき、誓約の言葉を発した。

「天命をもって主上にお迎えする。御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと誓約申し上げる」
「…許す」

無病は自分以外の誰かが勝手に答えたように思えた。それくらい自失していた。ふと周りを見ると女仙たちも呀孟も平伏している。なにやら寿ぎの言葉が述べられているようであるが、無病の耳には届いていない。無病がぺたんと腰を落とすと心配そうに采麟が覗き込む。こうして無自覚のまま、陳大、字を無病、は采王となったのだった。





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最終更新日  2006年05月18日 12時10分51秒
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