最近,IT分野でインドが台頭してきているという話題がテレビでも時々取り上げられる.
そのとき使われるのが,「0を発見したインド人は数学が得意」という決まり文句だ.
さらにたたみかけるように,「日本人は九九を覚えるが,
インド人は2桁の掛け算を暗唱する」と続く.
そして「インド人IT技術者は数学が得意」と結論づける.
ちょっと待ったぁぁぁ!!
いや,「インド人全員が数学が得意なのか?」という
揚げ足取りのツッコミをするつもりはないし,
0の発見を軽視してインド人を貶める意図も全くない.
0の発見は確かに数学上の重大な進歩だと思う.
しかし,
数学に大きな貢献をしたのは
インド人だけなのか?
幾何学を体系化した古代ギリシャは?
代数を発明し,「アルジェブラ (代数)」や「アルゴリズム」
という言葉にその名残をとどめるアラブは?
近世から現代に至る数学の大発展の立役者はヨーロッパではないか!
大変申し訳ないが,インド人の数学者で名前が思い浮かぶのは,
奇才ラマヌジャンぐらいしかいないなぁ.今,Wikipedia の
ラマヌジャンの項目を調べようとして,インドの数学者という項目を
見つけた.ラマヌジャン以外には1人しか記載されていない.
ブラーマグプタ? 聞いたことがないなぁ.英語版 Wikipedia の
Indian mathematicians の項目には多数のインド人数学者が
リストアップされている.物理学のボース=アインシュタイン統計で
有名なボースや,天体物理学者のチャンドラセカールも載っている.
数学者とはちょっと違うけど.
結局,マスコミがことさら0の発見ばかりを取り上げるのは,次の理由によるのだと思う.
- 数学の苦手な人でも,0の発見の重要性は理解できる.
- マスコミ自身が数学および数学史に全く無知で,
0の発見以外の数学的進歩の内容を知らない.
(つまり一般の数学の苦手な人と同レベル.)
次に,2桁の掛け算について.
ソロバンの達人は暗算も得意だそうだ.
頭の中にソロバンを思い浮かべて暗算するのだという.
2桁の九九を暗唱できるから数学が得意というのなら,
ソロバンの達人は皆,大数学者になっているはずだ.
「計算が得意」なのと「数学が得意」
なのは同じではない.
数の表現方法や計算方法を考える(位取り記数法や
筆算方法の発明など)のは数学的能力だが,それらの
方法を使って正確かつ能率良く計算を遂行する能力は全く別.
IT技術者の場合,自分で計算するわけではなく,
コンピュータに計算させる方法を考えるわけだから,
計算 (掛け算) 能力ではなく数学的能力が重要だ.
もっとも,大数学者ガウスは数学も計算も両方得意で,
大量の計算結果から数学的発見をしたそうだし,
フォンノイマンは8桁の暗算ができたそうだ.
この日記を書いている最中に気がついたことがある.
数としての0の発見はさておき,
数字としての0と位取り記数法は対になっている.
これを用いると,どんなに大きな数の計算も
1桁同士の計算に分解して行うことができるので,
2桁以上の計算を暗記しておく必要などなくなるのだ.
つまり気付いたこととは,
位取り記数法と0を発明した当のインド人が
2桁の掛け算を覚えようとするのは,
矛盾しているようでちょっと面白い,
ということである.
余談:掛け算に関連して,10年以上昔,テレビで聞いた話を思い出した.
平安京 (平城京だったかも) を碁盤の目のような等間隔に区切るのに,
当時中国から伝来したばかりの「最先端数学」である乗除算を活用したらしい.
(確認しようと思って検索したが,それらしい話題は見つからなかった.)