シンドラー社の態度には怒りがこみ上げてくる.このブログに責任論を
書いて同社を非難すれば少しは怒りが収まるかもしれない(あるいは
逆に,ますます怒りが増大するかもしれない)が,そういうことは他の
人が山盛りやっているから,ここでは別のことを書くことにする.
一技術者として,多発している同社のエレベータの不具合原因を報道
内容から探ってみたい.とは言っても(既に書いたとおり)私はエレベー
タの専門家ではないので,エレベータ固有の技術はあまり知らない.
あくまでもプログラマ(そして元電子技術者)の視点から,一種のメカト
ロニクス機器の不具合について考察するというスタンスである.
報道されているシンドラー社エレベータの不具合内容をリストにしてみた.
(1) ドア全開のまま,突然カゴが上昇して今回の死亡事故が発生.
救出後,作業員が電源を切ったにもかかわらず,最上階を越えて
天井寸前まで急上昇.
(2) 1階から乗ろうとしたら突然ドアが閉まって1階から5階に急上昇し,
その後地下1階まで落下した.
→ 原因はビスが抜けて重りが外れたとのこと.
(3) 1階から上昇,4階を通り越しエレベータ室内の天井に衝突.
→ 原因はエレベータの速度を制御する着床装置(上昇用スイッチ)
の誤動作で,高速運転から減速する切り替えに遅れが生じたとのこと.
(4) 止まるはずのない階に止まる.(そして落下したこともある.)
(5) 止まるべき階を通過する.
(6) ドアが開かず閉じこめられる (業界用語で「缶詰め」).
(7) 閉じこめられたまま,1階と6階の間を何度も往復.
(8) 外側のドアは閉まったが,内側のドアは開いたまま動き出した.
(9) ドアが開いたまま動かなくなる.
(10) 床に段差ができる.
(11) 20階の建物なのに「23階」と表示される.
(12) 地震後に不具合が多発.
(13) 運転中に振動・異音がする.
(14) ドアが斜めになる.
以上の各々のケースについて,原因を推測してみる.
●(1) のケース
救出前と救出後に分けて書いているが,これは犠牲者が挟まれて
カゴの上昇が妨げられたためで,人がいなかったら(あるいは挟
まれていなかったら)次のようになっていたはずである.
ドアが開いたまま突然カゴが急上昇し,最上階を越えて天井
寸前まで達した.
電源(制御装置とモーター両方の電源と解釈する)を切っても
上昇したとあるから,原因は制御装置でもモーターでもなく,
ブレーキが利かなくなった結果上昇したと考えられる (空のカゴ
よりもカウンターウエイト(カゴと釣り合わせるための重り)の
方が重いため).
「エレベータはドアが閉まらなければ動き出さないように制御
されているのであり得ない事故だ」といった業者のコメントも
あったそうだが,最終的にカゴを止めるのはブレーキなので,
それが利かなくなれば制御装置や安全装置がどんなに頑張って
止めようとしても動き出してしまう.
(6/9 追記:カゴを吊っているワイヤが切れた場合にカゴを止
めるための落下防止装置もついているそうだが,今回はワイ
ヤが切れたわけではなく,また落下ではなく急上昇なので働
かない.)
ではなぜドアが閉まらなかったのか? それは,制御装置からの
指令でカゴが動き出したわけではないからである.制御装置が
カゴを動かす場合,制御装置はそれに先だってドアを閉める
指令を出す.そしてドアが完全に閉まったことを確認した後,
カゴを動かす指令を出すはずである.しかしこのケースでは,
制御装置はカゴを動かそうとはしていないにもかかわらず,
上記の理由で動き出してしまった.そして制御装置はその事実
に気がついていないので何の指令も出さない.もし気がついた
としても,ドアを閉めようとするのではなく,ブレーキをかけ
てカゴを止めようとするだろう.しかしブレーキは利かなく
なっている….
結論:この事故は,ブレーキが利かなくなったために発生した.
(この事故に関する限り) 制御装置や安全装置に異常があった
と考える理由はない.それらが正常に働いていても,それらの
「手が届かなくなってしまった(つまりブレーキ故障のために
制御できなくなってしまった)所」,「気付かない所」で起き
たものと言える.
その他のケースについては,後で追記します.今日はもう寝ます.