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2023.12.02
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Claude Bremond, Jacques Le Goff et Jean-Claude Schmitt, L'«exemplum» 2e éd., Turnhout, Brepols, 1996, 180p.

クロード・ブレモン、ジャック・ル・ゴフ、ジャン=クロード・シュミット『例話』(西欧中世史料類型第40分冊)第2版(初版1982年)
A-VI,C.9
A.文献資料
VI.
宗教・道徳生活の史料
C.道徳的史料
9.例話
*   *   *

 レオポール・ジェニコが創刊した叢書『西欧中世史料類型』からの紹介です。今回紹介する第40分冊は、「例話」(教訓逸話とも訳されます)を扱います。

 本書の構成は次のとおりです。(拙訳)

―――
緒言(ジェニコ)
前書き

第1部 中世の「例話」(ル・ゴフ)
 参考文献
 第1章 定義と諸問題
 第2章 「例話」の諸類型
 第3章 発展
  第1節 「例話」の諸段階(ル・ゴフ)
  第2節 「例話」の集成(シュミット)
 第4章 批判の規則
 第5章 校訂版と目録
 第6章 歴史的関心
 第7章 「例話」と民俗(シュミット)
第2部 ジャック・ド・ヴィトリによる「例話」の構造(ブレモン)
 第1章 統辞的構成―「例話」の諸部分
 第2章 範列的調査目録
第3部 説教のなかの「例話」(シュミット)
 第1章 語られた説教と書かれた説教
 第2章 「身分別」説教と「例話」
 第3章 説教のレトリックにおける「例話」

参考文献補足(1982年~1995年)(ジャック・ベルリオーズ)
―――

 中世の「例話」については、邦語では以前紹介した​アローン・Ya・グレーヴィチ(中沢敦夫訳)『同時代人の見た中世ヨーロッパ―13世紀の例話―』平凡社、1995​が基本文献ですが、そこでも引用される、最も基本的な文献が本書です。
 第1部は、この叢書の通常の構成に沿った内容となっています。
 その第1章でのジャック・ル・ゴフによる、「救済をもたらす教訓によって聴衆を説得するために、語り(通常は説教)のなかにはさまれる、真実味ある短い物語」(pp.37-38.この訳は​大黒俊二『嘘と貪欲―西欧中世の商業・商人観―』名古屋大学出版会、2006​、126頁から引用) という例話の定義は、大黒先生も前掲書同頁で「的確な定義であり、つけ加えることはない」としているように、現在も基本的には受け入れられています(というのも、グレーヴィチ前掲書30頁は、その不完全性を指摘しています)。
 第2章は、ルコワ・ド・ラ・マルシュ(​Albert Lecoy de la Marche, La chaire française au Moyen Âge. Spécialment au XIIIe siècle d’après les manuscrits contemporains, Genève, 1974 (1886)​)などの先行研究での例話分類を概観したのち、本書としての基準を提示しますが、その基準はやや複雑で、先に引用した定義と比べると、あまり他の研究で言及されていないように思われます(再びグレーヴィチ前掲書30頁は、むしろ1886年のルコワ・ド・ラ・マルシュの分類を採用しています)。
 第3章は、まず第1節で、第1章で定義される例話の前史として、古代、初期キリスト教の時代から例話をたどり、13-14世紀の説教に挿入される例話、そして中世以後の例話の流れを概観します。またその第2節では、説教に挿入された例話を抽出し、例話だけをまとめた「例話集」に着目し、アルファベット順や関連する例話への参照など、例話の探しやすさの洗練などの特徴を見ていきます。
 第4~5章は省略し、第6章は、例話に描かれる「現実性」やレトリックなどの、例話への研究者の問題関心を提示します。興味深いのはシュミットによる第7章で、ここでは例話と民俗の関係に着目し、口頭伝承の影響、民間信仰、ことわざなどに関する議論が展開されます。
 第2部は、このブログでもたびたび言及しているジャック・ド・ヴィトリという聖職者・説教師による例話を主要史料とした、その構造面に着目した議論となっています。私にはやや抽象的な議論もありますが、特に面白いのは、例話の情報源に関する分析です。少なくともジャックの例話には、先の定義にもあったように真実味をもたせるため、「私は次のような話を聞いた」とか、「次のような話を読んだ」といった、情報源に関する言及をもつ事例がほとんどで、ブレモンはその使用数を分析し整理してくれています。
 第3部は、これも先の定義にあったように、主に説教に挿入されるという中世例話の特徴から、説教と例話の関係に着目した議論です。特に、説教の聴衆の様々な身分・境遇に応じた「身分別説教集」と例話の関係を分析する第2章では、身分ごとの説教に挿入された例話の数を整理することで、俗人身分への説教に、より多くの例話が含まれていることを説得的に明らかにしています。
 本書初版は1982年に刊行されていますが、今回紹介したのは1996年刊行の第2版です。第2版では、巻末に、12頁にわたって、本書初版刊行以後に刊行された例話関係の史料校訂版・史料現代訳版、例話に関する研究が紹介されていて、こちらも有用です。
 個人的な思い出ですが、本書初版は卒業論文執筆時にかなり読んで勉強した思い入れの深い研究書です。このたび、第2版を購入し、久々に通読してみましたが、あらためて勉強になりました。

(2023.07.24読了)

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Last updated  2023.12.02 12:49:58
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