吉本ばなな『白河夜船』
~角川文庫、1998年~
夜をテーマにした3編の作品が収録された短編集です。
「白河夜船」は、友達を亡くしたことを不倫関係にある恋人に伝えられない「私」の一人称で語れます。眠りに憑かれそうなほどに、眠りこけてしまうようになった「私」は、恋人からの電話だけは気づけます。恋人との出会い、亡くなった友達との思い出、そして今、疲れ切っている恋人やその妻のことなどが語られます。
「夜と夜の旅人」は、亡くなってしまった大人びた兄と、兄の恋人たちの物語です。かつて兄と付き合っていたサラに書こうとした手紙のシーンから物語は始まります。
そして兄に恋していたいとこの不安定な行動や思いやサラの言葉、「私」自身の回想から、現在進行形では登場しない「兄」の存在感が強く浮かび上がってくる物語でした。
「ある体験」は、「私」が一人の男をめぐって争っていた女性との回想の物語です。酒量が増えてしまい、眠りにつくときに不思議なメロディーが聞こえるようになった「私」は、知人の紹介で、奇妙な体験をすることになります。
なんとも紹介が書けなくなってしまっていますが、3編の中では「夜と夜の旅人」が好みでした(ので、感想も上に書けました)。
「ある体験」も、その「体験」により、主人公は自分自身の思いに向かい合うことができます。こちらも印象的でした。
順番は前後しますが、表題作は様々な回想と現在の状況を織り交ぜながら物語が進みます。主人公自身の特殊な状況と、恋人の妻の状況が奇妙にリンクし、また恋人の苦しみも浮かび上がってきます。
(2023.04.03読了)
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