カテゴリ:本の感想(ま行の作家)
松尾由美『銀杏坂』 ~光文社文庫、2004年~ 不思議な設定でありながら、すっとその世界に入っていけるような松尾由美さんの連作短編集です。今回は、金沢市をモデルにした、少し変わった世界の、刑事さんが主人公です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ーーー 「横縞町綺譚」 幽霊が住むというアパートで、住人が宝石をなくしたと届け出た。木崎刑事と若い同僚の吉村が捜査を進める中で、二人は本当に幽霊を目撃することになる。そして衆人環視状況の中で消えた宝石の行方は…。 「銀杏坂」 刑事部長の安岡から呼び出された木崎は、また妙な事件(?)に関わることになる。安岡の親戚にあたる女性は、昔から予知夢を見ると評判だった。そんな彼女が、近い内に夫を殺す夢を見たという。予知夢になるのではと心配する女性に、木崎は過去の予知夢が本当に全て現実に起こったのか証明することで、安心させようと試みる。 「雨月夜」 雨の夜、男が何者かに襲われた。その男が犯人の心当たりとしてあげた人物は、眠っている間にもう一人の自分が徘徊するという…。木崎たちはその生霊を目撃するが、はたして事件の犯人は…。 「香爐峰の雪」 休日、ふとある寺院の石段をのぼった木崎は、二人で遊んでいる子どもたちに出会った。少女の言葉にしたがって、少年はビー玉を浮かせていた。感心して見ていた木崎だが、その近所でいわゆる密室状況での殺人が起こったのを機に、二人の子どもたちが急に気がかりになる。 「山上記」 幽霊アパートを発端に、いくつもの奇妙な事件を経験した木崎は、ある事件を捜査する中で、ふたたびあの幽霊と出会う。そして木崎は、あることに気づき…。 ーーー 読了から感想を書くまでにちょうど2週間かかってしまいましたが、メモを書いておこうと思っていたせいか、案外内容も覚えていました。 この中では特に「香爐峰の雪」が(悲しくもありますが)美しい、と思いました。 松尾さんの作品では、だいたい本書のように幽霊が出現するなど、なにげなく日常を過ごしている私たちには「非日常」な要素が登場し、そしてそれがうまくとけ込んでいます。突飛な設定でも、無理がないですし、そうした「非日常」の要素をふまえつつ、作品内での論理性もしっかりしているのですね。ここが松尾さんの作品の魅力だと思います。 ずいぶん前に購入していましたが、表題作にある「銀杏」の言葉にあわせて、読むのを秋まで待っていました(今年はものすごく暑い日が続いたと思ったら急に冷え込んできて、あまり「秋」を感じられませんでしたが…)。楽しい一冊でした(ただし最終話がやや??でした)。 (2010/11/06読了)
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