泡坂妻夫『湖底のまつり』
~創元推理文庫、1994年~
泡坂妻夫さんによるノンシリーズの長編です。
仕事に疲れ、鄙びた村を訪れた紀子さんは、散策中、急激に増量した川に流されたところ、一人の人物に助けられます。埴田晃二と名乗りますが、翌日、その時点ですでに晃二は死んでいた―おそらく毒殺されていた、ということを知ります。
事件のことを調べ、あらためて村を訪れた紀子さんですが、一度目に訪れていた時点で着々と進んでいたダム工事の影響で、すでに村は湖底に沈んでしまっていました。そんな中、何人かの関係者を見つけて…という大筋です。
紀子さん、晃二さんなど、主要人物のタイトルをつけられた4つの章からなり、それぞれの主観で一つの事件が描かれる、という構成です。
以前に紹介した『11枚のとらんぷ』『乱れからくり』に比べると、言い方は悪いかもしれませんが事件自体は地味な印象ですが、そもそも物語が幻想的に語られるなど、過去2作とは全く異質の作品(ミステリ)です。解説の綾辻行人さんも指摘されているように、本書は「見事な「騙し絵」」となっています。
(2022.06.18読了)
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