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2021.10.03
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滝浦真人『新しい言語学―心理と社会から見る人間の学―』
~放送大学教育振興会、2018年~


 放送大学教材です。以前読んだ、​高橋英光『言葉のしくみ―認知言語学のはなし―』北海道大学出版会、2010​が面白かったこともあり、あらためて言語学にとっつきやすそうな本書を手に取ってみました。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
まえがき(滝浦真人)
1 なぜ「新しい言語学」か?―新旧の違い―(滝浦真人)
2 認知言語学(1)―事態の捉え方と言語表現―(森雄一)
3 認知言語学(2)―比喩―(森雄一)
4 認知言語学(3)―カテゴリー化、多義語と意味変化、文法化―(森雄一)
5 認知言語学(4)―認知言語学と命名論―(森雄一)
6 言語習得論(1)―母語の習得と臨界期―(松井智子)
7 言語習得論(2)―概念の獲得と語彙学習―(松井智子)
8 言語習得論(3)―多言語環境における言語習得―(松井智子)

9 語用論(1)―言外の意味とコミュニケーション―(滝浦真人)
10
 語用論(2)―意味論から語用論へ―(滝浦真人)
11
 語用論(3)―日本語の語用論―(滝浦真人)
12
 談話分析―話しことばの連なりから見えてくること―(熊谷智子)
13
 社会言語学(1)―社会におけることばのバリエーション―(熊谷智子)
14
 社会言語学(2)―ことばの変化、ことばへの意識―(熊谷智子)
15
 心理と社会から見る人間の学(滝浦真人)

索引
―――

 第1章は言語学の研究史。ソシュールとその影響による「構造主義」、ヤーコブソンの音韻論、チョムスキーの生成文法といった言語そのものに焦点を当てた研究を「旧言語学」と整理し、人間の心理、認知、社会との関係を重視する動向を「新しい言語学」とします。
 第2~5章は認知言語学の概説。第2章は「が」や「に・て」の使い方、受動態の使い方など、事態の捉え方から言語表現の在り方を見ます。第3章は比喩表現について(先述の『言葉のしくみ』の記事も参照)。面白いのは、「~のようだ」と比喩であることを示す標識を含む直喩(シミリー)の優位点を指摘する部分で、「君は豆腐だ」と言われても意味不明ですが、「君は豆腐のようだ」と言われると、なにかたとえようとしていることは分かる。というんで、標識に支えられて思い切った飛躍ができる、というのですね(42頁)。第4章で興味深かったのはカテゴリー化についての議論で、「ツバメも一応鳥だ」はおかしいですが、「ペンギンも一応鳥だ」はあまり違和感がない。このように、典型例の有無による認識について紹介されます。第5章の命名論では、「表示性」と「表現性」という概念が紹介されます。たとえば犬を「ポチ」と名付けるのは表示性(名前だけで犬とイメージしやすい)、「ゴーゴリ」と名付けるのは表現性が強い(名前だけでは何かイメージできないが印象に残る)、というのですね。
 第6~8章は主に子どもが言語を獲得する過程についての議論です。面白かったのは、確信的な話し方(これは〇〇だよ)と確信度が低い話し方(これは〇〇かな)を聞かせると、確信度の高い話し方の方を信じるようになる、という事例です。また、第8章では、外国語学習をあわてて行うことにはデメリットもあることが指摘されます。
 第9~11章の「語用論」は、「人が言葉を用いて何を為すか」を問う領域です。第9章では言外のコミュニケーションが扱われます。たとえば、「暑いですね」の言葉に「エアコンつけましょうか」と返すのは、意味というよりも発話者の「意図」を汲んでの返事です。また、グライスという研究者が提唱した4つの原則(必要なだけの情報量、真なることの発言、関連性をもって話す、簡潔に順序だてて話す)を紹介したうえで、実際にはこの原則からの逸脱で多くの会話が成り立つことを指摘します(「優しい嘘」など)。第10章はオースティンが提唱した「発話行為論」を取り上げ、批判も加えながら実際の在り方を論じます。第11章では「よろしかったでしょうか」のような対人配慮の「た」などの「た」の用法についての興味深い議論や、対人配慮、タメ語と敬語についてなどが紹介されます。本書の中で「語用論」は特に興味深かったテーマの1つです。
 第12章は会話の在り方の分析、第1314章の「社会言語学」では方言や若者言葉などの集団語や、流行語などについて論じます。
 第15章は本書全体の明快なまとめとなっています。
 と、各章について簡単にメモとなりましたが、全体として面白く読みました。

(2021.07.07読了)

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Last updated  2021.10.03 12:09:00
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